JAPANESE GIRLS&BOYS

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その窓から見えるだけの切り取られた風景は、全てが雲に覆われていた。だけど少年は飽くことなく見詰め続けるふりをする。
ほんの少しだけ、鈍い哀しみの色を瞳に讃えながら。
その視界は焦点が合わず、空はただぼんやりとした灰色が濃淡を変えているようにしか見えない。
どうして空を見つめ続けるの、と問われれば、少年は見たくないから、と答えるだろう。いや、答えないかも知れない。それというのも、少年は考えることを放棄してしまっているからだ。今まで生きてきた短い時間の中で、思考を止めてしまうことが救いに繋がると信じこんでいる。

無意識に眼を背けてしまうほどのその体は、まるで操り人形のように機械の管に繋がれている。糸によって生かされる人形のように、少年もまたその管に生かされている。
実に下らない仕掛けだ。
「誰か、切って。」
少年のかすれた声が、雨音に消える。それはただひとつの願いであり、望みだった。
そして窓を見詰める。もう一度声をだそうとしたのか、僅かに口を開けた。が、一つ息を吸ってまた閉じられた。その小さなやり取りは、無意識のうちに幾度も繰り返されていた。

雨音が静かに少年の耳を満たす。それだけで完結しそうな濡れた世界に、思わず眼を閉じた。
幽かに呼んでいるのだろうか、この音は。壊れた僕を。
呼吸をすると、その息の震えを感じる。
少年は笑った。
点滴を引き抜き、足を繋ぐ金具を外し、血の通った管を引き摺りながら抜いた。
痛みは開放感を伴い、その表情は恍惚に変わる。しかしそれは自由を手に入れた奴隷のように、幽かな不安を含んでいる。
少年は窓に手を掛ける。
手術跡から血を流しながら窓を開くと、雨のにおいが鼻をくすぐった。濡れた木々の葉の甘い香りと、アスファルトの死の臭い、それに混ざって音が聞こえた。
確かに読んでいる、この音は。壊れた僕を。
その瞳は焦点を合せ、見える範囲のあらゆる物体を鮮明に写した。その中には少年の母親が居て、忌々しい記憶も今まさに懐かしさに変わるところだ。
少年は窓に足を掛ける。細すぎる足に滴り落ちる血が、まるで女のように見える。
それから、静かに、実に静かに落ちた。

少年は再び空を見た。もう何も写せない瞳だったが、それでも仰いだ空は仄かな青に染まっていた。
その中に一筋の光を、彼は初めて見たのだった。


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