勝手に最遊記

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BUD―5


『はぐらかされた・・・。』再度、問いかけようとしたが、「んで?舞チャンは、何で夜中に出てんのヨ?」逆に質問された。

「色々・・・考え事をしていまして。」「へー。言ってみ?」背の高い悟浄が、座り込んで舞姫の顔を覗き込む。
慌てて離れようとした舞姫の手を握り、「ホレ。オニーサンが、聞いてやっから。」屈託なく笑う。

揶揄するような態度だが・・・・その深紅の眼は、真摯で。悟浄が真面目に心配しているのだと、滲み出ている。

「私・・の、存在理由・・とか。」か細い声で、心に溜まった不安を零した。「何だか、生きている理由が・・「見付からねぇとか?」
思っていた言葉を先に悟浄に言われ、弾かれるように舞姫が体を硬直させた。

「生きていくのに、理由なんか必要ないんじゃねぇ?」よいしょっと、立ち上がり、「タダ単に、がむしゃらに生きて行くだけだって。」
「でも、それじゃ・・それだけじゃ、私っ・・!」尚も食い下がろうとする舞姫に苦笑し、
「舞はちょっと生真面目過ぎっつーの?女の子はさ、幸せになる為に産まれて来んだから。もっと人生を楽しめよ。な?」
「楽しめ、って・・・。」眉根を寄せて、悟浄を見上げる。
天界人とは違い、確かに限りある人生だが・・・。それでも、人間より遙かに長い寿命のある自分。

「私、このままで良いんでしょうか・・?」息を吐き出すように、言葉を紡いだ。「自分の人生をこのまま・・・。」
「ナニ、言ってんだヨ。まだ産まれて3日目だろ?そんなヤツが、自分の人生云々って考えてんじゃねーよ。」
ほけっと。悟浄を見上げている舞姫に苦笑を漏らし、
「俺だって自分の存在理由とか判ってねーよ?要するに、毎日楽しく生きて行こうって思ってりゃ、理由なんか後から付いてくるって。」

――――――な?

ガシガシと、頭を撫でられて。

「・・・・はい。」微笑んだ舞姫。 

『とっても、優しいんだ・・・此処のヒト達。』

天上界のように、上っ面だけじゃない。 無理に気を使っている訳でもない。 たった一晩、一緒に居る自分の事を・・「悟浄さん、私・・」


ガッシャアアアンッ ―――――――夜の静寂を破り、硝子の砕け散る音が響き渡った。

「何っ!?」「チッ!刺客かっ!?」咄嗟に悟浄が舞姫を背中に庇ったが、「・・・あっ!?」二人の目に飛び込んで来た光景は、

―――――下弦の月に浮かぶ、漆黒の黒い影・・・・その影に、「桃花さんっ!?」意識を失ったと思われる桃花の顔が・・・

そして、「さっ・・・三蔵様っ・・・!」一瞬で消えた、漆黒の影を追うように、三蔵の白い法衣姿が――――――下弦の月に浮かんだ。
その手に鈍く光る、銀色の短銃が握られていて・・・横顔が、鮮烈なまでに美しい、と。舞姫の心に一瞬、過(よ)ぎった。


アッと言う間に見えなくなった漆黒の影と、三蔵の姿。
「浚われたな・・・舞!ココを動くんじゃねぇぞ!?」舞姫に言い捨てて、駆け出そうとした悟浄の腕を、舞姫が強く掴んだ。
「・・っ、舞?」怪訝そうに舞を見た悟浄へ、「私も、行きます。」キッパリと、舞姫が言った。




――――――宿の外へと、飛び出した悟浄と舞姫。

「―――・・悟浄っ!」ブウオオンッと、ジープが走り出て来た。「早く乗ってっ!!」停車がもどかしいとばかりに、ジープが走り出す。

「・・舞さんも一緒ですか?」ハンドルを握り締めながら、「危ないんじゃありませんか?」バックミラーから伺う。
「私が頼んだんです。」ジープの座席で、転ばないよう必死に掴まりながら、「一緒に行きます!」
「・・・・判りました。」ふっと軽い微笑みを、八戒が浮かべた。

「で、猿は?」後部座席には、自分と舞姫だけ。当然、乗っていると思っていた悟空の姿が無い。

「っ!・・・あはは。忘れてきちゃいました・・・・。」ウッカリと。苦笑した親友の後頭部へ、
「あのなぁ。・・・・ったく、悟空へのフォローは頼むゼ?」過保護だかんなぁ、と。一人ごちた。
「悟浄さん?」「ん?ま、パニクッたんだろ?悟空を起こすより先に、ジープを動かしたってワケ。」
声を潜め、「絶対ぇ、俺らの事も忘れてたぜ・・・アイツ。」「そ、そうなんですか?」ヒソヒソと話す悟浄と舞姫へ、

「何か言いました?悟浄。」明らかに笑いながら、 眼が笑ってない笑顔 の声で問いかけられ、
「な・・・なーんも。なぁ、舞?」青い顔の悟浄につられ、「もっもちろんですっ!!」一緒になって冷や汗を垂らす、舞姫であった。


暗い夜道を、ジープが疾走する。

「八戒!この方向でイイのかっ!?」風に声が掻き消されないよう、悟浄が叫ぶ。「ええ、多分・・・あっ。」
ジープのライトに、三蔵の白い法衣がうつった。「三蔵っ!!」三蔵の横にジープがスピードを緩め、並ぶ。

ダアンッと三蔵が蹴り上がり、ジープへと飛び移った。「・・・・このまま、真っ直ぐだ。」
やや荒い息を弾ませ、腕組みをして紫暗を瞑った。額に張り付いた金糸の髪が、三蔵の全力疾走を物語っている。


“アイツらと居るにはさ・・・・・”

桃花の笑顔を、思い出した。

『そうなんですね・・・・。』 こんな危険な目に遭うのに。 無理してでも、強くならなければいけないのに。

それでも、一緒に。  その理由を、なんとなく判ったような気がした。


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