勝手に最遊記

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Jealousy ―5―



「そうだね・・。」デレデレしている悟浄の顔を見つつ、桃花は困惑した。

いつも宿に落ち着いたら、悟浄は嬉々として町に繰り出す。
“個人行動は控えろ”そう言われていても我慢できない性分らしい。
適当に女を引っ掛けたら、泊まって朝帰り・・というパターンも多い。

彼にとって、“色気のある大人の女”が一番好みだと思っていたのだが、
15・6歳ぐらいの少女に鼻の下を伸ばして宿にいる・・・。

『なんなんだ、この男わっ』ムカムカと怒りが湧いてきた。


「じゃーさー“サクラ”って名前にしよう!」元気一杯に悟空が提案する。

「サクラ?イイと思うけど・・なんで?」

「だって、桃花が居るから・・。桃なら桜かなって思って。」単純明快に答える悟空。

「猿にしちゃ、マシなんじゃねぇ?“餃子”とか“焼売”とかって名前を付けるよりサ。」
悟浄がキシシと笑う。

「バカにすンのもいい加減にしろよっ!」悟空が悟浄の胸ぐらを掴む。

「ソコまでにして下さい。“サクラ”が怯えるでしょう?」
八戒が仲裁に入って、
「良い名前だと思いますよ。美しい名前が似合って・・・。」

そう言いながら“サクラ”の肩に手を置く八戒。

「・・・あ、あたしっ・・・買い物に行ってくる!」唐突に立ち上がった桃花に、サクラも立ち上がる。

「あ、いーのいーの!サクラちゃんは、みんなと居て?」サクラを避けるようにドアへ向かう桃花の後ろで、

「・・お前はココに居ろ。」サクラへと三蔵が言う。

「じゃっ、行ってきます!!」ドンッッと勢い良くドアを開けて桃花は飛び出した。


桃花は走って走って・・・・町の中心部までやってきた。

「あたし・・・何やってんだろ?」息を弾ませながら呟く。

――――――――みんなが遠くに感じて・・・。軽くかいた汗を拭い、考え込む。
悟空ちゃんはいつもと変わらないけど、他の三人は違った。

三蔵が女の子にあんなに優しくしたトコなんて初めてみたし、
悟浄君が遊びにも出掛けず、熱心に側に居るなんて驚いたし、
八戒ちゃんはいつも優しい(誰にでも)ケド、女の子に気軽に触るなんて・・。

「・・・バカだ、あたし。」
このドンヨリとした重たい気持ちは“やきもち”以外、考えられない。

自分より大切にされている女の子に、やきもち妬いたんだ。
どう見ても、自分より10歳ぐらい若い女の子に・・・情けなさ過ぎる。

「~~~~最悪~・・。」どっぷりと自己嫌悪に陥る。
誰がどう見たって、若くて華奢な女の子を守ってあげたいって思うだろう。
大体・・・自分には大事にして貰えるような価値はない。

「ヒトは愛せても・・愛して貰える価値は無かったんだよね、あたし。」

自嘲的に桃花は呟いた。         自分自身に言い聞かせるように。


ドンッ!!
「キャッ!」誰かが桃花にぶつかった。

「こんな所で突っ立ってンじゃねーよ!」柄の悪そうな男達が、桃花を取り巻く。

『人が落ち込んでいる時に・・。』はぁ~っとため息をつく。

「・・・ゴメンナサイ。それじゃ・・。」男達から離れようとした桃花を一人が立ち塞がる。

「ゴメンナサイで済むと思ってんのか?エエ?」凄む男の顔を見て、ゲンナリする。

『人数は三人か・・。大した事なさそーな顔してるなぁ。』
三蔵達と行動していると、何十人と妖怪に襲われることが多い為、桃花は感覚がマヒしているらしい。

「じゃーどうすればイイの?」開き直りに近い桃花の言葉に、男達も言葉に詰まる。

「・・・って、金とか持ってないのかよ?」立ち塞がっている男が、慌てて言う。

「持ってるワケないじゃん、ホラ。」ポケットを裏返す。
「あたしさー今、居候の身なのよね。しかも落ち込んでて最悪なワケ。構わないでくれるかな?んじゃ!」

平然と男達に言い放って、立ち去る桃花の後ろ姿をポカーンと見送っていたが、
「ま、待て!コイツ!!」
男達が桃花を追いかける。


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