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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年04月18日
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師匠はこれを使うんだ・・・・・・。
握った両手をぐっと胸にひきよせた体勢で、彼は鞘に入った剣をくいいるように見ていた。

「持ってみるかい」

モニタを見ていたはずのトールが言う。師匠がこちらを見ているとは思わず、少年は驚いて顔を上げた。
トールは椅子から立ち上がると鞘ごと剣をつかみ、すらりと抜いて柄をジョゼに向けた。

「ほら、持ってごらん」

半透明の白い刀身が、鋭い光とともにジョゼの顔を映している。トールの青灰色の瞳はいつもどおり優しかったが、なにか逆らえない強さがあった。

ジョゼは恐る恐る両手を差し出し、師匠から剣を受け取った。
いいかい離すよ、という声とともに、鋼の重さがすべてジョゼの手にかかってくる。トールが軽々と片手で扱っていた剣は、少年の小さな手には非常に重く、みるみる剣先が下がって、がつん、と音をたてて床にぶつかってしまった。

「大丈夫、そのくらいでその剣は傷つかない。持ち上げてごらん」

その言葉にジョゼは渾身の力をこめたが、その後はどんなに頑張っても、水平に持ち上げることさえできない。
武器屋で剣を見せてもらったときもそうだった。悔しさと、なんでこんなに重いものを皆振りまわせるんだ、という疑問とが同時に少年の頭に渦巻く。

「セキュリティを学びたい、と君は言ったね」

弟子の手から剣を受け取り、手元を見ずに鞘におさめてトールは言った。
妖精のために新しい機械を作っていたジョゼが、追いつめられたような顔でセキュリティを教えてくれ、といってきたのはつい数日前のことだった。

「セキュリティというのは楯の技術だ。よりよい楯を作るためには、剣のことも知らなければならない。わかるかな」

「はい、わかります」

悔しそうな表情を残してジョゼはうなずいた。持ち上げられもしないのに、振り回したり知ることなんてできやしない。自分自身の未熟さが呪わしかった。
弟子の思いに気づいたトールは声をやわらげた。

「剣の修練をしろといってるわけじゃないよ。君にはまだ早すぎるし、たぶん必要のないことだ・・・・・・それにこの剣は普通より長いからね、君が持ち上げられなくても嘆く必要はない」

「でも、師匠」

大きな瞳で噛みつかんばかりの少年を、穏やかに抑えるしぐさで落ち着かせる。

「そうじゃない。剣なんてものは象徴にすぎない・・・・・・。
君がまず覚えなければならないことはね、ジョゼ、誰かを護ることは他の誰かを傷つけるかもしれないということだよ」

「・・・・・・」

「セキュリティは何かを侵入者から護る。成功すれば、当然侵入者からは恨まれることになる。
剣はなにかを護るために使えるが、そのために何かを斬れば、斬ったものからは憎まれる。たとえ光の意思のもとに斬ったとしても、それが相手に伝わるとは限らない。
セキュリティをほどこすということは、誰に憎まれても自分の立場を明確にする、ということでもある」

「ジョゼ、君は妖精たちに機械を作るんだろう。その機械のことだけなら、こんな話は必要ないかもしれないけどね。もし君がセキュリティについて根本から学ぼうと思うなら、大切なことだよ」

青灰色の優しい瞳が、包み込むように彼を見ていた。
自分が考えていたよりも深いことを教えてくれようとしているのだと気がついて、ジョゼは唾を飲みこみ、はい、と大きくうなずいた。



リリリ、とモニタの奥で小さな鈴が鳴った。
トールの操作する3Dモニタの中で、クリロズの全景とそれをつつむ結界魔法陣が光の線で表される。その一画に小さな赤い点が点滅していた。

「穴が開いたな。・・・・・・ジョゼ、君はどうする?」

立ち上がって手にした長剣に、少年の目がくぎづけになったのを知ってトールは尋ねた。そうしながらクリロズ管理人役のシュリカンと心話を開始する。

(シュリカン、僕だけど。結界に小さい綻びを発見、直しにゆくよ)
(了解。坊やを連れてくと危険じゃないか?)
(急いでいるようだから。現場を見れば勉強になる。危険から切り離されたセキュリティなんてないからね)
(確かにな・・・・・・気をつけろよ。もっともおまえに言うまでもないが)

心話を終えてジョゼに視線を戻すと、少年は決意を秘めた瞳で師匠を見ていた。

「僕・・・・・・ご一緒してもいいですか?」

気合を入れたときの癖でへの字口になっている彼に、かまわないよ、と微笑む。
トールは入り口の扉に向かおうとした少年をひきとめ、反対側のバルコニーへの掃き出し窓を開けた。

バルコニーに出る、はずだった。
しかしジョゼが両足を踏み出したとき、そこはバルコニーではなく、クリロズの館からすでに離れた庭の端であった。空間移動の魔法陣が組んであったのだ。

「シル、ユン、早いね」

すでに放たれていたトールの心話によって、巨大な白竜のシルヴァン(シル)と黒竜のユアン(ユン)が森のはずれの空き地に翼を休めていた。トールに応えて小さなうなずきを返す。

「シル、今日はこの子を乗せてあげてくれるかい。ジョゼという僕の弟子で・・・・・・ジョゼ、シルヴァンだよ。黒い方がユアン。二頭とも、僕の古い古い相棒なんだ」

お互いエネルギーの認識はしていただろうが、礼儀としてトールは言葉で紹介をした。二頭に会うのが初めてのジョゼは、緊張しきった面持ちで頭をさげる。ドラゴンライダーの話はよく聞いていたし、下の家には何匹ものドラゴンがいるにはいたが、自分が乗るのは初めてだった。

(鞍がいるだろう、トール)

その場にいる全員に、シルヴァンの重厚な心話が届く。そうだね、と言って錬金術師が指を鳴らすと、白竜の背にジョゼにちょうどよさそうな大きさの鞍とつかまるための手綱が出現した。
白竜は自分を乗せることに同意してくれたらしい。誇らしい気持ちで、ジョゼは礼を言った。

「では行くよ、しっかりつかまって。風は寒いからマントがいるね」

ジョゼがおぼつかなげに白竜の背に乗るのを手伝ってやり、自分とお揃いの瑠璃色のマントを着せかける。
少年が大きな白銀の背におさまるのを確認すると、トールは黒竜の方をむいて大股に踏み出した。
走るように二歩、三歩。四歩めにはその長身を黒竜の背に跳ね上げている。こころえた竜もタイミングをあわせて上昇をはじめ、鞍もなにもない裸の背に悠々と乗りながら銀髪の錬金術師は虚空の人となった。

(子供よ、行くぞ)

ぽかんと口を開けて見とれるジョゼの周囲で風がうずまく。一瞬おいて、少年も師匠の後を追って舞いあがった。

「う、うわあー! すごいすごい!!」

力のかぎりしっかり手綱を握って、ジョゼは歓声をあげた。風をきって飛ぶドラゴンの力強い背が、こんなに気持ちよいものだとは知らなかったのだ。
前方には黒竜にまたがり瑠璃のマントをひるがえす師匠の背が見えている。あんなふうになりたいな、とあらためてジョゼは思った。

彼らは先ほどモニタで見た一画へ向かっていた。館の裏側、裏庭の端の上空部分。普段あまり人が見上げたりもしないだろうと思われる部分だった。

トールが向かう先の虚空に、青空の中黒い染みのようなものが見えていることにジョゼは気づいた。

(気づいたかい? あれが穴だよ)

師匠の心話が届く。

(クリロズはたくさんの人が訪れられるように、ぎりぎりまで波動もセキュリティレベルも下げているからね。ときどきこうやって穴が開くんだ)

(どうやってふさぐんですか?)

(まず黒いものを浄化してから、だね。元々、哨戒空域にエネルギーを流して浄化してはいるんだけど・・・・・・たまに紛れ込むんだ。シル、ジョゼを頼むよ)

向かう速度を緩めずにトールが腰の長剣を抜き放つ。午後の陽光を反射して、その刀身がきらりと光った。

(承知)短い心話とともに、ジョゼを乗せた白竜は進むのをやめた。憧れの師匠から離されて、ジョゼは声を荒げた。

「なんで!? 僕もあっちへ行きたいよ」

(トールの頼みだ。子供よ、お前を危険にはさらせない)

「子供じゃないよ! 僕、ジョゼっていう名前があるんだから」

白竜の波動は笑ったようだった。
(黒髪の子よ。お前が真の魔法使いになったなら、その名で呼ぼう。
それまでは彼の戦いをここで見ているといい・・・・・・。それともお前の師は、子供の助けがなければ勝てぬのか?)

ぐっとジョゼは詰まった。そんなわけがなかったからだ。むしろ足手まといでしかないところを、現場を見せるためにわざわざ連れてきてくれているのだと、聡い少年はちゃんとわかっていた。

(そら、言い争いをしている場合ではないぞ)

シルヴァンが長い首をふりあおぐ。その先ではすでに前哨戦が展開され、ジョゼはあわてて視線を戻した。

結界の破れ目から侵入した黒い霧状のものが、一人と一頭におそいかかる。黒竜ユアンは首をひとふりすると、大きな紫の炎を吐いた。
金粉をまぶしたような炎に焼かれて、黒いものの一陣が跡形もなく消えてゆく。

一方、トールはユアンの背に立ち上がっていた。揺れる黒い背に危なげもなく立ちながら、右手の長剣を顔の前に構える。刀印を結んだ左手を鍔元にそえて、呪文を唱えたらしいとジョゼは思った。

黒竜の炎を逃れた黒いものが、師匠の頭上からなだれをうって飛びかかる。あぶない、とジョゼが呟く間に、トールは片足を半歩ひいて斜め上に黒雲を切り払っていた。
間髪入れずユアンが下降旋回し、上昇して邪に正対する。
その隙にトールの左手は魔法陣を完成させ、結界の綻びをきれいに直していた。退路を絶たれた黒いものをぎりぎりまで引きつけてから、一気に剣で浄化する。少年の方へ逃げようとしてきたわずかな黒雲には、シルヴァンが明るいオレンジ色の炎を吐いた。
炎や剣に触れた場所から、黒いものが光に変わって消えてゆくのにジョゼは気づいていた。やはり師匠は、ただ力任せに斬っているだけではないのだ。

旋回して残りがいないかを確認すると、剣をおさめてトールはジョゼのそばに戻ってきた。最初と同じくユアンの背に座っている。

「おかえりなさい、師匠! すごかったです!」

上気してジョゼは叫んだ。やはり男の子であって、気づいたもろもろは別にして、格好いいと単純に興奮してしまうのは仕方のないことだろう。
憧れを目の当たりにして、僕も剣がほしいと少年は思った。ミカエルに剣を頼んだことがあったが、小さな小刀しかもらえず、かわりにラファエルにロッドをもらったのだった。

(子供よ、ミカエルが与えなかったなら、それはまだその時ではないか、お前には必要ないということだ)

シルヴァンの声に思わずふくれる。
えーだって、といいかけた少年の口を、続いた白竜の心話がふさいだ。

(黒髪の子、妖精の血をひく子よ。お前はトールになる必要はない。お前はお前になることだ)

目をみはったジョゼの姿を、館に戻る道すがらトールは前方からちらりと振りかえった。初対面でシルがあれだけ話すということは、彼を気に入ったらしい。

(聡い子だ。次代の魔法使いだな)

笑いを含んだ波動をしぼってユアンが言った。

(そうなんだ。楽しみだよ)

トールは微笑んだ。
帰ったら、少年が上級のセキュリティに関する授業を受けられるように手配しておこう、と考えながら。









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最終更新日  2009年04月18日 12時39分07秒
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