自分をマッタリと愛しませんか?

自分をマッタリと愛しませんか?

楽天横丁の災難





今日も楽天横丁は賑やかだった。目玉屋、ヨンダルサ、市場も平和に時間が流れていた。子供達も元気に駆け回っていた。小太郎も一緒に遊んでもらっていた。



「こう平和だと、また何か騒動が起きるような気がするのよねぇ~」と小太郎の母、「そうねぇ、私達がこうやって集まってると必ず騒動がおきるもんねぇ」となっつちゃん。「何いってんの!平和で結構じゃない~。たまにはこんな毎日が続くのも悪くないわよ~」と目玉ちゃん。


そう、目玉屋に集まってお茶をしていたこの面々・・・騒動が起きるのはいつもこんな時だったから・・

そこへきうぴinちゃんが子供を連れてやってきた。「こんにちは~。遅くなっちゃったわ・・クンミが髪型が気に入らないって・・ぐずるもんだから・・」先日の騒動で「お化粧」に目覚めたクンミは化粧がダメなら髪型だけでもと・・抵抗していたのだった。

そこへ・・見知らぬ男がやってきた。「すいませんが・・ヨンダルサの社長にお会いしたいんですけど」と・・小太郎の母達は・・嫌な予感がしてきた・・・

アベルが目玉屋へとやってきたのはそれから暫く経ってからだった。なっつちゃんが市場へ呼びに行き、仕事を中断してきたのだった。

その男はアベルを見つけると駆け寄って抱きついた。「アベル!!逢いたかった!」

アベルは避けきれず・・男の顔を見た。「スヨン!」

あっけにとられる目玉屋の常連・・・男同士の抱擁は・・少し異様だった・・・・・・



目玉屋でアベルとスヨンが話してるのを小太郎の母達はちゃっかりと・・盗み聞きをしていた。どうやら学生時代の友人らしいが・・スヨンという男の雰囲気が少し変わっているのが気になった。アベルを見る目つき・・・まるで恋人を見るような・・・・



ミンジェと柳も目玉屋にやってきた。アベルが柳に言った。「スヨンを家に泊めてもいいかな?」「いいけど・・・それでどうするの?遊びにきたの?」と柳にしては珍しく警戒していた。言いようのない不安・・ そう・・騒動の始まりだった。



アベルと柳・ミンジェの家にスヨンはやって来た。荷物は着替えだけだった。ヨンダルサを手伝うと言う。どうやら・・遊びにきたわけではなかった。食事の支度をしている柳の所へとアベルが来た。なんと「エプロン姿」だった。驚く柳・・



「久しぶりなんで俺が作ろうかと思って・・だめかな?」とアベル・・「別にいいけど・・今まで料理はしてくれた事なんてなかったじゃない?そんなに大切な友達なの?」ちょっと不機嫌になった柳・・・そんな柳を抱きしめ「あいつは特別なんだよ」と・・



「おい!アベル、俺の嫁さんを抱きしめるなよ!」とミンジェ・・中々複雑なようで・・笑



そして夕食・・アベルが腕をふるって・・チゲや天ぷらなど・・4人で食卓を囲む。「珍しいのよね・・ホントにアベルが食事の支度なんて・・」と柳はまだ言っていた。ミンジェは「たまにはいいもんさ~。男が作る食事もね」と至ってのんきであった。

「ヌナ!コレも食べて!」とアベルは上機嫌で柳の口へと料理を運んだ。照れる柳・・ふくれるミンジュ・・スヨンは黙々と食事をしていた。



翌日からスヨンはヨンダルサで仕事をしていたが・・仕事場所はアベルとずっと同じだった。友達だからと、みんな何も言わなかったが・・ミンジュはさすがにおかしいと思っていた。家でも一緒・・仕事でも・・となると・・まさか・・そんなバカな事はないだろうと思いつつも・・ギモンが・・



柳も変だと思っていた。人当たりはいい方だけれど・・アベルが一定の人・・まして男とずっと一緒に仕事までしてる・・食事を作ったり・・ソコが怪しい・・おかしい・・・



目玉屋では小太郎の母となっつちゃん・・目玉ちゃんときうぴinちゃんがスヨンについて話をしていた。「あれは・・恋をする瞳だったじょぉ・・」と小太郎の母・・「そうそう・・熱い視線をアベルに送っていたしね・・」となっつちゃん、「でも学生時代の友達なんでしょ?」ときうぴinちゃん・・



「あの目はおかしかったよ・・絶対おかしい・・」と目玉ちゃんまで・・・「おいおい・・アベルはまともだぞ・・」とジニ君が黙ってられなくなって口を出す。

そして全員が爆笑していた。そうだよね・・と口々に言いながら・・・

そこへスヨンが1人でやって来た。「アベルは一緒じゃないの?」と目玉ちゃんが聞くと「いやだなぁ・・いつでもどこでも一緒なワケじゃないですよ~」とスヨンが言った。「でもお似合いだと思ってくれますか?」と・スヨンがあっけらかんと言い放った・・みんなが黙った。



アベルが目玉屋へとやってきた。スヨンを探していたのだった。「ここにいたのか、目玉ちゃん俺にもご飯くれる?」と言ってから「何だか妙な雰囲気だな・・??何かあったの?」

「何でもないわ、アベル魚でいいの?」と目玉ちゃん



「俺に何か用事でもあったのか?アベル」とスヨンはご飯を食べながら聞いた。「あぁ、町に行くんだけど一緒にどうかと思ってさ。行くか?」「本当?行く!そっか・・町もたまにはいいもんだよな」とスヨン・・・その会話を複雑な表情で見ていた常連達・・・



ミンジェと柳が目玉屋へとやってきた。「どうしたの?何か変な雰囲気だけど?」と柳、さすがにアベルと姉弟だ。「あのね・・スヨンって人・・アベルを狙ってるのかもしれないじょぉ・・」と小太郎の母が言う。「さっきなんか、お似合いですか?なんて」となっつちゃん。



「こらこら、冗談だったに決まってるでしょ?」と目玉ちゃん。柳とミンジェは目が点になっていた。



話を聞いて笑い出す柳とミンジェ「そんなの冗談だわ、アベルがいくら恋人がいないからって・・ねぇ・・?」「そうだよ、いくらなんでも突飛すぎるよ。アベルが男と・・?」

でも・・なんでもありの妄想ドラマ・・・突飛上等・・なんですわぁ・・・笑



その頃町で買い物をしていたアベルとスヨン・・「プリクラを撮ろう!」とスヨン「そうだな。最近写真も撮ってないし・とアベル。男同士の2ショットのプリクラ・・・ちと・・不気味だったが・・イケメンなのでOK。



アベルは柳への土産にとアクセサリーを見ていた。するとスヨンは「プリクラがお土産じゃダメかな?」と笑って聞いた。「土産がないとすぐに拗ねるからな・・姉さんは・・」「じゃぁ、俺が選んでやるよ!」



柳への土産は小さくてでも好きそうな「くま」のマスコットが付いたキーホルダー。「お前よく姉さんの好み知ってるなぁ」とアベル・・「そりゃわかるさ!部屋にぬいぐるみがあるじゃないか~」とスヨン・・そう、柳は「クマ」が好きなのである。部屋中に大小様々なぬいぐるみ・・それは全てアベルからの贈り物だった。



スヨンが言った。「これで俺も家族になれるかな?」「おい・・どうしたんだ?少し変だぞ?いきなり訪ねて来たり・・ヨンダルサで仕事を始めたり・・」とアベル。「ちょっとお茶でも飲んで行かないか?」とスヨン・・・2人は近くの喫茶店に入った。



「実は・・・両親が死んだんだ。事業に失敗して・・・・心中さ・・・俺は留学先でそれを知って帰国したんだ。何も相談もしてくれず・・・・勝手に死んじまった。」スヨンは話だした。黙って聞くアベル。「残ったのは膨大な借金と・・・・俺だけ・・・・周りにいた友達もあっという間にいなくなったさ。金だけの繋がりの友達は・・・」吐き捨てるように言った。



「そんな時、弁護士だってヤツがやってきて借金の整理なんかを片付けてくれたんだ。生きた心地がしたのは借金が全て帳消しになってからだ・・・・」アベルは何も言えなかった。スヨンは高校時代の親友だった。家が裕福でもアベルとは気が合った。まさか、そんな事になっていたなんて・・・・



「その弁護士ってヤツが頼みがあるっていうんだ・・・アベル・・・・楽天横丁を俺にくれないか?」「何?なんだって・・・・?」とアベル・・・意味がわからなかった。



「弁護士ってヤツが言うには、ある人が楽天横丁を再開発地域として買取したいらしいんだ。ショッピングモールを計画してるらしいけど・・・・・誰かの圧力があって楽天横丁には手出し出来ないらしい・・・」そこまで言うとスヨンは水を飲んだ。アベルは呆然としていた。



「でも、楽天横丁は俺の所有物じゃないんだって事ぐらいお前だってわかるはずだけど?」やっとの思いで出た言葉・・・・そう・・・楽天横丁はみんなが頑張って生活している・・・誰の物でもない・・アベルは横丁の面々を思い出してした。



「わかってるさ、一緒に生活してみて・・・本当に良い所だと思ったよ・・・でも、お前がいなくなったらあっという間に寂れてしまうだろう?」スヨンの言葉に愕然としたアベル・・・



「おい、その弁護士の名前を教えてくれないか?何故横丁が必要なのかちょっと調べてみたいんだ」とアベルが言うと「無駄さ。向こうから勝手に連絡があるだけで俺には名前すら教えないんだから・・・・」とスヨン・・・・



暫く考え込んでいたアベルは「横丁の見返りにお前は何を得るんだ?」「俺か?弁護士が言うにはもしも上手く横丁が手に入ったら親父がやっていた会社を再建してくれるんだと・・」スヨンは少し投げやりになって言った。「別に会社を取り戻したいワケじゃない。再開発によってお前も俺も生活が良くなれば幸せじゃないか?」



「帰ろう・・・。それとこの話は姉さん達にはするなよ」とアベルは先に店を出た。スヨンが慌てて追いかけてくる。「怒ったのか?」とスヨン・・「お前も幸せはお金で買えると思っていたのが・・・・ショックだっただけだ・・」アベルはもうそれ以上は言わなかった。



目玉屋では常連客同士での噂話が暴走していた。ただでさえ賑やかな連中がアベルとスヨンの関係を自分達の主観で話すので手に負えない・・・・さすがのジニ君も苦笑するしかなかった。そこへ2人、アベルとスヨンが帰ってきた。・・続く

楽天横丁の災難   2話

「お帰り~。早かったのね」と目玉ちゃんが声をかける。「ジニ・・ちょっといいかな?」とアベルは目玉ちゃんには軽く会釈をしてジニ君と目玉屋の奥へ入っていった。スヨンは1人座り「酒下さい」と言った。

「どうしたの?ケンカでもしたの?」と目玉ちゃんが心配してお酒とつまみを持ってスヨンの前に座った。「ケンカなんかしませんよ~なんでもありません・・・」そういってお酒を飲み始めたスヨン・・・後悔していた。誤解されただろうか?いい生活に戻りたいワケではなかった。アベルの為にもなると思って話たのだった。

ジニとアベルは楽天横丁の事はある程度は把握していた。親達が協力してくれているのも知っていた。「再開発を狙ってるヤツがいるらしいんだ。弁護士を通してスヨンに指示が出てるらしいが名前も判らない。でもスヨンの借金の処理をした弁護士が分かればそこから辿っていけるよな?」とアベル。「全く・・・どうしていつもこの横丁が狙われるんだ?」とジニ君はため息交じりに言った。

「OK、早速調べるようにしよう。でもこの事は俺たち2人だけで処理しよう」とジニ君の提案に「モチロン」とアベルは嬉しそうに答えた。これで手がかりが出来るはずだ。

スヨンは目玉ちゃんと飲んでいた。「アベルも大変だったのよ・・今は落ち着いてるけどね」目玉ちゃんが話始めた。「お姉さんの結婚の事?」とスヨンが聞く。「違う・・もうずっと前の事になるけどご両親が現れたの・・・お兄さんまで・・・」「え?アベルは母親だけしかいなかったんじゃ?」とスヨンは驚く。そこへアベルが戻ってきた。

話途中で目玉ちゃんは席を立った。「詳しい事は私が言うより本人に聞いてね~」と・・
「何の話をしてたんだ?とアベルが聞く「お前の両親が現れたってどういう事?お前は母親しかいなかったよな?」とスヨン・・・「あぁ・・・その話はそのうちにするさ。飲もう」とアベルははぐらかす。今その話をするにはスヨンの状況があまりにも悪すぎると判断したからだった。

ジニ君は電話をしていた。まずはスヨンの親がどうして事業に失敗したのか調べる事が先だった。アベルには言わなかったが大抵事業の失敗には裏に何かが隠れている事が多い。ましてやその繋がりでこの楽天横丁の買収が絡んできているとなれば必ず何かがある。そう考えての行動はさすが「お坊ちゃま」である。

アベルとスヨンは家に戻った。柳とミンジェは起きて待っていた。「お帰り。遅いと思ったら目玉屋に行ってたのね?」と柳が睨む。「ごめん、これお土産」そういってアベルは柳にキーホルダーを渡した。「可愛い!ありがとう、アベル」「選んだのはスヨンさ」「そうなの?スヨン、ありがとう」「僕にはないの?」とミンジェが言う。「じゃぁ・・・これあげるよ」そう言ってスヨンが2人のプリクラを差し出した。面食らうミンジェ・・そしてみんなが笑う。

アベルは外で風に当たっていた。気持ちがいい・・・・スヨンの事は今はジニに任せよう。普段どおり接していればいいわけだから。そこへミンジェが来た。「眠らないのか?」と言いながら「一杯やらないか?」と焼酎持参だった。

2人で飲みながら・・・ゆっくりとした時間が流れていくのを感じていた。「なぁ・・もし、もしもだけど自分の親が現れたらお前どうする?」とアベルが聞く「どうもしないさ、今と何も変わらなく生活していくよ。」とミンジェ。「もしも・・親が金持ちでも?」とアベル。
「金持ちだろうが貧乏だろうが俺は関係ない・・ここが俺の居場所になってるんだ」答えるミンジェ・・その横顔は逞しかった。

翌朝ジニ君からアベルに電話が来た。「会社まで来てくれないか?横丁では話せない内容なんだ」「わかった。お昼にソッチに行くよ」アベルは電話を切って市場とは逆の方へと歩いていた。

アベルは両親に逢っていた。最近では珍しくない光景になっていた。少しづつだけれど取り戻しつつある親子の絆。「今日はお聞きしたいことがあって・・」とアベルは口を開いた。
両親はアベルの話をじっと聞いていた。話が終わって父親が変な話だと呟いた。

今では楽天横丁はジニとアベルの親が守っている状態だったが、政財界でも息子達が関わってる場所だと知ってる人は多かった。あえてそんな場所を選んで再開発を計画する輩がいるとは到底考えられない。海外の投資家が絡んできてるのかもしれないと父親は言った。
アベルはそれだけ聞くと「ジニと逢う約束がありますので」と告げて帰っていった。

ジニとアベルは座敷で食事をしながら話ていた。「どうも、やっかいな事になってるぞ」とジニ君・・・「横丁は大丈夫みたいだけど?」とアベル。「スヨンさ、彼の親がやっていた会社は誰かにワナをかけられて倒産したみたいだ」「え?どういう事だ?」

ジニ君の調べによるとスヨンの親の会社は順調だったらしい。ところが、最近になって急に資金に苦しみだしあっけなく倒産したようだと・・・そして借金は帳消しになったのではなく誰かが代わりに支払った形跡があったと・・そして弁護士・・そんなのは存在してなかった。

「誰かがって・・誰なんだ?」とアベル「それは今調べてるんだけど・・・国内ではなさそうだ、もっとも・・手先は国内にいるんだろうけど・・」「父親も同じ様なことを言ってたな・・」
「おじさんに話したのか?」とジニ君「あぁ・・以前とは違うから・・聞きたかった事もあったし」「そうか・・・これは俺たちだけじゃなく・・・間違いなく親も巻き込みそうだな・・」

スヨンの親の会社と、アベル達が住む楽天横丁・・・もしかしたらアベルと仲が良いと言うだけでスヨンが狙われたのかもしれない・・・まさかとは思うけれどそれでも、もしも・・・・そうだったとしたらスヨンの親を殺した事になってしまう・・・  アベルは気が重かった。

その後の調べもジニ君に頼んでアベルは横丁へと戻っていった。今自分に出来る事は何なんだと自問自答しながら・・・   続く


楽天横丁の災難  3話

目玉屋では小太郎の母達が集まっていた。まぁ、いつもの光景なんだけどちょっと違っていたのはスヨンも一緒だったっていう事。「アベルが本当に好きなら応援するじょぉ~」と小太郎の母が言うと「そうそう、私達はどんな現実も受入れる準備は出来てるわぁ」となっつちゃんも言う。完全に「ホ○」扱いをされていた・・・

「ちょ・・ちょっと待ってください!どういう事なんですか?」と戸惑うスヨン。「みんながあなたとアベルを応援してあげるって事で話がまとまったみたいよ」笑いながら目玉ちゃんも言う。
冷や汗が額に噴き出すスヨン。「違いますって!アベルはそりゃ好きだけど・・・」「ほらほら~本音が出てきたじょ~」と小太郎の母。すっかり、世話焼きアジュンマになっていた。
そこへアベルが戻ってきた。

「みんなで何やってんの?」とアベル。「いい所へ来た!助けてくれよ!アベル」スヨンが叫んだ。「凄い汗だな?何を助けるって?」アベルは話がわからず苦笑した。

みんなの話を聞いて思わず吹き出してしまったアベル。「お前・・・俺の事好きだったのか?」真面目な顔をして聞くアベルにスヨンは言葉が出なかった。

「冗談だよ!」そう言って笑うアベルに「この野郎、焦ったぞ」とスヨンも笑う。目玉ちゃん達も笑っていた。どうやら「ホ○」ではなかったようだ。「最初の頃、確かに恋した目に見えたんだけど・・・」「だよね・・」ちょっとがっかりした小太郎の母となっつちゃんはまだ言っていた。

スヨンには知らせないでおこうと思ったアベルは、いつも以上に陽気に振舞った。柳が不信感を持つほどに・・・みんなは騙せても柳だけは騙せなかった。

そして・・案の定・・「アベル、ちょっと話があるんだけど・・」と柳に言われドキッとするアベル。「何?姉さん。どうかした?」とぼけてみたが・・・無駄な抵抗だった。

「ちょっと目玉屋に行こう。そこで話するから」とアベルは観念したかのように柳と目玉屋へ向かった。店ではなく店の奥へと入って行った。ジニ君が待っていた。

「あれ?柳さんまで・・?アベル?」とジニ君「ごめん・・姉さんは騙せなかったんだ。」とアベル。柳は意味がわからなかったが・・何かを感じてした。おそらくスヨンが関係しているんだろうと・・・

「姉さん、黙って聞いてて欲しいんだ。」とアベル。頷く柳に安心したのかジニ君が話だす「調べた結果なんだけど・・どうやら日本の暴力団が関係してるみたいなんだ、それと・・やっぱりスヨン君は最初からお前と仲がいいっていう事だけで選ばれたみたいだ。」絶句するアベル。

高校時代に親友だったと言うだけで・・・スヨンからこの先の人生、そして両親まで奪うなんて・・・許せない怒りと同時に、絶望がアベルの胸に噴き出した。

「俺のせいで、両親を亡くし・・俺のせいで人生まで変わったんだな・・・・」アベルは呟いた。「そんなワケじゃないだろう?お前のせいなんかじゃない!」ジニ君が叫んだ。「許せないのは利用して切り捨てた奴等だ・・・。大丈夫だよな?アベル?」「あぁ、大丈夫だ。俺なんかよりスヨンの方がもっと辛かったんだから・・・」アベルは答えた。

「国内にいる手先がきっと接触してくる。それを待って動こう」とジニ君。「分かった。出来るだけスヨンのそばにいるようにする・・姉さんもあいつの電話や動きを気にしててくれ」アベルは柳に言った。「分かったわ。話の内容はどうであれ守らなきゃいけないわね」と柳も答えた。

その頃ヨンダルサの仕事をしていたスヨンに電話がかかってきてた。弁護士と名乗った人からだった。明日の夜、町で会いたいと・・・・スヨンは迷っていた。アベルに相談したら一緒に行くとか、反対されたりするんだろう・・黙って行く事にした。

柳は夕飯を作っていた。話の内容は全て分かったワケではないが、何かが起きているようだ。それは理解していた。そして、それはスヨンが関係していてアベル達はスヨンを守ろうとしている。では・・柳は何をすればいいのか・・??

考え事をしながら作る食事は、散々なモノだった。「姉さん・・・・魚が焦げてるんだけど・・中は生だよ・・」とアベル。「おい・・・ヨボ、チゲが・・変な味なんだけど・・」とミンジェ・・・スヨンはキムチのみでご飯を食べていた・・・

「姉さん、今日は夕飯いらないから」とスヨンに言われた柳・・・昨日の食事に懲りたんだろうと思ってた。でも、アベルに言われてたし・・一応・・そう、一応アベルに報告の電話を入れた。

「スヨンが夕飯いらないって・・昨日の夕飯・・確かに不味かったけど・・・」と柳が言うと「分かった。俺もいいからジニにも伝えて」とアベル。「了解」と柳。ジニ君に電話をかけた。

ジニ君の部下がスヨンを追っていた。気が付かれないように細心の注意を払って・・・。連絡はジニ君とアベルに繋がっていた。アベルもスヨンを追う。そして合流した。そこは、町の喫茶店だった。

アベルは写真を撮っていた。弁護士と名乗る男の顔を調べるのにはその必要があった。スヨンと逢ってる写真。会話の方はジニ君の部下に任せた。危険を冒して近づくのは避けた方が良かったからだ。

上手く行ってたはずだった。スヨンが叫ばなければ・・・「お前は誰なんだ?俺は別に親父の会社なんか再建してもらわなくていい!」弁護士らしい人が制止した「今、断ればこれから先、大変な事になりますよ?静かにして下さい」と・・・

スヨンは仕方なく従った。その時・ガラスが割れる音がした。「すみません、お客様」ウェイトレスが大声に驚きコップを落としてしまったのだった。よりによって、アベルの所で・・・スヨンが振り向いたのと同時に弁護士もその方向を見た。

とっさにガラスの破片を拾うふりをするアベル「間一髪」だった。顔は見られずに済んだ様だ。

スヨンと男は店を出て行った。冷や汗が出るアベル。次からは変装した方がいいのかも・・と真面目に考えていた。ジニ君の部下は2人を追っていた。今は彼に任せた方がいいと判断したアベルはジニに電話をした。

写真を見たジニ君は「コイツは・・・どこかで逢ったことがある」「本当か?一体誰なんだ?」
「思い出せないけど・・暫く預かっていいかな?」「モチロン、何かわかったら教えてくれ」
アベルはスヨンが会社の再建にこだわってない事もジニに告げた。その事が分かっただけでもアベルは救われた気持ちだった。

楽天横丁では昨日の夕飯に懲りたミンジェが柳を連れて目玉屋へとやってきた。目玉屋では目玉ちゃんが1人で忙しそうにしていた。「あれ?ジニ君はどうしたの?」と柳「さっき電話があって今日は遅くなるらしいのよ」と目玉ちゃん「柳ちゃん、手伝ってぇ~」と言うと慌ててミンジェが「俺が手伝うよ、柳は座ってて」柳は・・ちょっと凹んだ。

2人が忙しそうにしてるのを見ながら柳はもう別の事を考えていた。アベルとスヨン、不思議な縁だ。高校時代の親友と言ってもかなり疎遠になっていたハズなんだけど・・・いきなり訪ねて来て住み着いた。アベルはその事をなんでもないように受入れた。男同士って、そんなものなのかなぁ・・?女の柳には理解出来なかった。

アベルが戻ってきた。「スヨンはまだ戻らないのか?」「アベル、お帰り。まだみたいだけど・・、何かあったの?」と柳、「いや、特にないさ。お酒でも飲もう」
その日、スヨンは戻らなかった。   続く

楽天横丁の災難  4話



翌日、楽天横丁ではちょっとした騒ぎがあった。外国人が来たのである。目玉屋に現れたその人は韓国語が殆ど出来なかった。男で、明らかに観光客ではなさそうなスーツを着ていたが、行動はと言うと・・・・



「お腹がすいてるんですけど・・・何か食べさせて下さい」としきりに日本語で話す。目玉ちゃんは困ってしまった。「イルボノルルモルゲッスムニダ。ハングゴヌン ハルスオプスミニカ?」・・・会話にならない・・・・



小太郎の母が「お腹空いてるんじゃない?何かあげて見たら?」と言う。明らかに小太郎への扱いと一緒だった。目玉ちゃんが定食を出すと「カムサハムニダ」と・・たどたどしい韓国語であっという間に平らげた。



ジニ君に目玉ちゃんは電話をかけた。「変な日本人が店に来てるんだけど・・言葉がまるでわからなくて・・」「すぐに行くよ」とジニ君・・・彼は数ヶ国語が堪能だったのである。



ジニ君が店に来た時は、その男は小さくかしこまっていた。お金の支払も言葉が通じず困りはてていたのだった。



「大丈夫ですか?」とジニ君は日本語で話かけた。男は飛び上がらんばかりに喜んで「日本語がわかるんですね?この人達はなんて言ってるんですか?」とすがった。目玉ちゃんは「定食のお金払わないんだもん・・・1200ウォンだって言ってただけよ」と・・



ジニ君は男に「定食は1200ウォンですよ。お金を支払うようにって言ってるだけですから」と笑った。男は1万ウォンを差し出し「お釣りは結構ですから」と告げた。



ジニ君は「ところでこんな観光客も来ない横丁に言葉も分からず来るなんて何か用事があったんですか?」と丁寧に流暢な日本語で訪ねた。男は「迷ったんです。朝から何も食べてなくて・・・知り合いとはぐれてしまったんです」と・・「それはお困りでしょう。よろしければホテルまでお送りしますよ」ジニ君の言葉に男は感激し「お願いします」と・・



男はジニ君に連れられて自分のホテルまで辿り着けた。「このお礼がしたいんですけど・・」と言う男の言葉に「それは結構です。楽しい旅行をどうぞ」とだけ言ってジニ君は去って行ったが・・・・男がホテルに入って行くのを見届けると後を追った。



部屋番号を確認すると、ジニ君はそっと部屋の前までやって来た。中から怒鳴り声が聞こえてくる。内容は早口の日本語でしかも・・ブロークンな言葉なのでわからなかった。そっとその場所を離れホテルのフロントへ行く。



「1623号室は空いてますか?」と、ジニ君はさっきの隣の部屋をキープした。部下に電話をして部屋の様子を探るようにと告げ会社へと戻って行った。



楽天横丁にスヨンが戻ってきた。傷だらけだった。アベルが気がついた。駆け寄って抱き上げた。「大丈夫か?スヨン?」「あぁ、生きて戻ってきたぞ」それだけ言うと気を失った。



家では傷の手当をしながらアベルは考えていた。何が起きたのか・・・スヨンの傷はかなり手馴れた人間の仕業だと・・・でも急所ははずしてあった。殺そうとしたワケではなさそうだ。

とりあえずは落ち着いたようだったので、ジニ君に電話をかけた。



柳は傷だらけのスヨンを見て呆れていた。「一体どこで何をすればこんなになれるっていうの?」ミンジェも「昨日はどうして帰らなかったんだ?」と聞いたがスヨンは答えなかった。ただ「ごめん・・」とだけ呟いた。



アベルはジニ君と会っていた。横丁ではなく会社のラウンジだった。「昨日スヨンは戻らなかったんだ、今日・・・傷だらけで戻ってきたよ」アベルが言うと「尾行していたんだが・・途中でまかれてしまったらしい。申しわけなかった。」とジニ君・・・



横丁に現れた日本人の話やそのホテルを監視している事、そして日本の暴力団の組織として怪しいのは「薔薇組」と言う事が分かったと告げた。



「薔薇組?また・・少女趣味な名前だな?」とアベル。「なんでもボスが無類の薔薇好きらしい。詳しい事が分かったらまた連絡するよ。スヨンを気をつけてやってくれ」とジニ君。

「わかった。でも一体何のためにスヨンを・・」アベルはやりきれない気持ちだった。

その頃、アベルとジニ君の親は楽天横丁の対応を相談していた。土地など殆どが両家の元に納まっていた。息子達を守る手立てとしてそれ位しか出来なかったからである。今更、誰かが仮に手出ししようとしても不可能だと・・安心していたのだが...。



海外の投資家が参入してくると、話は変わってくる。しかも正体がまだわからない。何が目的でどう仕掛けてくるのかもまるでわからないとなると手の打ちようがなかった。



楽天横丁ではスヨンの怪我が誰にやられたのか...そんな話で持ちきりだった。酔っ払ってケンカをしただけだと言うミンジェの話は信じてもらえなかった。



目玉屋に集まってる常連は「痴情のもつれ」説を力説していた。そう・・小太郎の母となっつちゃんだった。2人はまだスヨンの○モ説に期待していたのだった。目玉ちゃんは敢えて止めなかった。苦笑しながら2人の会話を聞いていた。



でも、目玉ちゃんもおかしいと思っていた。アベルとジニ君、柳も何かあるはずなんだけど目玉ちゃんには何も言わない。少し不満であったし不安だった。また何かが起ころうとしてる...それは予感だった。



ホテルで隣の部屋の様子を伺っていた部下からジニ君に連絡が入った。日本人4人が泊まっている。観光に出るわけでもなく、いつも部屋の中だった。会話はヤクザのような言葉遣い...誰かからの電話を待っているようだと・・・



ジニ君は親に経過を報告した。日本のヤクザが来ている事。スヨンが襲われた事。部屋では4人が待機してる事。部下が監視してる事を...父親はわかったと言って、誰かと連絡を取っていた。ジニ君はそこは親に、任せて楽天横丁のスヨンの元へと急いだ。



スヨンは傷はあるものの、比較的元気だった。だけど・・ジニの問いかけにもアベルの問いかけにも答えなかった。ただ「ごめん・・」としか言わなかった。



「一体誰がお前を苦しめてるんだ?どうしてそんなにガンコなんだ!」アベルが怒鳴った。それで解決するわけではないのは分かっていたが、アベルはやりきれなかった。



スヨンが口を開いた。「お前のためじゃないんだ。自分の為にこうやってるんだよ・・アベル」振絞るような声で「幸せはお金では買えない。知ってるんだ・・だから素直に殴られたし、親父の会社の再建なんて・・・どうでもいいんだ」アベルは愕然とした。

「どういう意味だ?もしかして・・・お前・・・」



「前に楽天横丁をくれと言ったろ?忘れてくれ・・それしか俺には言えない」スヨンの言葉の意味がやっと判ったアベルとジニ・・・言葉が出なかった・・


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