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勝手に最遊記Ⅱ
Decision―3
「生臭坊主の顔なんか見たくないっつーの。」な?と、八戒に目線をやり、自分の荷物を持ってさっさと部屋へ向かった。
「・・・・・。」悟浄の背中へ冷たい一瞥を投げつけて、三蔵も部屋へ向かう。勿論、悟浄とは違う部屋へ。
二人の殺伐とした空気に息を吐き出し、
「・・・じゃ、悟空。三蔵と同室で。」八戒が部屋へ向かおうとしたが、「・・何です?悟空。」袖を悟空に引っ張られ、立ち止まった。
「・・八戒。 あのさ・・・。」 いやに真剣な顔の悟空に、「あ。僕、ジープを連れて来ますね。」
そそくさと背を向け、今し方くぐった扉へと引き返した。
・・・・・廊下に、取り残された悟空。
キュッと。 上唇を噛んで、自分の足下を見つめた。「・・・・っ・・だよ。」小さく呟いて、腹の奥まで息を吸い込んだ。
「――――三蔵。」
部屋に入れば、いつもの“三蔵の装束”を脱いで、シャツとジーンズに着替えた三蔵が居た。
「三蔵?なんで服を・・・。」「買いモンだ。」短く言い捨て、悟空と入れ違いに部屋を出ていく三蔵。
「三蔵っ!待っ・・・」「聞く耳は持たん。」視線も交わさず、足早に出て行ってしまった。
・・バタンッ】
閉められた扉の音が。 悟空を縛り付けるように響いた。
薄く、紅玉の瞳を見開いた。 『・・・三蔵サマ、お出かけってか?』・・珍しいよな。
ベッドの上で、寝返りを打つ。窓からは既に西日が射し込んで来ていた。直(じき)に日も暮れるだろう。
『・・後で、遊びに行くかな。面倒くせぇけど。』賑やかな町だ。夜遊びをするには事欠かないだろう。
賭場でも酒場でも、オンナでも・・・何でもござれ、だ。
自暴自棄な思考に、苦笑が浮かんだ。 『ウルサイ、アイツも居ねーかんな。』
「大体・・悟浄君は、自分を大事にしなさ過ぎるってば!!」朝帰りをしては、桃花にとっ捕まって怒鳴られた。
「桃花チャン・・ソレって、女の子に言う台詞なんじゃね?」「ウルサイ!!男も女も関係ナッシング!!」
拳骨で(メリケンサック付き)頭をグリグリやられたモンだ。
「愛の安売りをすんなっつーの!!」目くじらを立てて怒る、桃花の怖さと言ったら・・・くすり、と。笑ってしまった。
『・・アレが面白くって、ワザと見付かったりしたっけな。』子供じみた自分の行為を思い返して、苦笑いが浮かんだ。
マクラを抱え、丸くなる。 まるで、胎児のように。 「・・はっ・・バッカみてぇ。」
紅玉を閉じ、浮かんだ笑顔を消すように。 悟浄は闇へと思考を閉じた。
変化を解いたジープを肩に留まらせ、『・・悟空とは、顔を合わせ辛いですね・・・。』八戒は溜め息を付いた。
悟空が言いたい事は判る。きっと、“桃花を取り戻したい”・・そう言うに決まっている。
「な?八戒!八戒も、そう思うだろ!?」・・そう問われて。にこやかに、平静に、断る事が出来るだろうか?
・・・出来無い。自分だって、取り戻したいのは同じなのだ。『でも、悟空・・・。』
選んだのは彼女自身なのだ。 彼女が 桃花が、選んだ道なのだ。無理矢理、桃花を連れ戻す事なんて・・・
『僕らに、そんな権利なんて有りませんよ。』
そうは思っていても。あの真っ直ぐな金精眼に見られると・・・軽く、頭を振って。 八戒は考えるのを放棄した。
行き交う人の群・・・・・・その喧噪に。 三蔵が眉間に皺を寄せた。
特に必要な買い物もない。 部屋を出たのは、悟空と二人きりになるのが面倒だからだ。
『・・・・弟みてぇに懐いてやがったからな。』
正直。 こんなに旅を一緒に続けるとは・・・・思わなかった。
次々と襲いかかる刺客。 正気を無くした妖怪との戦闘。 繰り返される、血で血を洗うような凄惨な日々。
ジープに揺られ、汗と埃にまみれ。 ともすれば、飲み水すら危ういような日常で。
普通の女が付いて来られるとは・・・・・思わなかった。
『いや、普通じゃねぇな。あの女は。』 クッと。思わず口角が上がる。
目の前で、何度も何度も・・・・・己の命を投げ出そうとする女。
人生を投げている訳じゃない。 逃げている訳でも、無い。それは・・・・・「ねっ!一緒に呑みに行かない?」
唐突に腕を絡ませて来た女に、「・・俺に触んじゃねぇよ。・・・死ぬか?」ガチャリ、と。絡みついている派手な女の額に押し当てた。
「ひっ・・!?」サッと青ざめて、後ずさった女に一瞥もくれず、三蔵は足早に立ち去った。
『・・・ったく、法衣を脱いでりゃ脱いで、あんなのがまとわりつく・・・。』
三蔵の装束“法衣”を着ていれば、三蔵様と崇められ。脱いでいれば・・・ピタッと。三蔵の歩みが止まった。
『・・・そう言えば・・。』
初めて逢った時。 三蔵が“三蔵”だと知った時。
桃花は、驚きはしたものの・・・・崇めるとか、羨望するとか。 そんな事は全くなかった。
とかく、桃源郷での仏教の持つ意味は・・・・・人々にとって重い。ましてや“神に近しい尊き存在”と言われる三蔵法師は、
普通の人々にとって、それこそ“神”と、同様に崇め奉られる事もしばしばだ。
「三蔵って、あの三蔵なの?へー。同姓同名かと思った。」こんなんが三蔵なんて世も末よねー等と。毒づいていたくらいである。
(無論、ハリセンが飛んだのだが。)
『・・・・チッ。今さら考えたって・・・・。』
もう、遅い。
胸に沸き上がる・・・“三蔵”にとって、無用な感情を押し殺すように。
奥歯を噛んで、三蔵は雑踏の中へと体を紛れ込ませて行った・・・・・・・
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