JAPANESE GIRLS&BOYS

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○○くん


「○○くん」


「あれ、佐崎くんじゃないか」

 不意に背後からそう声をかけられたので、僕は振り返った。
 そこには、頭のはげた見知らぬ老人が立っていた。

「あの……僕、佐藤ですけど?」
「あれ、そうなの? まぁいいや。君でいいからちょっと頼まれてくれんかね? 時間があったらでいいんだが?」

 そう言ってその老人は手紙を懐から取り出した。

「この手紙を向こうのポストへ出してきてくれんかね? もう年だからね。出すのをすっかり忘れてたんだよ。家は反対方向だし、君さえ良ければ」

 僕はその老人の頼みを聞くことにした。


   *   *   *   *   *


「おや、山崎くんじゃないか」

 手紙をポストに投入したちょうどその時、再び背後から誰かに話しかけられた。
 振り返ると、40代の背の高い男が僕を見下ろしていた。

「あの……人違いですが。ぼくは佐藤です」
「あれぇ、他人の空似かな? ……まぁいいや。頼みがあるんだが、これを向こうの酒屋に届けてくれないか? そこの主人とは知り合いなんだが、うっかりあいつの物を持って帰ってしまったようでね。時間があったらでいいんだけど?」

 そう言って男は懐から一本のボールペンを取り出した。
 僕は男の頼みも聞いてやることにして、それを受け取った。


   *   *   *   *   *


「あらま、確かにこいつは俺のもんだぜ。あの野郎も返すなら明日でいいのに」

 酒屋の店主はお礼にと缶ビールを渡してきたが、僕は未成年でお酒にも弱いから丁重に断った。

 ふと、遠くから一人の男が慌てて走ってくるのが見えた。

「おーい!! 山岸くーん!!」

 またか、と僕は思った。
 やがてその人物が僕の前にやってきた。

「あのですねぇ、僕は山岸じゃなくて……」
「いいから急いで!! 早くしないと印刷所に間に合わない!!」

 そう言って彼は僕に(おそらく原稿が入った)封筒を押し付け、急いで走るように行ってきた。

 僕はわけもわからず走り出した。


   *   *   *   *   *


「先生にはちゃんと言っといて下さいね!」

 印刷所の人はそう僕に怒鳴りつけるだけ怒鳴りつけ、中に去っていった。
 僕は走ったことと、怒られたことで二重に疲れていた。

 しかし、時間が経つにつれだんだん腹が立ってきた。
 どうして僕がこんなことをしなくてはいけないんだ。
 これじゃあまるっきし骨折り損のくたびれ儲けじゃないか。

 僕は決めた。
 もう止める。
 もう誰が何を頼んできても聞いてやらないぞ。

 しばらく歩いていると、案の定また知らない人が話しかけてきた。

「あら、佐藤くんじゃない。こんにちは」

 僕はそのおばさんに文句を言ってやろうと思い、そして、途中で止めた。
 言葉を飲み込んだ僕を見て不思議そうな表情を浮かべたおばさんを素通りして、僕は歩き出した。


   *   *   *   *   *



 どうして僕が最後何も言わなかったかって?
 それなんだよ、ちょっと君に聞いて欲しいことがあるんだ。



 僕の本当の名前ってなんだったっけ?
 佐崎、山崎、山岸のどれかだと思うんだけど、思い出せないんだ。


 だから一緒に考えてくれないかな? 時間があったらでいいんだけど。




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