勝手に最遊記

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HAPPY BIRTHDAY!―完―



薄く、月明かりが照らされる夜道を三蔵は歩いて行く。


『三蔵・・・重くないかなぁ。』

三蔵の足取りはしっかりしていて。男としては華奢な体つきだと思っていたのだが、意外と筋肉質で。
スタスタと一人で歩いて行く時と変わらないスピードなのを考えれば・・大丈夫。だと思うが・・・

「―――――重い。」「ささっ三蔵!?」クッと笑った三蔵が、「重いに決まってんだろうが。全く。」
桃花にトドメを刺した。「・・・ぅう。か弱き乙女に向かって・・。」「誰がだ!誰がっ!!」
・・・言い争いながら歩いて行く。

「でもまぁ。良かったね、盗まれなくって。」不毛な言い争いは止めようと、桃花が話を変えた。
「ふん。まぁな。」「ホント、良かった。誕生日プレゼント・・って言うワケにはいかないけどさv」
背中で嬉しそうに話す桃花に、「・・・約束しろ。」「はい?」何を?と、桃花が背中に顔を寄せた。


「絶対。俺の・・俺らの前で、死ぬんじゃねぇ。」強く、ハッキリと、三蔵が言った。

「う・・と。」「約束しろ。」有無を言わせない、三蔵。「な、なるべく・・。」「絶対だ。」間髪を入れない声。
「な、なんで?」引き吊りながら聞くと「てめぇが目の前で死ぬと・・煩いのが三匹も居るだろうが。」
フンッと意地悪そうに、
「猿と河童は暴れまくって、性質の悪りぃのは半狂乱だ。」三蔵の言いぐさに、桃花も笑うしかない。

「あははは・・・そう、かも。で?三蔵は?」「あぁ?」「あぁ?じゃないでしょ?経ぐらいあげてよ!」
「何で俺が、てめぇの為に経をあげなきゃならねぇんだ。」「ぎゃっ!三蔵、アンタ坊主でしょ?
坊主が経を上げなくてどーすんのよっ!?」「知るか。俺との約束を破って死んだてめぇが悪い。」
「・・・酷ぇ。」「口が悪いの移ってんぞ。だから、先に死ななきゃ良いんだろうが。バカ。」

桃花を背負い直しながら、
「守れよ。“守れない約束はしない主義”なんだろうが。」「・・アレ?それ、言った事あったっけ?」
「あったんじゃねぇのか?悟空に言ったんじゃ・・違うのか?」「・・違わない、よ。」いつ、言ったっけ?

――――――それが前世での会話で有ることなど、今の二人には知る由もない。


「とにかく。てめぇは絶対に死ぬな。余所で死んでも良いが、俺らの目の前で死ぬんじゃねぇ。」
「なにげに非道いっすね、三蔵サマ。」「煩せぇ。判ったな?」「・・・判りましたぁ~。」
シブシブと言う風に、頷いた桃花。

出来れば。皆の盾になって死にたい―――そう願っていた、自分。それを見透かすような三蔵の言葉。


「フンッ。ま、黙って居ても、てめぇみたいな女は長生きするだろうがよ。」皮肉一杯の三蔵に、
「そうで御座いますわねぇv美人薄命の言葉通り、三蔵サマは寿命が短いようでええぇぇ!!」
背後からギュウギュウと三蔵の首を締め上げる。

「てっ・・てめぇ!!振り落としてやる!奈落の底に突き落としてやる!!」
「おーっほっほっほっ!バックを取らせたのが間違いだったわねぇ!?一緒に引きずり落としてやる!」

ぎゃあぎゃあと、夜道には不釣り合いなほど騒ぎながら、宿への帰途を辿る二人。
ケンカしながらも、笑いが絶えない。平穏な夜。


宿では――――荒らされた部屋に、三蔵と桃花の姿が無く。

心配のしすぎで。

「桃花ぁ~!三蔵~!!」「おらっ!宿の奴ら、全員叩き起こせ!!」「ああ・・僕が・・僕が・・。」

暴れまくる猿と河童と半狂乱の性質(たち)の悪いのが生息して居る事など、知る由も・・なかった。




                          完


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