新 緑仙の日々是好日

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R.咲くや姫

R.咲くや姫

2011.02.21
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カテゴリ: 物書き


契約の場所


「ここは僕と君だけ二人の秘密の場所だよ。誰にも
 教えはしない、君も誰にも話しては駄目だ!」

 そう彼は言って、私を激しく抱いた。
 愛されている‥私はこの人に愛されている!
 私の身体は、そう反応した。

「こんな世の中だから
 僕たちは、いつ離ればなれになるかも知れない。

 たどり着いて欲しい。」

「そうね‥もしそんな事が起きたら私はあなたを
 此処でずっと待つわ‥愛している‥」

「愛してる‥君は僕の永遠の恋人だ。そして此処は
 二人の愛を誓った場所だ。」

強く抱き合って長い口づけをして、二人はその秘密の
場所を後にした。
戦争は、悪くなるばかり‥
所詮、「悪魔」との戦いに勝てる筈もないのだ。
それから、どのくらいの時が経ったのだろう‥
私は、暗い地下牢に閉じ込められ闇の世界に

世界は、「悪魔の広場」となり、よどんだ色の
徒花が咲き乱れた。人々は操られ、うわべだけの
「喜び仮面」をかぶって生活することを余儀なくされ、
逆らったものは、暗闇の地下牢に閉じ込められ
毎日、過酷な労働を強いられた。


なってから地上時間で30年後のことだった。
もはや、昔の同志もいない。
狂おしいほどに、愛した人もいない。私は独りぼっちで
薄汚れたアパートで、掃除婦の仕事をしながら
それでもなんとか静かな暮らしを手に入れた。

そんな日々がしばらく続き、古びて壊れかけた
メディアの中に、あの日、あの時、永遠を誓ったあの人が
「ネオリーダー市長選挙」に立候補している姿を見た。
私は、ずっと今でもあの人を愛していた。

逢えなくなって、もう生きていないのかも知れないと
思っていた人が、兎に角、生きていた。
「良かった‥」と‥

しかし、その喜びはたちまちに消え去った。
あの人の後ろに立っている女は憎い「悪魔の勝利者」の
愛娘‥にこやかにあの人の肩に手を置き、
笑って立っている。

あの女は、かつて「秘密の場所」を笑いながら
粉々に破壊した女ではないか?あの時はまだ少女
ではあったが、その破壊の力は、凄まじく同志も
大勢殺された。それが、何故、私が愛した人と
一緒に立っているのか?
「驚愕!‥」

私が地下牢で陵辱されている間に何があの人に
起こったのだろう?
何故に私を、そして同志を裏切ったのだろう?
訳が解らなかった。
馬鹿を見たのは私だけか‥?

その夜、
私は、懐かしき「秘密の場所」に行ってみることにした。
もう、何も痕跡も残っていないと思う。
青春の全て、善の全てだった、その場所は
「英雄の丘」と記念碑が建てられていた。
そこに刻まれた名前は、あの人の名前だった。
「英雄‥か‥」
あの人は国を売ったのか?同志を死に追いやったのか?
私はあの人のなんだったのだろう?
溢れる涙が、黒い土に吸い込まれてゆく。
どんなに悔んでも、もう今更どうにもならない。
あの時に、戦った私もその仲間も全部「疫病」の
レッテルを焼き印されている。
愛する人の裏切りを確信した私は絶望の淵に
堕ちて行く音を聴いたように思った。

泣き崩れ、黒い土の上で座り込んでいると
足元から小さな声がした。

「僕の上に乗らないでよ‥」

「誰?」

「此処だよ?僕は‥」

「誰?どこに居るの?」

「君の足元だよ。僕はフーケンっていう妖精。
 小さいけど、毎年此処に芽を出すんだ~」

私の膝の下にそっと芽を出している草の上に
小さな妖精が居た。
フーケンは、大地の妖精、智慧の聖‥
そう聴いたことがある。

「前に此処が春色の花で覆われていた時に君は
 此処を素直な心で愛していてくれたでしょ?
 僕は、純粋な気にしか反応しないだ~」

「毎年、芽を出すって‥草木は政府が全部刈り取って
 しまうでしょう?それでも芽を出すことが
 あなたは出来るの?」

「出来るよ!僕は頭も良いからね。それに強い味方も
 いるんだ。一番の仲良しは「ムンゲツ」二番目は
 「クラマン」って言ってね、生物が生きる源泉
 なんだよ。今度会わせてあげるよ。」

「この英雄の丘は、今は政府のシンボル。
 ここに名前が刻まれている人は昔、私の恋人
 だったの。みんなを裏切って私の事も捨てたのよ。」

「ふ~ん‥
 戦いが起きるとそんなヤツばかりになるんだよ。
 善とか悪とか僕は知らないし、関係ないし、
 草木を全部根絶やしにされたって僕たちは平気さ!」

「根絶やしにされたら、生きてはいけないじゃない?」

「そんなことはないさ‥
 じっと待てばいいんだよ。
 そうだ!君が居た地下牢はね、今では僕たちの
 エネルギーの倉庫として使っているんだ。
 悪魔の広場の下にある輪廻の組織さ‥(笑)」

「組織?
 妖精の組織?」

「違うよ。時間構成局のことさ‥
 今の政府の寿命はそう長くは続かないさ。
 君を裏切った男も一時は腐った花を咲かせるけど
 すぐに散るよ。」

「時間構成局って何?」

「この星の時間をシステム化しているところさ」

「あなた達は人間じゃないの?」

「君は、案外頭が悪いね~笑
 僕たちは彼方のエリアに住んでいるんだよ」

「そう‥?
 でも、私は人間だもの。
 それに、今は、悔しい気持でいっぱい!
 愛していた人に裏切られて、
 而も,敵の女と通じるなんて酷いわ‥
 残虐に殺し、弄んだ悪魔の女‥私は忘れないわ‥
 みんな、泣きながら苦しみながら死んで行ったのよ」

「そうだね。
 それは君にとっては辛いね‥
 じゃあ、僕と契約をしないか?
 君は、ひと月に一度、君を血を一滴、僕の上に
 流してくれ‥そうしたら僕は友達とその血を
 分け合って君に夢の春をプレゼントしよう。
 今、この世界に生きている人間の誰一人として
 見ることの許されない春だ。」

「それでどうするの?」

「僕たちは、君の血から情報を収集する。
 僕だって、悪魔の広場を許していないさ。
 あいつらは、「楽」を選んだんだよ!」

「楽?‥そうか‥そういうことなのね。」

「ムンゲツもクラマンも<楽>を選ぶ奴らが
 大嫌いなんだ!
 秘密の場所で今度は僕たちと契約しようよ?」

「契約って?私の一滴の血で
 何をするの?それが何になるの?」

「まだ、解らないんだ~
 人間って戦略が下手なんだね。
 それから、報復も‥
 いいかい?君の血は僕たちの新しい情報源となり
 いずれ、僕たちがこの星を再び支配する。元々、
 僕たちのものだからさ、僕たちが創った星だから‥
 君の悔しさは、僕を見つけてくれたお礼に
 僕が仕返ししてやるから‥大丈夫!辛い事や
 痛いことなんかしないから‥
 ただ、楽を選んだ奴らには生涯本当の「春」を
 与えてはやらない。君には本当の春を魅せる‥
 神との約束さ!」

「あの頃のような春?」

「そうだよ‥君はこれから春の一員になるんだよ。
 憎いヤツになんか「春」を渡してはいけないよ。
 そのうち、彼らも気付くだろう‥でもね、気付いた
 時は彼らは終わりだ。」


「春を渡さない‥」

「そうだよ、うわべ仮面の連中はずっと真冬の中で
 暮らすんだよ。それに気付きもしないで‥」

「私はそれでどうなるの?」

「僕とムンゲツとクラマンと一緒に
 新しい時間を再構築するんだ。そのうちに君の
 傷付いた心もピンクの花を咲かせる。
 少し、花芯に血は残るかも知れないけれど‥
 その男は、その美しさを知らないままに
 悪魔の広場で悪魔の娘と生を成さないままに
 果てる。」

「本当に?嘘じゃない?」

「僕を誰だと思っているの?
 神域の住人だよ。嘘は付かないよ」

「それじゃ契約書にサインするわ!」

「じゃ、君の血を‥」

私の小指から滴る一滴の血。
それが、黒い土の中に吸い込まれた。
見る見る内に小さな芽が大木となり美しい
手鞠のような花が沢山咲いた。

この花は私だけが見ることを許された花。
私を裏切った人には見えないのだ。
それで良い。
私は、一人此処で静かに生きて行こう。

空には満月が上がっていた。
海の香りと森の香りが私を優しく包んだ。
少し、眠ろう‥
フーケンがそう言った。





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Last updated  2011.02.21 12:27:43
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