勝手に最遊記

勝手に最遊記

HAPPY BIRTHDAY!―3


八戒の言葉に、みるみる三蔵の眉が吊り上がっていく。

「暗示って、催眠術を桃花に掛けたのか?」三蔵の不穏な空気を感じ取って、悟浄が慌てて口を挟んだ。
「催眠術と暗示は違いますよ。催眠術と言うのは、本人の意思に関係なく掛ける物でしょう?
僕が桃花に与えたのは暗示ですよ。もちろん、本人の了承も得てますしね。」ニコニコと説明しながら、

「なかなか桃花が女性らしく振る舞えないもので・・・女性らしく振る舞えるように、暗示に掛かって貰ったんです。
あ、記憶も残りますよ、もちろん。」おもむろに、「初心者の為の優しい暗示の掛け方」と言う本を出して見せた。


『売んなよこんなモンー!!』 (←悟浄・三蔵の心の叫び。


「な、八戒。桃花にどんな暗示を掛けたんだ?」悟空が恐る恐る問いかけた。
「悟空は気に入りましたか?【らぶこめパワーで貴女もハッピィ♪】って言う暗示ですよ。」

「・・ら、らぶこめ・・・?」口からポロッと煙草を落とした悟浄と、ズルッと椅子からずり落ちた三蔵。

「ええ。ほら、お色気なんて 有りもしない物 を出せと言っても無理でしょう?」何気に失礼な言葉を吐きつつ、
「ですから、テンションが高くなると言うか・・・乙女心と言うモノを、前面に押し出すような暗示を掛けたんです。」

ますます笑みを深くしながら、「まぁ良いじゃないですか、今日限りですし。じゃ、僕らは買い物に行って来ますv」
そう言って呆然としている三蔵からカードを受け取り、桃花を伴って部屋から出て行った八戒。


「・・・・気が、遠くなりそうだな・・・・。」グッタリと。  呟かれた三蔵の言葉が、皆の心の内を代弁していた。


――――――――――「あっ。アレ、可愛い~v」

きゃらきゃらと。笑いながら大通りを眺めて歩く、八戒と桃花。

食料や雑多な物を色々と買い込まなければいけないのだが、八戒は桃花の好きなようにウィンドショッピングをさせていた。

「ね!八戒ちゃん、コレ可愛いでしょ?」チープなピアスを手に取り、合わせて見せる桃花へ、
「可愛いですね、とても。でも色合いなら・・・。」別のピアスを手に取り、渡して見せた。
「うーん。コレも捨てがたい・・・。」むむぅと悩む桃花の顔を眺め、クスッと笑みを零した。

『・・・・・普通の“女の子らしいこと”を、させてあげたかったんですよねぇ・・。』

三蔵達には、ああ言ったものの。

特別に女性らしく振る舞って欲しいとは思っていない。

ただ、自分達と居ると――――――旅を同行していると言うことは。

肉体的にも精神的にも、負担を強いられると言うこと。そう、普通の女性とは比べようも無いぐらいに。

決して、綺麗な旅ではない。
なるべく避けてはいるが、野宿や雑魚寝もざらにある。殺し合いの場面や、人間として理不尽な思いもする事も多い。

しかも同行している自分達・・・(特に三蔵)は、個性的でアクが強く、扱いづらい。普通の神経の持ち主なら、とうに逃げ出しているだろう。

『・・・まぁ、並の神経の持ち主じゃ無いですけどね。』・・・そうは思っても。

恋人はおろか、誰かに恋心を抱けるような環境ではない。通り過ぎていく町や村で、誰かと恋に落ちる暇(いとま)もない。
妖怪との戦闘に参加できなくても、険しい山道やジープでの強行軍をでも歯を食いしばり、自分達に付いて来ようと必死で頑張っている。

そして頑張れば頑張るほど、 男らしくなっていく 桃花が不憫で・・・今回の策略を・・もとい、計画を思い付いたのだ。



『去年の僕の誕生日の事、覚えていますよね?・・・・精進出来ないんであれば、ちょっとお願いを聞いて欲しいんですけど・・。』

半ば脅迫的に迫った八戒に、逆らう術など桃花は持たず―――――『おっ・・お手柔らかに・・・。』

【らぶこめパワーで貴女もハッピィ♪】・・・・・・・暗示に掛かったのである。



「キミにはコレが似合うんじゃない?」「えっ?コレですか?」
思いに耽っていた八戒が気付けば、桃花が何やら若い男に話し掛けられている。

「そ、コッチの方。ほら、髪が長いから・・・。」見るからに軽薄そうな男が、桃花の耳に掛かった髪を指で掬(すく)う。
「・・・・っ・・・。」瞬時に真っ赤になった桃花は、俯いて固まった。


『・・しっ・・しまった・・・!』 珍しく八戒が蒼白になった。


普段の桃花ならば、軟派な男など相手にもしないし「触んないでよっ!」等と、隙の一つも見せない態度だ。
だが、今は・・・・

「キミさ、この町の人じゃないよね?ドコに泊まってるの?遊びに行きたいなぁ。」
「えと、あの・・・え・・・・。」手まで握られ、真っ赤な顔でオロオロしている。


「桃花!ほら、まだ買い物が終わってませんよっ。」強引に男と桃花の間に割り込み、「失礼しますね。」秀麗な微笑みで男を一蹴した。
「八戒ちゃん?」不思議そうな顔の桃花の手を握り、足早に立ち去る八戒の耳へ、「ちぇっー!オトコ付きかよー。」男が吐いた言葉が届いた。


「八戒ちゃん?どうかしたの?」「・・桃花。相手を良く見なければいけませんよ?」
真顔で諭したのだが、本人は怪訝な顔をするばかり。

『この辺は誤算でしたね・・・・』ふぅ・・と嘆息した。

確かに【らぶこめパワーで貴女もハッピィ♪】の暗示により、気丈な面が弱まり乙女心が前面に出てきている。
それは良い。だが、相手が誰でも良いというのは困りものだ。


『僕がより良い相手を見極めなければ・・・・!』


俄然、保護者心に火が付く八戒であった・・・・・。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: