JAPANESE GIRLS&BOYS

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氷色2



 背中に衝撃。氷色は振り返る。
 白い真っ白な地面の向こう、まるで浮かんでいるかのように、鎖が立っていた。
「こんなとこに居たんだ」
 言葉を呟く鎖の、唇の端から、白い息が風に流れる。
 霞む遠い景色と、眩しい白に、氷色は眼を細めた。
「なあ、氷色」
 氷色は、じっとして何も言わない。
 鎖は俯いて、怖怖とした声で言う。
「兵士に志願したって本当?」
「うん」
 沈黙が跨ぐ。
 氷色は高い空を、鎖は白い地面を、見ている。
「なんで」
 鎖が、言う。
「何で、兵士になんか志願したの」
 氷色は黙ったまま。
「兵士になって、何がしたいのさ、氷色」
 静寂が、宙で凍えている。
 鎖は氷色の眼を睨んで、流れ出る言葉に棹刺さずに、氷色に向かって、思いの丈を放った。
「氷色。兵士になって、重い重い機関銃持って、悪夢まがいの戦地に行って、何がしたいの。氷色。命投げ出して、砲弾のけたたましい中で、怯えながら、何がしたいの。氷色」
 氷色は、空を見て、鎖を見る。
 どこまで見ても、少年の眼なのに。
「氷色」
「うん」
 白い息が二つ、流れた。
 何かが割れる、音がした。
「どうしてさ」
 鎖は、幼い喉で、叫びだす。
「どうして、男は黒くなろうとするの?ありったけの愛の形を、どうして戦場で咲かそうとするのさ。氷色、君は重い重い機関銃で、守ろうとしているのは何だ?知らない誰か大人が、好きに始めた戦争がこれさ。それならば、好きにさせとけばいいじゃないか。何で嫌がる人まで、僕ら子供まで、巻き込まれなくちゃならないんだい。氷色」
 鎖は、叫ぶ。
「なんで、自由なままでいようとしない。志願なんてしたんだよ。氷色、」
 声が響く。
 遠くまで、世界の奥まで。
 氷色が白い息を吐いた。
「鎖」
 氷色が、漣のような声色で呟いた。
「ごめんね。鎖」
 氷色が、鎖の元まで、歩いていく。
「ごめんね。勝手に志願してしまって。でも、それでも僕は行くよ」
 大人に、好きにさせないために。
 僕らの、白い地面を、侵させないために。
「僕ら子供に、何が出来るってのさ」
「わからないさ。力だって、大人に比べたら無いもの。それでも、報いなくちゃあ。なあ、鎖」
 僕らは確かに、みみっちい子供さ。
 だけど僕らだって、大人と戦わなくちゃあいけないんだよ。
「だからって」
「だからこそ、大人と同じフィールドに居ないといけない。そうでないと、届かない」
 氷色は、鎖の前で立ち止まる。
 鎖がすっと、見上げないと、氷色の顔は見えない。
 鎖は奥歯を鳴らした。
「僕ら子供だけで、生きていけないのか」
「僕ら子供だけでは、生きていけないよ」
 命って、あっけないんだよ。
 僕ら、子供にとっては。
 大人は、命なんて、もう儚くも何とも無くて、慣れてしまって、強さに、酔っているんだよ。
「鎖」
 だから僕らは弱いんだよ。
 命のあっけなさに怖がっているから、弱いんだよ。
「だったら、ずっと弱くていいじゃんか」
「違うよ、鎖。僕はその弱さを、強さにしたいのさ」
「そんなの無理だよ」
「無理だろうね」
「行くなよ」
「行くよ」
「馬鹿」
「鎖」
 氷色は、鎖を、抱きしめて。
「さよなら」

《 氷色2 》    御拝読全力感謝    あさはら水黄


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