JAPANESE GIRLS&BOYS

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ブルースカイ



夏の空は大嫌いだ。夏の空は嫌に高すぎる。もうもうと固まる入道雲も冬の綿入り毛布を連想させて暑苦しい。私は水気のない絵筆で大胆に引っかいたような擦れた灰色の雲が好きだ。空も春嵐に惑わされるような、朝と夕で姿の違う、我侭な感じの空がいい。夏のような青一色では飽きが早く来る。自分がまるで世界の汚点のようで外にいることが憚れる。そこに追い討ちをかけるようにじーじーと蝉が鳴くから、疎外感とうんざり感は積もりに積もる。

 制服のポケットの中で、不気味な振動。携帯のバイブだ。だるいなあ。私は汗ばむ手でそれを取り出し、確認して、適当な返信で済ました。ほっといてほしい。折角の一人の時間だ。どうせ貴方とは、電波ほどの仲でしょう。軽いのよ。私は返信を待たずに電源を切った。
生温くなった金属を、握り潰すイメージで閉じた。背中に汗がつたった。気持ちが悪い。くらくらする。乾いた唇を舐める。途端に舌が引きつった。ああ、水分が足りないのだ。お昼ご飯を食べたのが二時間前。そろそろ体が持たないな。どうしようか。そうやって考えるのも面倒だな。
私は何気なく空を見上げた。だだ広くて、すういっと薄い青。私だけ異色だ。仲間外れは日常茶飯事だから、そんなにも淋しくは無いが居心地が悪い。形が定まらないアメーバも、今の私となら通じ合ってくれるかな。いや無理だな。
だんだんと視界が狭まって擦れていく。ああ、これは貧血の兆候だろうか。こんなところで倒れていたら、誰か気づくかな。徐徐に白い靄のようなものも混じり始めた。結構本格的だ。肩が力を無くす。頭が空気を裂く。手足が大の字に広がる。内臓がぐるぐるねじれる。
とうとう私は黒土の花壇の真ん中に倒れこんだ。後頭部に鈍痛かじわりと広がった。赤ちゃんのげっぷくらいの、大袈裟な音が背骨に響いた。どうやら一緒に花を何本か殺ったらしい。もったいなかった。惜しい蕾だったが、今更だ。起き上がる気力も湧かない。 
ああ嫌だ。高すぎる。空も雲も遠すぎる。私の肉の無い腕では真昼の星は掴めない。空を飛びたいという願望さえ思えない。怠惰の時間だ。風が砂のようだ。排気ガスの臭いが微かにする。ますます気持ち悪さが加速する。
相も変わらず私は弱いな。無力すぎて片腹痛い。例えばたった今鉄筋の学校で、熱気がむんむんしている教室の中にいるか彼らと私とを比べてみたら分かる。明らかに彼らのほうが有能だ。我慢ができる。私は、そんな箱詰めになってまでやろうと思える気力は持ち合わせていない。使い果たした。私は破綻したんだ。
瞼が重い。力が手先足先から逃げていく。ああ、惨めだ。でも、案外これが私なのかもしれない。諦めがよくて、めんどくさがり。いつしか、頑張り屋さんだね。と友人から言われたが、虚勢を張っていただけなんだ。
寝よう。状況なんてかまいやしない。雨上がりの土砂のように眠ろう。後のことなんて、知らない。死にたいと思わないけど、生きたいとも思えない。暑さの中、どろりと溶けてしまおう。それがいい。
暑さは衰えを放棄したみたいだ。絞られる聴覚で戒めのようなチャイムを聴いた。ふうと体内のもやもやを吐き出す。突き刺さってくる背中の下の花の茎も、少し動いて潰して均した。晒されている腕が黒土にめり込んだ。そこは心地よい湿気があり、気持ちよかった。

スカイブルー
いつしか其処を目指したかったんだよ。
紙のような羽根では飛べなかった。
でも、きっと飛ぶことはできたはずなんだ。
羽根の大きさも、素材も、色も、形も、本当は関係なかったんだ。ただ。
ただ私には勇気がなかったんだ。
丘をかけた後の、飛び立つ一歩目を踏む勇気が。


だから夏の空は嫌いだ。
スカイブルー。いつか私は憧れていた。恋焦がれていた。夢中だった。今はそうは感じられなくなった。
置いてきぼりを理解した、あの時の虚無な季節だけがやけに鮮明だ。  

今は行き止まりのような、また果ての無い濃闇が見える。



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