勝手に最遊記Ⅱ

勝手に最遊記Ⅱ

Decision―10




眼前の男の鼻面にパンチを叩き込み、左脇から蹴りを繰り出した男の足を軽く受け止め、別の男に体を投げつける。
その勢いを利用し、反転した悟浄は右脇からナイフを突き出した男へ裏拳をお見舞いし、浮き上がった男の顎へと強烈なアッパーを叩き込んだ。


――――――ものの数分。


自分を取り囲んでいた男達は、全員が地面に平伏している。

鼻血を出し 腹を抱え 苦悶の声が切れ切れに喉からこぼれ落ちている・・・・無様な輩。

それらを一瞥した悟浄。

パサッと紅い髪を掻き上げ、「・・・手加減しなきゃならない相手って、疲れんのよ。コレで引き取ってくんない?」
立ち竦んだままのオンナに、冷めた視線を投げた。

「バッ・・バカにしてぇっ!!」
余程、気の強いオンナだったらしい。 すぐに逃げ出すと思ったオンナは、拳を固めて悟浄に突っかかって来た。

「・・ぉっと。」 左へ右へ。悟浄が軽く拳を避けながら、まるでダンスのように身をかわす。
「ちょっとぉ!殴られなさいよっ!!」小馬鹿にされていると思ったのか。ますます興奮してオンナが悟浄へと掴みかかかって来る。
「・・って言われてもなぁ。」たはは、と。避けながら苦笑が漏れた。
オンナに手を上げる気など、更々無い。 だが、殴られてやる気も無いのだ。

―――――――――――――――「なぁ。 悟浄ってなんで桃花に殴られてんの?」


唐突に、浮かんだ言葉


     ・・・・・・・・・・あ。    【ゲシッ】    オンナの拳が 動きの止まった悟浄の顔に、ヒットした。


「・・・いってぇ。」悟浄が呟いた。


「オンナをバカにすると・・恐いんだからねっ!!」 気が済んだのか。オンナが背を向けて逃げ出した。
足下に蹲っていた男達も、後を追うように逃げ出す。




ポツンと取り残された悟浄。

ゴソゴソとポケットを探り、ハイライトを取り出した。

男女の喧噪が  町のざわめきが  妙に遠くに感じる。 その感覚に浸りながらライターで火を付け、ゆっくりと吸い込んだ。





――――――「・・だからさぁ。なんで悟浄は桃花に黙って殴られてるんだ?」



「急にナニ、言い出すんだよ。」悟空と悟浄と桃花の三人部屋。桃花はシャワー中。悟浄はベッドに寝転がり娯楽雑誌を読み耽り、
悟空はウトウトと、ベッドで涎を垂らしていたのだが・・・・・

いつの間に覚醒したのか。 枕を抱え、頬杖を付いて自分へと問いかけてるのだ。

「お前、寝てたんだろ?」「ん?あ。妙に気になってさ。」ゴロン、と。枕を抱え一回転して、「今日も殴られてたジャン。」
確かに。つい、先程も風呂に入る桃花に「俺も一緒に入る~v」等と軽口を叩き、一発、拳骨を落とされたばかりなのだ。

「悟浄なら、桃花の拳ぐらい避けられるだろ?ソレをさ、いつもいつもいつも・・大人しく殴られてるから。」
悟空にしてみれば、些か解せないらしい。いくら桃花が強くても、妖怪でもないし自分達より強い訳でもない。
ソレを敢えて、殴られていると言うのは・・・・「お前さ。判んないワケ?」「ナニが?」悟浄は真剣な顔つきで、

「・・・・・大人しく殴られねーと・・・もっと後が恐いからだよ・・・。」

その説明に、悟空がウンウンと何度も頷きを繰り返したのは、言うまでもない・・。




―――――――――でも、ソレだけじゃない。


そう。 悟空の言う通り、桃花の攻撃をかわす事など造作も無い。 怒り心頭になったとしても、冗談で煙に巻く自信だってある。

じゃあ、何故か。






「・・・・・・・・俺ってば、マザコン?」  サイアクだなぁ・・・と、小さく呟きを漏らして路地に座り込んだ。

小さかった自分を    義母も死に、兄も姿を消し、守ってくれるヒトも 助けてくれるヒトも ましてや―――――

                     叱ってくれるヒトなど   居なかったのだ。


覚えたのは――――― かっぱらい 万引き 喧嘩の仕方 適当に寝場所を探して、転がり込むこと。

生きて行く為には、多少の犯罪など問題では無かった。薬と体を売られる事だけは避けて―――リスクのでかさは知っていたから。
なりふり構わず、少年時代を駆け抜けて来た。早く、大人になりたいと。

幸い、体はでかくなった。手先が器用なのか素養があったのか・・・賭博も上手くなった。
物怖じせず、オンナを口説き、誑(たら)し込む。生きる術を身に付けた――――そう、思っていたのに。



『判んねぇんだよ・・・今でも、な。』―――愛ってヤツ。




八戒達と出逢ってから―――――――随分、自分は変わったな、と。自覚はしていた。



只・・・男同士だから。無用に踏み込まない付き合いだ。




自分も、三蔵達も。 お互い、言いたい事は声を大にして(たまに大きすぎるが)言い合う間柄だが――――
精神の深いトコロには踏み込まない。  踏み込ませない、暗黙の了解みたいなものがある。



だが、桃花は違う。




必要だと思えば―――――スパッと一直線に入ってくる、真っ直ぐに。
例え、その行為が、桃花自身を傷つける行為だったとしても。


「母親・・・って、あんなカンジか・・・?」 長くなった灰と短くなった煙草。唇に銜えたまま、微笑みが浮かんだ。



自分の事を―――――心配して、気にして、怒って・・・・それが嬉しくて、黙って殴られていた。
無論、桃花だって本気で(殺そうと)殴りつけて来るワケじゃない。小突かれてる程度のコトだ。

だから、さっきのオンナとは全然、違う――――――――――「・・・ぁ、成る程・・。」 合点した。




“悟浄君はさ、愛そのものなんだよ”









「・・マジ惚れってヤツ・・?」

恋愛感情とは




果てしなく――――――――――――(思いっ切りっ) 違う意味だケドな。



ギュッと煙草を押し潰した。






「・・・・俺のアイってヤツ。取り戻さねーとな。」  夜空を見上げた悟浄の眼に、チカチカと星が目映いでいた。


































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