勝手に最遊記

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HAPPY BIRTHDAY!悟浄 2-2






――――――――――――――――禁忌の、存在・・・?







「さっさと散りやがれ、野次馬どもっ!!」

相当気性の激しい人物らしく、紅い髪を翻してその場から立ち去る彼女を、悟浄は思わず追いかけていた。





「・・れっ?悟浄君は?」
人混みが解消されたかと思ったら、悟浄の姿が見あたらない。
「放っておけ。どうせ宿は一つだ」
「ふぉっ・・やひょ!ほほはぁ・・・「悟空?食べてから喋らなきゃダメですよ。三蔵、先に宿へ行きたいんですが。」

とにかく宿へ落ち着きましょうと、四人(と一匹)は宿へと足を向けた。







人混みを泳ぐようにして彼女の背中を追う。
平均より低めの背丈は人並みに埋もれてしまいそうだが、チラチラと見える深紅の髪が悟浄の目を引きつける。

『しっかし、なぁ・・』


女性相手のスキルに関しては人並み以上の自信はあるがいかんせん、相手が悪そうだ。


どう声を掛けたモノか、真剣に悟浄が(珍しく)考えていると、

「・・・・・ちょっと!いつまで付いて来んのよっ!!」

いきなり怒声が向けられた。



燃えるような紅い瞳。

整った眉に、真一文字に噛みしめた唇。

セミロングの紅い髪はサラサラと流れ、小柄ながらも弾むような弾力のある肢体が眼に眩しい。



「・・・・はー・・いい女だなぁ・・アンタ」思わず唸って凝視した。

「バッカじゃないの?!アンタもさっきの男共同様、殴り飛ばされたいマゾ野郎?・・ってゆーか」

ジロッと悟浄の頭から爪先まで一瞥し、
「・・・マサカお仲間に会えました~・・なーんて馬鹿な事、思ってるワケ?」

「・・・・っと・・」

マサカ、いきなり相手から直球を投げられるとは。

「・・・私はね、“同類相哀れむ”なんっつー趣味はないんだよ!判ったら余所をあたりな。」
「ちょっ、ちょい待てって!俺は何も・・・」

悟浄の目を一瞥もせず、彼女は立ち去った。
後を追いかけさせる事も、声すら掛けさせる隙も与えずに。



「“同類”ねぇ~・・・」

彼女の言い捨てた言葉が耳に残る。
其れは、図らずも彼女が今までどれだけの辛酸な人生を歩んで来たのか――――――悟浄だからこそ、耳に響いた・・

「さて、と。宿にでも行きますか・・・」
悟浄もクルリと踵を返した。
何はともあれ、このままでは終わらないと言う予感を抱きながら・・・






















この町に一つしかない宿。

桃源郷の荒廃が進むにつれ、旅人や商人で賑わうと言う事も無いのだろうが
一つきりでは部屋の数も限られている。




「俺の意見はナシって事?」
「遅れてきた悟浄君が悪いんだもーん」

部屋割りは八戒と三蔵。悟空、桃花、悟浄の・・・「三人部屋じゃねーじゃん!」
悟浄が頭を抱えた。

元々二人部屋なのだろう。狭い部屋にシングルベッドが二つ押し込まれている。
部屋の隅に小さな机と椅子が片付けられており、空いたスペースに無理矢理ソファ兼ベッドが備えられていた。

「・・こんなスプリングの無いベッドに寝られませ~ん」
「まぁ、確かにねぇ。だって三蔵が悪いんだよ?もう一部屋取れる所だったのに・・」
「“一人で使っても頂く料金は二人分で”って言われて腹立ったんだよな。悟浄、しょーがないジャン!居なかったお前が悪いんだからさ」
「じゃあテメェがコレで寝ろっ!」
「なんで俺が寝るんだよっ!」
「あ~!止め~!!折角の宿なんだよ?久しぶりのさ!」



狭い部屋で暴れようとする男二人の間に割り込み、
「あたしがソコで寝るから!ね?」
と、宥めにかかった。

「フェミニストなこの俺が、いくら桃花でもこんなベッドで寝かせると思ってんの?」
「“桃花でも”って言うのは余計でしょーよ!・・あたしがソコで寝るのが一番理にかなってるんだし」
運転する訳でもなく(←させてくれない)戦闘に加われる訳でもない(←止められる)
自分が一番疲れていない、だから。



「・・・あのなぁ、桃花。男と女は体力が違うだろ?それに俺らはフツーのヒトナミじゃねぇんだし」
「悟浄の言う通りだぜ?それにっ!・・・・・八戒にバレたら怖ぇよ、俺」



――――――――真剣な面もちの悟空に、「「確かに」」声を揃えた悟浄と桃花。

あの“過保護な八戒”に、桃花を粗末なベッドに寝かせた・・・なんて事を知ったら。


相部屋の悟浄や悟空、果ては「こんな部屋を借りるしかなかった」原因の三蔵にまで―――――――・・



「まっ!そーゆーワケで!猿がこのベッドなv」
「っっって、何でそーなるんだよ!!」
「だから話がまとまんないって!・・・もぉ、三蔵をどうにかするかぁ・・」

もう一部屋借りるにはゴールドカードの(一応)所有者、鬼畜坊主のご機嫌取りをしなきゃならないのは、流石の桃花も頭が痛い。


「兎に角、誰かに部屋を押さえられる前に三蔵に・・・」
言いながら部屋を出たところへ、

「ざけんじゃないよっ!この強突張りがぁっ!!」
怒声が階下から響いてきた。


何事かと降りて行ってみれば、宿屋の親父が女性に胸ぐらを掴まれていた。

「ちょっ、ちょっとお客さん!」
「二人部屋だからって使うのは一人なのよ?!どーせ他に客も居ないくせにガタガタ言ってんじゃないよ!」
「でででですけど!コッチも商売なんですよ!客が居ないからこそ・・」


小太りでいかにも商売人、と言った風体の宿屋の親父を締め上げているのは・・「あれっ?あの人・・」ハタっと思い当たった。
『さっき悟浄君が追い掛けていった・・・』

「ぁあ゛?女だからってナメてんのかぁ?!」・・些か、親父が可哀相なぐらいである。
「でぇっ、ですから・・・ぁあ!そうだ!お客さんっ!!」
「はい?あたし??」
苦しそうな親父に手招きされ、少々ビビりながらも近づく桃花。

「このお客さんと相部屋するってのはどうでしょう?!」


「あい、部屋?」

バチィッと視線が絡んだその先に、燃えるような紅玉の瞳が睨んでいた・・・


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