勝手に最遊記Ⅱ

勝手に最遊記Ⅱ

Decision―11


溜め込んだ怒りをぶつけるように――――――――― ガッシャアァッンッ ・・・グラスを壁に投げつけた。

はぁっと息を付き、首を振ってマルボロを取り出す。


まさか、悟空が自分に対してあんな―――――――「バカ猿がっ・・!」 先程の言動を思い出し、また憤りが湧いてくる。

ガタンッ。乱暴に椅子を引き出し腰掛けた。薄暗くなってきた闇の中、懐を探りライターを取り出す。
特に照明は必要ない。新聞を読む気にもなれない。火を付け、体中に染み渡らせるように・・・三蔵が煙草を吸い込んだ。


薄い闇の中を彷徨う紫煙・・・・・・空間に溶け込んで消えていく、それらの様を眺めながら・・・軽くはならない、胸の内。


あんな悟空の戯言(たわごと)なぞ――――――取るに足らない事だと。 “三蔵”としての自分には、所詮、関わりの無い事だと。
そう、判っているはずだ。あんなバカな女・・・・・自分で、出て行ったんだ。自分の意志で。



・・・・窓に目線を走らせれば、僅かに残っていた太陽の名残も尽きていた。すぐに真の闇が町を、桃源郷を、覆い尽くすだろう。



・・・何処で野垂れ死のうが、関係無ぇ。目の前で死ななければ。あの煩い奴らの前で死ななければ。それで、良い。
そう約束したはずだ。 いつでも旅から抜けて良いと。 だから、追い掛ける理由なんて 連れ戻す理由なんて――――




“・・・カッコ悪くったってイイじゃねーかっ!!追っかけて、連れ戻せばイイ!桃花の為なんて綺麗事じゃなくって、
俺ら、自分自身の為に!やせ我慢して、大人のフリなんかしたくねーよ!!八戒だって、悟浄だって、三蔵だって・・・
欲しいモンは欲しいって叫べばイイジャンかっ!!”





甦る、悟空の叫び






そんな事――――――――・・・・出来る訳、無ぇだろうが。 紫暗を閉じ、己へと問いかける。



なら、何故なんだ 



この、胸苦しさは





俺は、





“三蔵”だぞ?




――――――“強く ありなさい”――――――







三蔵の紫暗が、見開いた。





ゆっくりと部屋を見回す・・・・・。 壁に掛かった鏡 思わず、覗き込んだ。





「・・クッ・・ククッ・・・。」自嘲的な笑いが込み上げる。





・・・・情けねぇ、面・・・・【バンッ】左手を鏡面にぶつけた。己の顔を隠すように。




コレじゃあ、“捨てられた子犬”って言った、悟空の方が正しいじゃねぇか。こんな表情(かお)晒して なにが“三蔵”だ?




バンッ】・・・・再び、鏡面を叩き付ける。 今度は拳で。



守るモノも 大切なモノも 自分には必要ないと――――失った日から、決めていた事だ。



バンッ】・・・・ なのに・・・バンッ】・・・・ なのに・・・・バンッ】・・・・なのに、だっ・・【バリンッ・・・鏡が、砕け散った。






“ばいばい、 三蔵”








リフレイン する声       瞼から離れない、後ろ姿       突き放せないのは・・・俺の、弱さか・・・・・?


左手から滴り落ちる、赤い血。 そうだ。あの時も・・・・俺の手は、真っ赤に染まっていた。
お師匠様の亡骸を・・・―――――抱えている事しか、出来なかった自分。





「・・・・強く・・か。」 ずるずると、しゃがみ込んだ。短くなった煙草を、床に押しつける。
俺は―――――強く、なったでしょうか?“三蔵”として、在り続けていますか?三蔵として・・・三蔵と・・・「さんぞー。」






「さんぞー?また眉間に皺寄せてさぁ。そのうち、鉛筆挟めるんじゃない?」
「三蔵!三蔵!すんごい、美味しいんだってば!!ホラ!食べてみてってばっ!」
「うっわぁ。三蔵・・・態度悪いよぉ。なにも発砲しなくったって・・極悪だねぇ。」






三蔵の大安売りみたいに呼びやがって・・・・・ったく、アイツにかかりゃあ“三蔵”も只の呼び名だな。




「・・・・・ムカツク。」その言葉は、奇しくも悟空と同じ言葉で。
唐突に沸き上がる怒り―――――ビシッと眉間に皺が寄った。






なんで俺が悩むんだ? あんなバカ女の所為で。
お人好しで、足手まといで、トラブルメーカーで、オマケにケツまでデカイって言うのに。



スクッと立ち上がった。 紫暗の瞳に翳りはない・・・・・その表情(かお)にも、強い意志が宿っている。





強くありたいと―――――――願い続けている俺は、絶対に、強い。 その俺を、惑わせるとはイイ度胸じゃねぇか。









「首洗って、待ってろ。」  三蔵が、不敵に微笑んでいた。










































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