勝手に最遊記

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HAPPY BIRTHDAY!―2


「今日は悟浄の誕生日・・・。恐らく、プレゼントでも買いに行ったんでしょうけど。
・・・桃花を探します。協力してくれますよね、悟空。」それは問いかけると言うより、脅迫に近く。

「お、おうっ!命懸けで探すぞ!!」悟空が顔に縦線を引きながら、片手を天に突きだした。
『・・・取りあえず桃花より、八戒の方が恐いもんな。』 “遠くの恐怖より、目の前の恐怖”である。

「煩せぇな。放っておけばいいじゃねぇか。」バサバサと新聞を折り畳みながら、三蔵が眼鏡を外す。
「ですが、三蔵。桃花をこんな、柄の悪い町で単独行動させるなんて・・。」八戒が眉を顰める。
そんな八戒の顔をチラリと眺め、
「貴様、アイツを何歳(いくつ)だと思ってんだ?自分の責任が取れないガキじゃあるまいし。
・・ったく、過保護もいい加減にしやがれ。」

「それは・・判ってます、けど・・。」八戒にも三蔵の言わんとしている事ぐらい判る。
四六時中、側に居ることが良い事だとは思わない。
まして相手は桃花である。庇護される事を嫌う性格だ。
必要以上に守ろうとする事が、かえって桃花に精神的負担をかけているのも・・・自覚している。

「グダグダ言ってねぇで、茶ぁ。」ぞんざいに湯飲みを八戒に手渡す三蔵。ソレを受け取りながら、
「・・・判りました。桃花の好きにさせます。」ため息をわざとらしくつく。

三蔵は、そんな八戒を(頑なに)黙殺。悟空はドアの前で待機。(逃げ出したいらしい)
「どうぞ、三蔵。」三蔵が湯飲みを受け取り、飲み始めたのを眺めながら
「何かあったら責任をとって貰います。悟浄と・・・・三蔵に、ね。」
凄味を帯びた八戒の言葉に、思わずむせ返ってしまう三蔵であった。(既に悟空は脱出)

グゥ~キュルルゥ~・・・お腹の虫が大合唱である。
「・・・お腹、減ったぁ。」道端で座り込んだままグロッキー状態の桃花。

時刻はとうに昼を回り―――――――空腹が、限界値を振り切った。
次から次へとナンパするものの・・・上手くはいかず。なかには、「可愛いわね、キミならオッケーよv」
逆に自分をナンパするオネーサンが居たりして。

『もぉ、イヤかも・・・。』疲れと空腹で動けなくなっていた。
そこへ、
「ホラよ、ぼうず。コレでも喰え。」差し出されたホカホカの肉まん。「・・・へ?」
見上げると、日に焼けた顔の男がやけに愛想良く笑っている。「喰えよ。腹、減ってんだろ?」
「あ・・・はい。」“知らない人に物を貰ってはダメ”子供に言い聞かせるような言葉が脳裏をよぎる、が。
『ま、いっか。子供じゃないし。』・・・・ハグハグと口一杯に頬張っていた。

桃花が肉まんを食べ終わるのを待っていた男が、
「さっきから見てたんだけどよ。ナンパ・・してんのか?」「あはは・・俺の為じゃないっすけど。」
苦笑いしながら男を観察する。
年の頃は30代後半か。傭兵ほど、体つきはごつくもない。どちらかというと商人のような雰囲気だ。

「自分の為じゃない?」「デキの悪~い、弟の為っす。」悟浄はアレでも(?)桃花より年下だ。
「へー。」男が無遠慮に桃花をジロジロと眺める。「・・・なんっすか?」食べ物をくれた相手である。
桃花的には(一応)気を使っている(らしい)

「バイト、しないか?」「バイトぉ?」男はニコニコしながら、
「やっぱナンパするにしても金がないとな。女を引っ掛けたかったら、
お茶や食事にでも誘って腰を据えて口説かないと!」自信満々の男の言葉に、思わず頷く桃花。

・・・そっか~・・・あたしのナンパが通じないのは、お金の無い所為!?

「なっ!?だから、俺が短時間で割りの良いバイト、紹介してやるよ!」「短時間で?」
「俺の仕事は“紹介屋”だからな。前は人夫の紹介やってたんだけどよ、鉱山が閉鎖されちまってな。」
「あぁ・・・なるほど。」どうりで・・・肉体労働者っぽくないんだ、この人。

「2時間で5万だ。」「2時間で!?5万っ!!?」思わず大声が出る。そんなに割りの良いバイト!?
「すっげ~大変なバイト・・っすか?」妖怪退治とかだったらどうしよう・・・。不安がよぎる。
「ダイジョブ、ダイジョブ。俺に付いて来て。」男に促されて、歩き出す桃花。
危なそうだったら逃げ出しちゃえばイイかっ!そんな脳天気思考を、後で後悔する事になるのも知らず。


男に付いて狭い路地をくぐり抜け、裏通りへと足を進めて行く。『ぬぅ。どんどん怪しい雰囲気に・・・。』
路地に寝ころんでいる浮浪者。怪しげな袋を売っている者。裸に近い姿の娼婦。
太陽の光さえ翳(かげ)っているようなこの裏通りは、まるで夜中のような錯覚を覚える。

狭い裏通りに安いモーテルが連立しているその場所をすり抜けて、
やや高級感のある建物が建つ場所へと、男と共に足を進めてきた。

『へぇ。ここら辺は雰囲気が違うなぁ。』辺りを見回していると、「この建物だ。」一際目立つ
豪華で、それでいて落ち着いた建物の中に入って行く。
「あ、はいっ。」緊張しながら、慌てて後を追う桃花。後ろで門の施錠が大きな音を立てて閉まる。

ちょっと・・・恐いなぁ。
後ろを振り返りながらも、『ガマン、ガマン!悟浄君の為だモンねっ。』勇気を奮い起こして足を進める。


その後ろ姿を、「・・・アレ?もしかして??」怪訝そうに伺う人物が居た。


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