国産小麦への憧憬



 それは、「地球温暖化がこのまま進めば、50年後には、青森ではリンゴが栽培できなくなる」というものでした。

 つまり、これは、日本の農作物の地図が、塗り替えられてしまうかもしれない、という事です。
 鹿児島でコーヒーとか、愛媛でパイナップルとか、青森でみかんとか、北海道で茶畑とか、そういった具合に、現在のそれぞれの特産品と呼ばれているものが、北上してしまうのです。

 これと、国産小麦が、どう関係があるか。

 パンに向く小麦の栽培に適している環境は、寒暖の差が激しく、雨が少ないこと、と聞いています。北海道は、比較的、そのような環境であることから、北海道産の小麦が、パンに使用されている訳です。

 もし、仮に、その説が実際に起こったのならば、日本では、パンに向いた小麦を栽培する事が、不可能となるかもしれません。

 もうひとつ、ニュースを耳にしました。
 それは、「某大手パンメーカーが、北海道産小麦(ホクシン)を使用した(しかも、グルテンの添加無しで)食パンを、6月1日から、関東地方で発売した」というものです。
 価格は170円。

 グルテンの添加のない、国産小麦を使用した食パンを、大手のメーカーが、作るだなんて、考えもしませんでした。
 大手の作る食パンは、ほとんど機械を通すもので、それは、工業生産品のように、生産されています。
 そんなラインに、国産小麦が通るなんて、驚くばかりです。

 この二つのニュースは、国産小麦の将来の明暗をわからなくさせます。私は、国産小麦を使ったパンを、もっと取り上げて、是非とも純国産のパンを作る事が、普通になればいいな、と思っていましたが・・・。

 さしあたり、後者の「某大手~」の件で、国産小麦の消費は増える事でしょう。小麦の品種改良も盛んになると思いますし、作付け面積も増えるかもしれません。これは、良い話です。
 でも、前者の「温暖化~」の件は、困ったものです。

 品種改良が、追い付けば良いのですが・・・。

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 私が国産小麦を使う理由は、日本で、日本人が、日本人の為に、パンを作っているから、日本の小麦を使いたい。
 たった、これだけの「思い」からです。

 ただし、私にも「出来る事と出来ない事」がありますので(フリーハンドで商売をしている訳ではない、という事です)、「国産小麦のイギリスパン」しか、作っていません。他にも試作をしましたが、これだけにしています。

 しかも、あと少しで、お気に入りの国産小麦の在庫がなくなってしまうので、次の小麦の収穫があるまでは、作らないつもりです。

 外国産小麦の安全性に関しての問題点は、もちろん知っていますが、現状ではどうにもならない事も、多々あります。
 それを解決する方法は、2つあります。
 1つは、安全な方法で輸入する事。
 2つ目は、使わない事。

 私は、商売でパン作りをやっていますので、コストと顧客動向が「行動指標」に関わってきます。少なくとも、私の住んでいる地方のお客さまは、「国産小麦を選択する」方が、とても少ないのが、現実です。これでは、コストをかけても、商売になりません。


 何度か書いていますが、小麦は農産物です。農産物には、生育に適している土地があります。
 そして、小麦製品も、本来は、その土地で栽培されたものを、長い歴史をかけて、美味しく食べていく工夫の蓄積で、出来上がったものです。

 少なくとも、パンは、日本のものではありません。現在は、外来の文化であるパンが、日本の食文化に溶け込もうとしている最中だと考えています。

 日本のパンを、日本の小麦で焼く。かっこいいじゃないですか。

 しかし、今現在、国産小麦は、最高の外国産小麦の品質、もしくは、日本人好みのパンを焼く能力には、まだ力不足なのは、歪めません。

 年々の技術の向上と、パン用の国産小麦への注目度の増加から、10年前と比較して、現在の国産小麦は、外国産小麦と遜色なく膨らみます。しかし、まだ、「普通レベルの外国産小麦」と同等か、少し下ぐらいのレベルだと、私は考えています。

 私は、誰がどんな材料で、どんなパンをつくりたい、とか、どんなパンが好きだ、と思っても、それを否定するつもりはありません。

 作る人が、自分の意思で、材料を選ぶ事が大事だと考えます。
 作る人が良い思うパンが、作る人にとって、一番良いパンです。


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