勝手に最遊記

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HAPPY BIRTHDAY!桃花Ⅱ



ミンミンと・・・・セミが声高に叫ぶ。短い一生を夏で終えても、悔いを残さぬようにと。



「・・・いっ、今のウチに・・・。」朝には弱い桃花が、必死の形相で部屋を抜け出した。
今回は一人部屋―――――早朝に抜け出す、桃花を咎める人物は居ない。

「マジでヤバイんだってばよ・・・。」どこぞの忍者のような口調で呟きつつ、そろり、そろりと出口へと向かう。

後もう少し。後もうちょっと・・・・宿の出口が生死を分ける、脱出口の様に見えるのは錯覚ではないだろう。

後、もう一歩――――――桃花の笑顔が、朝日を受けて生に輝いた瞬間―――――「・・・何処に行きやがる・・。」
耳元で囁かれた重低音・・・・むんずと掴まれた襟首・・・・・「今日は、てめぇの誕生日だろうが。」


――――――後の報告談では。 
笑顔を張り付かせたまま真っ青な顔で、縦線を顔中に引いた女が、金髪の坊主に引きずられて宿の中へと消えたという・・・。




「・・・ったく、油断も隙もありゃしねぇ。」三蔵の部屋に連れ込まれ(?)嫌々コーヒーを淹れさせられる桃花。
「油断も隙もって・・さぁ。」「逃げるつもりだったんだろ?今日の日付が変わるまで。」
アッサリと。三蔵に企みを見破られ、暫し固まったが・・「いっ、イヤだわ三蔵サマったらv逃げるだなんて・・・。」
オホホホと。奥さま笑いをしながら扉へと後ずさる桃花。呆れて、新聞を読み出した三蔵が気付く前にと。部屋から脱出を試みたが・・

「お早うございます、三蔵。・・・・・桃花?何故、こんな所で蹲っているんです?」
扉の下で、頭を抱えて痛みに耐える桃花であった・・・・・・・。



―――――「んで、むくれて朝飯喰ってるってワケだ。」可笑しそうに悟浄が口角を上げた。

皆、起き出して――――――――宿の食堂で、朝食を食べている面々。

「すみません、桃花。タンコブ出来ちゃいました?」苦笑しつつ、手を翳す八戒に、
「ケガなんかしてないってば!気孔の無駄打ちだよ?」慌てて頭を反らし、その拍子に・・【ゴンッ】・・(またもや)壁に頭を打ち付けた。

「・・・大丈夫かぁ?桃花。」スプーンをムグムグくわえながら、間延びした声で問いかける悟空へ、
「・・・・・・うん。」  何気に悶絶しつつ、『今日は厄日だよ・・・。』くっすん、と。涙を飲み込んだ。




―――――――買い物を済ませようと、八戒がリストを作り始めた。

「・・・で、干し肉と水と・・・・。」なにせ悟空が居るのである。膨大な食料をどう積み込むか?最近の八戒の悩みである。
『・・・ジープの外側に、食料の入った袋をくくりつけましょうか?』しかし、それではジープの負担になる・・・。頭の痛い八戒であった。

「煙草を忘れんなよ。」「お酒もね~v」背後からリストを覗く、三蔵と悟浄に、「禁酒・禁煙して頂けると、荷物も少なく・・「「却下。」」
でしょうね・・・・分かり切っていた事ですと。八戒が溜め息を吐き出した。


「・・・ハレ?桃花は?」―――――いつの間にか。桃花の姿が部屋から消えていた。
「先程、抜き足・差し足・忍び足で出て行きましたよ?」クスクスと笑いが零れた。
「アイツは泥棒か?・・面白ぇな。」クックッと。悟浄も笑いながら灰皿に灰を落とした。

別に、昨夜の事など気にもしていない――――――只、あまりにも桃花の反応が面白いので、からかっているだけなのだ。

「・・・悟空は?」「あー・・例のモン、探して来るってよ。」ニヤリと悪戯な眼をして、「三蔵サマも探すか?」問いかけたが、
「ざけんじゃねぇ・・・・。」凍てつく台詞に、肩を竦めて見せた。






「こ・・・ココまで来れば、大丈夫・・・。」 はぁはぁと。息を切らせて、汗ばんだ額を拭った。

カンカンと照りつける太陽―――――――『・・うう。こんな昼日中に出歩きたくないよぅ。』陰を求めて歩き回る。
昨夜、青竹が飾られていた町の中央広場。すっかり片づけられて、今はベンチが置かれているのみ。

日の高い、今の時刻は人も疎(まば)らでセミの声だけが耳に付く。

「・・暑い・・暑いよぅ・・・。」フラつく足下が危ない。急に走った所為で、若干、貧血気味らしい。
木陰を求めてベンチに座ってみるが、真上の太陽では木陰は無いに等しかった。


「おおっ!アレに見えるはオアシス・・・!」向かい側に書店を見付け、飛び込むように店へと入った。

店内には扇風機が四方に取り付けられ、その近くには氷柱が置かれてあった。
氷柱から冷気が立ち上り、冷ややかな風を店内へと運んでいた。

『・・・なかなかヤルなぁ。ここの店主v』
スゥッと体から暑気が抜けていくのを快く感じる。取り留めもなく本棚に目を走らせ、お気に入りの作家を探した。
程なくお目当ての作家を見付け、新作を手に取り読み始めた桃花。

・・・・・立ち読みすること、数十分・・・・・『・・・・・・・・・・・えっ?』

夢中になって本の世界へと入って居た為―――――――自分の身に、ナニが起こっているのか、咄嗟には理解出来なかった・・が。

『・・ちっ・・・ちっ・・・痴漢っ!!?』


気が付けば―――――・・・自分の背後に。  もの凄く、至近距離に。 ・・・・男が居た。

はぁはぁはぁ・・・男の吐く息が、後頭部辺りで聞こえる。 背中は触れるか、触れないかの距離で、心なしか体温まで感じてしまう。

『うっ、わあっ!気持ち悪っ・・・!!』

いつもの桃花ならば、叫んだ挙げ句に、男を再起不能に至らしめるであろう・・・が、ココは書店だ。
しかも、なかなか気の利く―――――『・・騒ぎは起こしたく無いし・・・。』店内で暴れれば、酷い惨状になるのは目に見えている。

ここはヒトツ、大人になって、『移動しよう・・・。』手に持った本を書棚に戻し、カニさん歩きヨロシク、横へと移動しようとしたが・・

【ピッタリ】 と。男が背中に張り付いた。「・・ねぇ。俺とイイ事しようよ・・・。」
尻を触った挙げ句、耳もとに吹き込まれ、 ゾワアアアアアアッ  足下から脳天にまで寒気が這い登った―――――

「・・てっ・・てめぇっ・・・!!」三蔵バリに青筋を立て、桃花がキレようとした瞬間―――――――「・・・・・へ?」

忽然と。 男が視界から消えた・・・・・否。 男が、店内から放り出されていたのだ。

「え~・・・と・・・?」事態を飲み込めない、桃花の前に、「か弱い婦女子に狼藉を働くなど!この僕が許しません!!」
店頭に倒れている男に歩み寄る少年――――――クルッと振り向いた。

「・・ど、どうも・・。」その少年の 眉毛 に。嫌に暑苦しそうな緑のツナギ、散切り頭の髪型、まん丸の目玉・・・そして 眉毛 (←気になるらしい。

「眉毛君、どうもアリガトウ。」「だああっ!!僕の名前は眉毛じゃ無いですうぅ!!」頭を下げた桃花に、頭を抱えた(哀れな)少年。

「僕の、僕の名前はロッ・・・ああっ!ダメだ!!名を告げずに立ち去るのがヒーローですよね!?先生っ!!」
誰に言っているのか、悶絶する少年の様子に「だっ、大丈夫?キミ!?」思わず駆け寄って どうどう と、宥める桃花。


その隙を付いて―――――――痴漢男が、こっそり隠し持っていたナイフを取り出した・・・「ナメやがってっ!!」

【シュンッ――――思いっ切り、投げつけられたナイフ。「・・・むんっ!!?」悶絶から素早く立ち直り、
【ピシィッ―――2本の指で、ナイフを眼前で捕らえた少年。

「・・・宣戦布告、って事ですよね?」 グニョニョニョニョ・・ナイフの刃が、少年の2本指によって容易く折れ曲がる。
「ひっ・・・!」青ざめた男が、後ずさって逃げようとしたのを、「――――行きますっ!!」

桃花の視界には。


『・・・回って回って回って回わ~るうぅうう~・・』 そんな歌が甦るほど、空中で横向きに回転した少年が、
男の体に強烈な体当たりをカマしたのが――――――・・・・微かに、見えた。


「重ね重ね、アリガトウ。」眉毛君、と。心で付け足す。「いえ!男たる者、助けるのが当然なのです!!」
店の前では、ボロ雑巾のようになった男が・・・・転がっていた。


ではっ!そう言いながら、グッと親指を立てた少年・・・・何気に白い歯が光っている。
あ、と。思った時には、少年の姿は掻き消えていた―――――「・・・ぐっばい。ナイスガイv」


思わず桃花も、親指を立てていたのであった。


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