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Esprit*

Esprit*

2007.03.06
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浜辺に向かうゆるやかな下り坂の途中で先輩は堤防に頬杖をついていた。
その姿が目に入った途端、また胸の奥がチリチリと痛み出した。
何度こんなことを繰り返すのだろう。
私をまた好きにさせておいて、また柔らかい暖かい眼差しで私を拒絶するの。
私は自分で決めたはず。
今度は何を言われても私の中で先輩を切らなければ。
そう何度も繰り返しても、私はまた先輩の魔力に惹きつけられてしまう。
傷つきたくないのに。



「ごめんな。来てもらってごめん。」


やっぱり先輩の声は心地いい。
特別声のトーンがいいわけでもない。言葉じりが優しく響く。
柔らかければ柔らかいほど私の心はまたじわりと締め付けられる。


「あの・・話って。わざわざ電話くれるほどの・・?」


何を言われるのかわからない恐怖。
もう分かりきったことをさらに肯定されることほど、悲しいことはない。
肩に力が入って、先輩の顎の部分までしか顔を上げることができなくて。


「・・これまでのこと、謝ろうと思って。」


先輩の口からは私がいろいろ考えあぐねていた、どの場面とも違う、
想定していなかった言葉が出た。





先輩が私に謝る?
何を?
傷つけたこと?
気持ちを受け入れてもらえなかったこと?
気持ちに気づかなかったこと?

出会ってしまったこと?


何一つ先輩は悪いことなんてしていない。
私がひとりで勝手に出会い、見つめ、好きになり、
自分で勝手に走り、思いつめ、逃げた。
ただそれだけ。
だって私は先輩に好きだということは伝えても、
つきあってください、とは言ってないのだから。
何を先輩が謝らなければいけないのか、
そんな理由は何一つない。


「・・それだけですか?」

「うん、・・それだけ。」


先輩の喉元から鎖骨にかけてスッと伸びた曲線が綺麗だった。
私の視線はその辺までが精一杯。
その視線に気づいたのか先輩が左手で襟元を隠した。


「・・や、やだなぁ先輩。何言ってるんですか?
先輩が謝ることなんて何もないでしょ?
もしかして、気にしてくれたんですか?
大丈夫です、私、彼氏できたんです。今、幸せなんです。」


ここでやっと顔を上げることができた。
すると先輩がふっと顔をそらした。
いつもなら、私が視線をそらしてばかりだったのに、
顔をあげるといつも私を見ていてくれた先輩が
はじめて先輩が私を見ようとしなかった。


「・・よかった、また昔のマフラーか何か突っ返されるのかと思った。」


この場を早く立ち去りたい。
長く同じ時を過ごせば過ごすほど私はこの人から離れられなくなる。
それを否定するためにまた何を言ってしまうかわからない。
・・私は必死に先輩との間合いをとった。


「まさか。でもさすがに、もう持ってないよ。」


先輩もこう答えた。
おかしな言葉のやり取りだけど、私達2人には十分な時間だった。
これですべてが終わる。
私の想いも、先輩の罪悪感も。


「じゃ、帰ります。」


そういって私は先輩の横顔に礼をして家まで駆け足で帰った。
振り向きもしなかった。
先輩の声も聞こえなかった。
あの日と同じような月がとても綺麗な晩だった。














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Last updated  2007.03.06 17:12:35


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