勝手に最遊記Ⅱ

勝手に最遊記Ⅱ

Decision―9




賑やかな夜の町



             きらびやかで、安っぽいネオンの海


―――――少し、脇道に逸れた路地裏に 悟浄とオンナが居た。


「もぉ、待てないってカンジ・・・。」 背を壁に凭れかけ、首を傾げながら自分を見つめるオンナ―――――『名前・・なんだっけか。』

名前すら、知らないオンナ。





幾ら呑んでも酔えなくて  賭に興じる気分にもなれず  桃花の事を考えても、どうにも答えが出せなくて

・・・・独り、煙草を吹かす自分に声を掛けてきたオンナ・・・


「ね、アタシにも一本頂戴?」 悟浄の返事も聞かず、銜えたばかりの煙草を唇から奪い取り、己の紅い唇へと銜えて笑った。


見栄えは合格―――――長い茶髪はストレートで、手触りが心地イイ。薄いワンピースは体にピッタリと張り付き、
ボリュームのある胸が誇張されていた。

色気だって十分――――濃いマスカラで縁取られた瞳は妖しく濡れ、紅い唇はテラテラとグロスが塗られていて。
深く入ったスリットからは、むっちりとした太股が白く見えていた。


煙草の匂いに入り混じる香水と体臭―――――――――「ね。イイでしょう?」綺麗に塗られたマニキュアの指先が。
悟浄の頬から顎にかけて滑り落ちていく・・・・
幾ら暗くても ココが路地裏でも。 通りかかった人間が覗けば判ってしまうような場所で コトに及ぼうと・・「・・まっ、ね。」

『別に、構わねぇし。』


オンナの首筋に唇を落とせば、反り返る華奢な背中。 片手で楽々と腰を抱え、スリットから手を忍ばせれば、紅い唇から嬌声が零れる・・・

『ヤリたい放題・し放題・・ってか。』
体は勝手にオンナの熱を上げていく――――その様子を醒めた目で見つめながら、この状況を楽しめない自分に苛つく。

『・・つまんねぇ・・。』文句を言うヤツはいない 止めるヤツもいない 好きなだけ、好きなことが出来るというのに


「・・・・な。 俺のドコが良かったワケ?」思わず、口からついて出た問いかけ。「・・え?そぉね・・カッコ良かったし。」
快楽の為か、焦点の合わない瞳を向け、「上手そうだったから・・よ。」クスクスと「当たりよね。」と、笑うオンナ。


そう  ただ、“ソレだけ”の男――――――――・・・「・・やっぱ、勃たねぇわ。」


唐突に、体を離されて。 「えっ?・・ちょっ、ちょっと!ドコ行く気?」慌てて半裸の体を隠し、悟浄の背を追い掛け、
「待ちなさいよ!アタシを誰だと思ってんの!?」真っ赤な顔で、前に回り込んだ。

「アタシに恥じかかせて、只じゃ済まないわよっ!!」いきり立って睨み付けてくるオンナに、
「・・・・ソノ気になれねぇんだわ。悪りぃな、オネーサン。」肩を竦め、「他、当たってよ。」さっさと路地を後にした。

背中から、喚くオンナの怒鳴り声が飛んだが――――――悟浄の耳には届かなかった。


『ったくよ・・・。』なにやってんだか、と。自嘲気味の笑いが口元に浮かぶ。

ポケットを探り、新しい煙草に火を付ける。肺にまでゆっくりと吸い込み、溜め息と共に紫煙を吐き出した。

夜の闇が町を覆い、繁華街には人波がひしめく。

香水の匂い 酒の匂い 煙草の匂い ・・・・・・・・様々な匂いが鼻につく。いつもなら、この喧噪に安堵さえ覚えるというのに。

『・・・・アイツっ!?』 人波の狭間に、見覚えのある後ろ姿が在った。
長い黒髪、紅い服、黒いブーツ・・・・・・「・・・もっ・・・!」考えるより早く、駆け出した足。
人にぶつかりながら、罵声を浴びながら、必死に人をかき分け、腕を取った・・「桃花っ!!」

「なっ・・なんですか!?」―――――振り向いたのは、「・・・・悪りぃ。人違い・・・・。」まるっきり別人で。
肩から脱力した悟浄を、女は怪訝な顔で見送った。

暫し、呆然と。 脱力したままの悟浄に、「・・・ちょっと顔貸せや。オニーサンよ?」強面の男達が取り巻いた。
「・・・ナニ?今、ケッコー落ち込んでんだけど。」嫌そうに悟浄が顔を上げれば、「アタシも落ち込んだわよ?」
先程のオンナが腕組みをして、悟浄を睨んでいた。


「・・・さっきの。」惚けた顔の悟浄へ、「ふんっ!このアタシに恥じかかせて町から無事に出られると思ってんの!?」
ああ――――と。悟浄は理解した。 このオンナは、いわゆる町の顔なんだろう、と。
この町の歓楽街を取り仕切っている男の――――オンナ。 
悟浄の事も“つまみ食い”程度に遊ぼうとして、反対に恥をかかせられた・・・と言うワケだ。

「・・・・俺ってば厄日?」はああぁ、と大げさに溜め息を付いて見せ、「降りかかった厄は払わねぇとなぁ。」ペッと煙草を口から飛ばした。











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