勝手に最遊記

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Family ―13―



「マジ・・かよ。」悟浄が唖然とした。

それは女だった。美しいがとても悲しげな顔。

「コレが噂の・・?」
「で、しょうね。成仏できない魂が、自縛霊となってこの沼に・・。」

三蔵が、悟空の体を自分の背後へと押しやる。

「さん・・ぞぉ・・。」
「お前は黙ってろ。」『魔戒天浄なら魂を浄化できる・・・。』

女が口を開いた。
「私の子・・・私の子を返して・・・。」

八戒が前に進み出る。
「違います!悟空は貴女の子供ではありません!
貴女のいるべき所は此処ではありません・・・。」

女の目が光った・・・と、沼から蔦がもの凄い勢いで飛び出してくる。

「うあっ!」足に絡みついた蔦が、八戒を沼へと引きずり込む。

「八戒ぃぃ!!」悟浄が鎖鎌で蔦を引き千切り、そのまま錫杖を女へと振る・・・
が、手応えはない。
そのまま素通りしてしまう。

「こんなモン、どうしろって言うんだよ!!」
悟浄が苦虫を噛んだような顔をする。

三蔵が、経文を取り出す。『・・・あまり気は進まんがな。』

「私・・・私の子・・・。どうして・・・私だけ・・こんな酷い目に・・。」
虚ろに響く女の声。

そこへ、「甘えてんじゃないってーの!」凛とした声が響く。


                「「「桃花っ!?」」」

「てめぇ、ナニしに来やがった?」三蔵が睨み付ける。

桃花はそれに構わず、
「ん~?女は女同士って言うじゃん。それに・・無理矢理魂を浄化しても
意味無いと思うんだよね」軽い口調で沼に近づく。

「桃花っ?体がまだ・・。」
「ヘーキヘーキ。気合い入ってるから。」心配する八戒に笑顔を見せる。

「桃花・・・危ないって!クソッ・・。」三蔵の後ろで、悟空が呻く。

「悟空ちゃんは、無理しないで。」振り返りもせず、手をヒラヒラ振った。

桃花は沼岸まで近寄った。女の目の前である。

スゥッと息を吸い込み、
「あんたね!自分が世界で一番不幸だと思ってんの!?」
女を指さし怒鳴った。仁王立ちで・・・左手は腰につけて・・・。

「・・オイオイ。幽霊に説教始めたぜ?」
「桃花ならではですねぇ。」あまりの展開に、悟浄と八戒が苦笑する。

「不幸な死に方をしたかもしんないけど、だからナニ!?
他人にまで巻き込みたいの?そんなの自分のエゴだって分かんない!?」

女の姿がゆるゆると蠢く。
「貴女に・・何が分かるの・・。私は・・夫も・・やっと出来た子供も・・奪われて・・。」

「で、いつまでそうやってるつもり?」

「・・・・・・。」

「このままじゃ悲しみは終わらない・・。永遠に。
自分の不幸を他人に分かってもらおうとする限りね。」

桃花が手を差し伸べる。
「自分の不幸は、自分で背負って行かなきゃならないの。どんな過去であれ・・ね。」

「・・・どんな過去・・でも・・。」

「そう。人間は、そうやって生きて行かなきゃダメなんだって。
受け売りだけど。・・・貴女の慰めになるか分かんないけど、
あたしの過去(キズ)、見せてあげるから・・。」

桃花が目を瞑る。

「・・・・。」女が、一筋の煙となって桃花の体内に入っていく。


ゆっくりと。 桃花が倒れ込んだ。

「桃花っ!!」悟浄と八戒が走り寄る。 「桃花っ!?」抱き起こすが反応すらない。

「三蔵っ・・俺も、側に・・・。」悟空が必死に体を起こし、三蔵の法衣を握り締めた。
「・・・チッ。」悟空を抱え、桃花の側へと運んでやる。

「もも・・・か?」悟空の呼び声にも答えない。青白い顔で、眠っているかのようだ。

「あの方が・・・出て来てくれませんと。」苦い顔で、八戒が呟くように言った。
「出て来ない時は?」悟浄が胡座をかいて座り込む。
「・・・体を乗っ取られたって事なんだろ。」三蔵が吐き捨てるように言う。

「桃花・・・。」桃花の手を、悟空が握り締める。いつもより冷たい手に、ますます不安が募っていく。

「桃花・・・・・・・。」


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