せいやんせいやん

せいやんせいやん

その19(10話)


【来世~信長の場合】


本能寺にて、追いつめられた信長が、

「次の世ではぜったい天下取ったるでえええ」

と叫びながら燃え盛る炎に身を投げると──



「ああ暇じゃ」

『特殊法人なんたらかんたら公団』の役員になって

ふんぞりかえっていた。

取ったのは‘取’の字だった。






182
【ニッポン人の定義15】


CMにでている女優のかわい子ちゃん度で

保険会社を決める人種。

あ、そりゃオレか。






183
【来世~純三郎の場合】


派遣社員の純三郎が、とつぜんの契約打ち切りに

行き場を失い、公園で寝ていて凍死すると──



ジュース用のオレンジになっていた。

むぎゅうううぅぅぅ……

痛てててててててて……

やがてカスになってポイッ!されると──



油採取用の菜種になっていた。

むぎゅうううぅぅぅ……

痛てててててててて……

カスになってポイッ!

そして──



蜂蜜採取用の蜂の巣 → 染料採取用のベニバナ

→ 油採取用のトウモロコシ → ジュース用のレモン

→ 乳牛のお乳 → ジュース用のはっさく

→ チュウチュウアイスのパピコ → 羊のお乳 →

……



搾取される運命にあるようだ。





184
【ニッポン人の定義16】


お盆よりクリスマスが好きな人種。






185
【あの世~直弼の場合】


万延元年(一八六〇年)三月三日、

大老井伊直弼が、桜田門外にて、

水戸浪士らによって暗殺されると──



「ようこそ! 我らが斬首チームへ」

目の前に徳川信康(家康長男)の顔があった。

あごの下に両手をそえている。

お互いおヘソの前で自分の生首をかかえているのだ。

「はて、ここはどこでござるか」

「ボウリング場じゃよ」

跳ねとんだピンの音が場内に響いている。

「きょうは見学しててくれ。

 いま、ギロチンチームと対戦中じゃ」

ゴトン、ゴトゴトガタゴトゴットンゴロゴロ……

となりのレーンをマリー・アントワネットの生首がころがっていった。






186
【人生とは~浩之助の場合】


「所詮人生なんて習慣さ」とつぶやきながら、

浩之助さんが玄関で靴を履いていると──



「あら、あなたなにやってんの。きのう定年退職したでしょ」

と言いながら、妻は鞄とハンカチを手渡した。






187
【むかしから母は】


暮れに里帰りをした。

夫は急に仕事が入って来られなかった。

子供のいない私は、母とふたりきり、

差し向かいでこたつに入る。

紅白歌合戦を観ながら、

ふたりでせんべいをばりばり食べる。

いつのまにか、さいごの一枚になった。

まあるいせんべい。

母が取って、両手でパチンと割る。

うまく割れなかった。

大きさの比は7対3くらい。

「お、待ってました! 氷川きよしちゃん」

母はテレビを観ながら、

大きいほうをこちらに差し出す。

しわだらけの手。






188
【傷】


右手中指第一関節の甲側に

いつのまにか傷があった。

長さ5ミリ、幅1ミリ、深さ1ミリほど。

あかぎれに似ていて、傷口は赤黒い。

ジクジクしている。

痛くはない。

オロナイン軟膏をつけてみるが、なかなか治らない。

時々出血する。

そのたび、口で吸う。

出血は定期的だ。きっちり1ヶ月ごと。

じっとみていたら、別れた妻をおもいだした。

そして、血も出ていないのに、口で吸った。

幾度も幾度も吸った。

吸うことがくせになった。

やがて1ヶ月ごとの出血はなくなった。

その代わりズキンズキンと痛みを感じるようになった。

それとともに傷口の近くが徐々にふくらんできた。

もぞもぞと中で動くような気もする。

どんな子が生まれてくるのか、楽しみだ。






189
【ニッポン人の定義17】


年金を払うために節約する人種。






190
【来世~カエルの場合】


軒下のカエルが月をめざしてジャンプしているうちに

力尽きて動かなくなると──



しゃぼん玉になっていた。

「やったあ!」

屋根までとんで、こわれて消えた。





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