せいやんせいやん

せいやんせいやん

その23(10話)


【ニッポン人の定義26】


忙しすぎても暇すぎても満足しない人種。






222
【決別】


目の前にケータイが2つある。

古いのと新しいの。

充電池がいかれたので買い換えた。

古いほうは、外装がシルバーのチタンで頑丈そう。

新しいほうは、水色のプラスチックで脆(もろ)そうだ。

古いほうには、むかし付き合ってた女性からのメールが

残っている。

だから、ショップに預けずに持ってきた。

女性と別れてから、メールは見ていない。

充電器にセットすれば、メールが見られる。

どうしよう。

見たいような、見たくないような。


呼び出し音が鳴った。

古いほうだ。

そんなばかな……。


「はい、もしもし」

「あいかわらずね」

女性のハスキーな声。

「え、どなたですか」

「いつまでも過去をひきずってちゃだめ」

「なんだって」

「7年間、ありがとう」

「きみ、もしかして……」

「さようなら」

以来、どんなことをしても復活しない。






223
【あの世~私の場合】


私がくたばると──



私がたくさんいた。

一瞬にして悟る。

そうか、あの世っていうのは、

パラレルワールドに散っていた自分たちが、

一堂に会する、終着点のような所だったのか。

考えられる限りの自分がいる。

親を捨てた自分、自由奔放に生きた自分、結婚した自分、

勤め人を無難に続けた自分、転職しなかった自分、

犯罪人になった自分、野垂れ死した自分、

周りに貢献した自分、ひっそりと生きた自分……。

あいつとあいつは鼻持ちならない顔をしている。

あいつは生き生きとした顔だ。(死んでいるが)。

あいつは胡散臭い雰囲気だ。

こいつはいかにも浅はかって感じだ。

こいつとこいつは傍若無人で処置なし、こいつは……。

それじゃあこの私は、こいつらに、

いったいどう思われているのだろう。

ひとつだけ断言できる。

私は、私が歩んできた人生に、悔いはない。

(ってほんとに言えればいいんだけどねえ)。






224
【ニッポン人の定義27】


月曜の朝、寝床でうじうじした後、

気合を入れて起きる人種。






225
【あの世~雹太郎の場合】


再就職先が決まらない雹太郎が餓死すると──



「内定取り消し!」

死神がいた。

「え?」

「わるいな。こっちも不景気でな」

もう行くところがない。






226
【ニッポン人の定義28】


ガス欠の高級車みたいな人種。






227
【最期の言葉】


人って自分の死を悟ったとき、

なにを思うのだろう。

夜、うす暗い病室で、天井をみつめ、

なにを思うのだろう。



母は、癌で亡くなる3日前、

私の手を握って、言った。

「しっかりやんな」



母方の祖母は、95歳で亡くなる前日、

半年ぶりに会った私に、言った。

「仕事めっかったかい」



だから、私は頑張れる。






228
【あの世~勘之助の場合】


勘之助が眠るように死去すると──



お花畑にいた。

いや、いなかった。

お花畑だけがあった。

「おーい、おれはどこだあ」

みあたらない。

それもそのはず。

風景に同化していた。

風も光も水も土も石も虫も動物も

みんな勘之助だった。






229
【あの世~駄喜代の場合】


可もなく不可もなく無難に生きてきた駄喜代が、

自宅の風呂で溺死すると──



ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。
ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。
ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。
ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。
ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。
ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。
ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。
ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。
ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。
ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。ま、いっか。
……


自分が吐いてきた「ま、いっか」の海に浮かんでいた。

「ま、いっか」






230
【ニッポン人の定義29】


化かしあいをしているキツネとタヌキみたいな人種。




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