勝手に最遊記

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BUD―6



キキキキィッ―――――・・・ジープが、半円を描くように停車した。

「なっ・・・。」息を呑んだ舞姫。
何十人居るのだろうか・・・・妖怪達が円陣を組むように、陣取って居る。
その一番後ろで、黒い羽の生えた妖怪に抱えられている桃花の姿が在った。


物も言わずに、降りて行く三蔵。

「舞は危ねーから、ココに居な?」ポンッと頭に手を置いて、降りて行く悟浄。

「ジープ、舞さんは頼みましたよ?」八戒が穏やかにジープへ話し掛け、「それでは。」ニッコリ笑みを見せて降りて行った。


「良く来たな!三蔵一行っ!この女を殺されたくなかったら、大人しくっ・・ ガウンッ ・・・血飛沫を上げて、妖怪が倒れた。

「てっ、てめぇっ・・!」激高した妖怪共を無視し、 ガウンガウンガウンガウンガウンッ ・・・・次々と、妖怪を倒す三蔵。
「お、お前・・ヒトの話を最後まで聞けっ!」慌てた妖怪が指を差す。「コッチには人質が居るんだぞ!?」

バラバラと。薬莢を銃から落とし、三蔵が性質(たち)の悪い笑みを浮かべた。
「貴様らに、言っておいてやる。」

一つ一つ。 銃弾を込めながら、「・・・その女を置いて行けば、命だけは助けてやる。」
「なんっ・・立場が逆だろーがっ!!」青筋を立てた妖怪に一瞥もくれず、

ガチャッ ・・・・最後通告のように、撃鉄が上げられた。

「・・・・・死ぬか?」   剣呑な目つきの三蔵に、照準を合わせられた妖怪達。


「ひっ・・・ひいいっ!!」ワアアッと逃げ出し始めた。「ちょっ・・待て!お前らっ!!」
黒い羽を生やし、桃花を抱えている妖怪が慌てる。「戻って来いっ!コッチには、まだ切り札が・・・。」
時、既に遅し。 残されたのは、自分だけ。

「桃花を抱えて飛ぶ?無理だろ~。桃花、重いからv」ニヤニヤと悟浄が笑いながら、
「こんな夜中に叩き起こされたんです。それなりの責任を取って頂かないと。ねぇ三蔵?」クスクスと八戒が笑みを零し、
「当然だ。・・・とっとと片付けて、寝る。」本当に眠そうに、欠伸を噛み殺した。(もちろん銃は突きつけたまま)

「っ・・俺を甘く見たことを、後悔させてやるっ!」抱えていた桃花から手を離し、「はああっ!!」妖気を集中させ始めた。
両の手から、どす黒い光が溢れてくる・・「骨の髄まで腐るがいいっ!!」――――――― 呪怨雨 (ジュエンウ)!!

ブワアアアッと広がった黒雲が、三蔵らの頭上に広がる。

『この匂いはっ・・・!?』舞姫の鼻に、つんっと突き刺すような匂いが浸みた。『・・・酸!!』
思い当たった。酸性雨の事は、天界でも話に聞いている。しかし、この強い酸の匂いは酸性雨の比ではない。

それこそ――――硫酸のような。 強い毒を持った雲を、この妖怪が作り出したのだろう。
・・・・骨の髄まで、三蔵達を腐らせるような・・・・・・「三蔵様っ!悟浄さんっ・・!!」ジープから舞姫が飛び出した。

「うわはははははっ!死ねぇっ!!」一気に、黒雲から雨が――――硫酸が、落ちて来る・・・「私が・・っ・・・私がっ!!」
手を伸ばし、八戒達の元へ駆け寄った舞姫が・・・・「私が守るっ!!」両手をクロスさせ、頭上に手を翳した・・・


―――――――パアアアッ・・・・薄紫の光が、ドーム状に三蔵達を包み込んだ・・・。

バラバラバラッ・・音を立てて、雨が降り注ぐ。その雨粒は全て、ドームの上を転がるように流れ落ちていく。

「なっ、なんだと!?」驚いたのは、妖怪も三蔵達も同様。「ああ、蓮の葉って防水が効くんですよねぇ。」ポンッと手を打った八戒。
「へぇ。だからカエルが傘替わりに持ってんのかよ?」「悟浄。漫画の読み過ぎですよ。」呑気な会話を交わしつつ、

「長い間、酸の雨に晒されていては、折角の花が萎れてしまいます・・。三蔵。行きますか?」「無論だ。」
三蔵の言葉に頷き、八戒が気を集め出す――――――・・・「行きます。」

舞のドームの中で、気孔を頭上に造りだし、間髪入れずドームから飛び出した三蔵と八戒。
気孔が頭上を守っている間に、一気に妖怪へと距離を縮める・・・「うっ・・うあああっ!!?」

妖怪の断末魔の悲鳴が、響き渡り・・・・同時に黒雲が掻き消えた。

「あー・・悟浄さん、イイとこ無しって・・オイ!舞!?」倒れ込んだ舞姫を、悟浄が助け起こした。
「・・ちょっと。疲れて・・。」すいません、と。舞姫が笑顔を見せた。「イイって!にしても助かったゼ?舞ってスゲーのな。」
そうウィンクした悟浄に、舞姫が頬を染めた。

「桃花?桃花、大丈夫ですか!?」八戒に抱き起こされて、「・・八戒ちゃん・・。もう、朝?」寝ぼけ眼(まなこ)で桃花が欠伸した。
「きっ、貴様っ・・!」プルプルと三蔵が怒りに震えながら、「この状況で眠りこけてんじゃねえぇ!!」やはり、ハリセンが飛んだのであった。


うっすらと朝日が射して来た―――――――「ゲッ。結局、完徹かよ。」悟浄がハイライトを取り出す。
流石の八戒も欠伸を噛み殺し、三蔵に至っては、眠気のあまりに立ちながら意識を無くしている。

「・・・帰ろうか。あたしが運転するから。」気を使った(?)桃花の提案に、「僕がっ。・・僕が、運転しますから。」
一気に眠気が吹き飛んだ様子で、八戒が手を挙げた。(よっぽど嫌らしい・・。)

「そう?それじゃ・・・。」不服そうな桃花が、踵を返そうとした時、「引き取りに来たゼ?」いつの間にか、菩薩が背後に居た。
「菩薩っ!?」「菩薩様・・・。」

舞姫が菩薩を見た瞬間――――――――「・・・っ・・・・。」舞姫の体が、発光した。
薄紫色の光が、まばゆい程に辺りを包み・・・・八戒達は、一瞬目を閉じた。

「・・・・ああっ。」「おおっ。」感嘆の声が、悟浄達から漏れた。

12歳頃と思われた、舞姫は・・・・・成長した、女性の姿で。年齢としては二十歳前後だろうか。
藤色の長い髪は腰まで届き。ふくよかな胸。眼鏡はそのままだが、薄い紫色の瞳は澄んで、強い光を持っている。

「・・・・綺麗に咲いたじゃねぇか。舞姫?」菩薩が嬉しそうに、舞姫を見やった。


――――――深々と三蔵達に頭を下げ・・・・・・舞姫は菩薩と共に、天界へと帰っていった。

「あーあ。あんなにイイ女になるって判ってたらなぁ。」プカーと紫煙を吐きながら、「コナかけときゃよ良かっ・・【ガンッ】
すかさず、桃花の鉄拳が飛んだ。 「ロリコンってのは、最悪よねぇ?悟浄君v」うふふと笑顔で威嚇する桃花に、為す術はない。

「アホか・・・もう寝るぞ。八戒!」ジープに乗り込み、すかさず寝の体制を取る三蔵。「起こしたヤツは殺す!!」
殺気を漂わせながら、三蔵が寝入った。「・・・ま、もう一泊するか。」悟浄の声に、八戒と桃花が頷いた。

―――天界では。


「舞姫っ!舞姫えええぇっ!!」狂喜乱舞して、次郎神が舞姫を出迎えた。
「次郎神様・・・・。」「おおっ!美しく咲いて・・・!!」おいおいと泣き出した次郎神に、 「イヤよねぇ。爺さんの涙って・・・。」 何気に小声で呟いた。

「・・?今、なんと・・?」「何でもありませんわ、次郎神様v」ウフッと微笑み、「菩薩様。私、西王母様の所に行きたくありません。」
ハッキリと言い、「此処で暮らします。あ、自分の世話ぐらい自分で出来ますから。」
長い髪を翻し、さっさと菩薩の御所へと足を運んだ。

「・・・ぼっ・・菩薩様っ・・・。」舞姫の背中を見送りながら、「一生、恨みますぞっ・・・。」
そう虚ろ気に呟いた次郎神へ、「強くて、綺麗な“華”じゃねーか。なぁ?」微苦笑を浮かべた。

―――その後。

「だあああっ!!俺だけ置いてけぼりかよおっ!!」

浚われた桃花を助けるどころか、朝まで眠りこけ。

しかも、舞姫に挨拶すら出来ず、別れてしまった悟空。

気付かずに眠っていた自分が悪いとは言え―――――――――・・・・・「納得出来ねぇっ!っつか、有り得ねぇっ!!」

暴れまくる・・・・・(哀れ)悟空であった・・・・・・。

                         BUD―完


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