Private eyes Cafe

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Red Moon -第2幕-



そして涼は、極楽島へ・・・
「どこが『少し暑い』だよ。めちゃくちゃ暑いじゃねーか、だまされた。」                      
 涼は島に着いた瞬間、そう叫んだ。            
 その後ろで、『次の船は1週間後です。』というアナウンスが聞こえる。どうやら嫌でもここに1週間はいないといけないようだ。もちろんここに着いた今なら引き返せるが、それでは、この島に来た意味がない。                 
 周りを見渡すと大きな荷物を持った人が大勢いる。     
「そんなにこの島って、人気があったっけ?・・あれ、気のせいかな、どっかで見たことのある人がいるのは・・・。」     
 涼は気づいていないが、この荷物を持った人たちは、じつはドラマの撮影のキャストやスタッフなのである。       

 港を歩いていると、ふと、涼は強い視線を感じた。気のせいかと思ったが、どうやら気のせいではなかったようだ。遠くの方に涼をじっと見つめる人がいた。             
 しかし涼が、相手のことを確認しようとした時には、その相手は人込みに紛れて消えてしまった。            
「今のは、誰だ・・」                  
そんな涼のつぶやきをかき消すように、後ろから声がかけられてきた。                        
「お久しぶりね、滝河君。」               
 声をかけてきたのは、白いドレスを着た神尾真理だった。   
「なんで・・神尾、おまえがここにいるんだ。」      
 涼はかなり驚いていた。真理とは、2月・・・いや3月だろうか・・・以来全く会っていなかったのだから無理もない。                

―神尾真理が同じ船に乗っていたこと、これが港で涼の見逃していた1点目であった。             


「神尾、学校を辞めてからどこに行ってたんだよ。」   
「海外・・とだけ言っておくわ。」           
「・・そうだ、そんなことより何でお前が・・・」    
涼のその言葉は途中で他の言葉によってかき消されてしまった。そのかき消した言葉というのは・・・         
「やれやれ・・どこかで見たことある人だなと思ってきてみたらあなたたちですか・・」               
その声の主は高山楓といって、作家兼マジシャンという変わった職業の持ち主である。

―高山楓も同じ船に乗っていたということ、これが、涼の見逃していた2点目であった。             

「楓さんまでここにいるのかよ。」             
「何を言っているんですか、涼君。この前言ったでしょう。 極楽島に行くと・・・。」                   
「そ、そうだったっけ?」               
 涼は、楓からそう言われていたことをすっかり忘れていた。  
「どうやら物忘れが激しいようですね。式の時に言ったでしょう。旅行を兼ねてというわけにはいかないのですが、ドラマの撮影のために、ここにくる予定とね。」          
 (そうだった、すっかり忘れていた。この前の楓さんの結婚式の時に言ってったっけ。)                
 実は、高山楓は今年の五月二十九日に結婚したのだった。もちろん、そのお相手は・・              
「楓さん、そろそろ行かないと置いて行かれるわ・・・」  
「真琴さん。」                     

楓の婚約者は、新人女優の柳真琴(結婚しているので、高山真琴というべきなのだろうが・・)で、楓の高校の同級生でもある。涼が真琴と知り合うことになったのは、去年の今頃(正確には七月七日だろうか・・)だった。その時の涼の仕事は、真琴の『月の鏡』を取り返すことだった・・・        
「そうですね、仕事もありますしそろそろ行きますか。」  
 そう言って去ろうとする楓に、真理は声をかけた。     
「この前の二月はありがとう。頼んだとおり邪魔をしないでくれて・・・。」                       
「礼を言われるほどのことは、何もしていませんよ。何もしなかっただけですからね。」                    
「そう・・・それで、今ここにいるのは本当にドラマの撮影のためだけかしら?」                    
「それは、どういう意味ですか。」            
真理の言葉に、楓は不思議そうにたずねた。               
「・・知らないのなら、別にいいわ。たぶんあなたには関係のないことだと思うから。」                
「そうですか、それならいいのですが。・・・でも、引退した人間を引っ張り出すのだけは止めてくださいよ。」     
 そう言い残して楓は、真琴とともに仕事へと向かった。   
 真理は、「相変わらず読みが鋭いのね。」と思った。    
 「おい、神尾。楓さんと何を話してたんだよ。」      
  考え事をしていた真理に、涼が声をかけた。        
 「別になんでもないわ。」                
 「・・まあいいけど、それよりもお前いつから俺がいることに気づいていたんだ?」                  
 「気づかなかったの?私は高崎港で気づいていたのよ。」  
 「・・・・・・・」                   
 「本当に気づかなかったのね。注意力に欠けているわよ、滝河君。」                         
 (注意力といえば・・・)涼はさっきのことを思い出した。 
 「そうだ、お前さっき向こう側にいたか?」        
 そう言って涼は、先程視線を感じた方向を指さした。     
 「?? 私は船を降りてすぐにここに来たから向こう側に行っていないわ。何かあったの?」             
 「いや、何か視線を感じたから、少し気になっただけだよ。」
 「その視線は、私ではないわ。・・それにその視線も気のせいじゃないのかしら。」                  
 「・・・・・・・」                   
 (そうなのか・・気のせいなのだろうか?)
 涼は、何か心に引っかかるものを感じていた。               
 「滝河君、何で私がここにいるのかって聞いたわよね。」  
 「あ、ああ・・」                    
  涼は、真理に言われて自分の言った質問に戻った。     
 「そうだよ、何でお前がここに・・」           
 「実は・・・ そう言えば滝河君、彼女はどうしたの?」  
 「え、ああ、雪絵のことか。」              
 「他に誰がいるのよ。一緒に来たんじゃないの?」     
 「いや、一緒には来ていないけど。」           
 「どうして?珍しいわね。滝河君1人で来たというの。もしかして、ケンカでもしたの?」               
 「そんなんじゃねーよ。ただ、金がなくて俺が2人分の旅費を出せなかっただけだよ。」                
 「何言ってるの。高瀬さんの分は高瀬さんに出させればいいじゃない。」                       
 「・・・そうだな。」                  
 (そう言われてみたら、雪絵の分は雪絵に出させればよかったかな・・そうすれば2人で一緒に来れたのになあ)     
 涼がそんなことを考えていたら、真理が話しかけてきた。  
 「・・でも、滝河君が2人分の旅費を出したほうが、かっこいいとは思うけどね。」                  
 「・・・・・・・やっぱり、そうだよな。」        
涼は、無理してでも雪絵の分まで出すべきだったかなと反省した。しかし、もう後の祭りであろう。たぶん・・・     
そんな涼を横目に真理は、「高瀬さんがいないのは好都合だわ。」とつぶやいていた。もちろん涼はそのつぶやきに気がついていない。                       

 「・・そんなことよりも、何でお前がここにいるんだよ。さっきからこの話題、何度も出しては消えてるぞ。」      
 「自分でも忘れていたじゃない。」            
 「・・・そうだけどさあ。」               
涼は、真理のキビシイツッコミに少したじろいだ。真理の言う通り、1回は真理に示唆されている。           
 「まあいいわ、教えてあげるわ。でも立ち話もなんだから、涼しい所で話しましょ。」             
 それから、涼と真理の2人は、涼のおじのホテルへと向かった。実は真理の宿泊先も、涼のおじのホテルだったのだった。 
2人が港を離れる時に、極楽島を離れる船の汽笛が響いた。

 それから、2人はホテルに着いた。着いてすぐにチェックインをしようとすると、フロントには先客がいた。       
 「・・・なんで・・どうして?」             
 「そんなに私がここにいるのが不思議?」         
  先客は雪絵だった。                  
 「・・不思議っていうか・・」              
 「気づかなかったの?私、港にスーツケースを持ってきていたんだよ。」                       

 -そして、高瀬雪絵も同じ船に乗っていたということ。これが、涼の見逃していた最後の点であった・・・。      

 「でも、私がここにいることよりも、彼女がここにいることの方が不思議じゃない?」                 
 雪絵は、そう言いながら真理を見た。           
 「そう、不思議かしら?・・でも私には、ここに来る理由があるのよ。」                       
 「ここに来る理由?どういうことだ。」          
  真理の言葉に、涼は疑問を投げかけた。          
 「滝河君、あなたさっき私に聞いたじゃない、『何でここにいるのか』って。その答えが、ここに来た理由になるでしょ。そして、それを教えるためにここに来たじゃない・・滝河君、 いえ、この事に関してはあなたのことをこう呼んだ方がいいのかもしれないわ・・・怪盗チェリーさんってね。」      
  「怪盗チェリーの仕事だというのか。」          
  「そうでもあるわ・・というのが正確かしら。私の仕事でもあるから・・」                      
  「探偵の仕事なのか、それとも・・・」          
  「そう、もう一つの方・・マリー=ローズの方の仕事というわけよ。」                        
  「どういうことだ。」                  
  涼の目は、真剣になっていた。              
  「実は、この島のどこかに・・」             

 「涼!久しぶりだな」                  
真理の言葉を消すように涼のおじ「滝河龍二」が声をかけてきた。                        
それから涼と龍二の(正確には龍二の一方的な)思い出話が始まった。が、この話は少し長いので中略・・        

  ―1時間後―                      
 「・・そうだ、涼。お前にも見せてやろう。わしの宝物を。」 
 「宝物?」                       
 「まあ、ついてこい。」                 
そう言っておじは、歩いていく。涼は後についていく。   
しかし、その前に・・                  
  「雪絵、神尾、一緒に見に行こうぜ。」          
二人に声をかけたが、すでに二人はいなかった。      
涼は時計を見て、(一時間もほったらかしにしてたら仕方ないか)と思い、おじの後を追いかけた。           

おじの案内した場所は、ホテルの地下室であった。そこは厳重な警戒態勢・・とまではいかないが、それなりに警備をしていた。おじはロックを解除してくれて、中に入れてくれた。 
広い地下室にあったのは、ガラスケースと、それに入れられている宝石だった。                    
宝石を前におじは語りだした。              
 「涼、これは『紅』と言う宝石でな。わしが知り合いから譲り受けた物だ。・・昔、親友の・・・・・・・から」     
おじは、思い出に浸っているのか 涙を流しながら語ったのでよく聞き取れなかった。                
 「・・ま、ゆっくり見ていってくれ。」          
おじは、そう言って出ていく。              
 「おじさん・・いいのかよ。宝物をほっといていって・・」 
そう言いながら涼は、宝石の方に近づく。ガラスケースの中の宝石は、その名の通り、本当に赤かった。
 「これが紅か・・確かに綺麗だな。」           
 「そうね・・なんといっても魔の水晶ですもの・・」    
 「神尾、お前いつの間に・・」              
涼が振り向くと、ドアの所に真理がいた。         
 「その水晶が、『レッドムーン』ね。」          
 「レッドムーン?」                   
 「そう、その宝石を探しに私はここに来たのよ。」     
 「それが、お前がこの島に来た理由というわけか。」    
 「・・そうなるわね。」                 
 「この『紅』をどうする気だ?」             
 「もちろんいただいていくわ。その『レッドムーン』をね。」
 「何を考えているんだ・・」               
 「さっき少し言ったでしょ、私と・・あなたの仕事だって。」
 「・・怪盗チェリーの仕事って言われてもなあ・・」    
 「まあ、分からないのも無理ないわ。その水晶が、第3の水晶・・いえ、『魔の水晶』と呼ばれていることをね・・」   
 「魔の水晶・・さっきもそんなことを言っていたな。」   
 「ええ、そう呼ばれるだけの理由があるのよ・・・滝河君、『誘惑』と『虹』の水晶のことは覚えているでしょ。」    
 「覚えているも何も、忘れたくても忘れられねーよ。あの出来事すべては・・」                    
 「確かにそうね。お互いに忘れたくないし、忘れるわけにはいかないわね・・」                    
 「・・で、あの水晶がどう関係するんだ。」        
 「・・実は、水晶はあの2つだけじゃなかったのよ。まだ、もう1つ残っていたのよ。」                
 「それが、この『紅』ってわけか。」           
 「そうよ・・」                     
 「ということは、この水晶を壊すつもりか。」       
 「もちろん、そのつもりよ。」              
 「・・・・・・・」                   
 「そこで、滝河君・・いえ、怪盗チェリーさん。私に協力して欲しいの。」                      
 「協力って、俺に何をさせる気だ。お前なら今ここで簡単に盗れるだろ。」                      
 「・・そうね、確かに盗れないわけではないわ・・でも、本当にそれでいいのかしら。」                
 「何が言いたいんだ、神尾。」              

 「あなたのおじの宝物なんでしょ、その水晶は・・」    
 「聞いていたのか。」                  
 「その宝物を私が簡単に盗っていいわけ?」        
 「・・・・・」                     
 「いいのね、だったらそうさせてもらうわ。」       
 「・・・・・・・・・・・」                  
  涼は、小さくつぶやいた。                
 「滝河君、なにか言った?」               
 「その宝石は、盗らせねーよ!」             
 「・・そう、交渉決裂といったところね。」        
その言葉と同時に、真理の衣装は、白いドレスから、赤いワンピースに変わった。                
 「マリー=ローズの登場ってわけか・・そっちがその気なら、こっちも・・」
 そう涼が言った時、上から悲鳴が聞こえた。        
 「きゃあーーーーーーーーーーーーー」         
 「?」                         
 涼は、その声を聞いて真理に、「勝負はいったんお預けだ。」と言い、上へとあがっていった。              
 「好都合だわ。・・・悪く思わないでね、滝河君。」    
 その言葉を残して真理は、消えていった・・。       

 ホテルの一階では、高さ三メートルぐらいの彫像が倒れていた。幸い下敷きになった人はいなくてけが人もいなかった。涼が着いた時には、客とおじがなにか言い合っていた。       
「このホテルは管理が悪いのかよ。」と客が言えば、おじは、「いえ、そんなことは・・」と答えている。                         
 その言い合いを横目に涼は倒れた彫像に向かった。よく見ると倒れるように仕掛けがしてあった。さらになにか紙切れが付いていた。その紙にはこう書かれてあった・・。       


 ―このホテルにあるという、十文字司より受け継いだ紅い宝石をいただく
                                                         ・CROSS・     

  「CROSS・・・?」                 
  涼は、じっと紙を見つめてつぶやいた。          


         ―舞踏会の楽曲は、演奏され始める・・・



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