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戦場の薔薇
第二話「白銀闘舞」
地上から舞い上がる真紅の吹雪。
薄暗く赤熱に歪む世界。
そこかしこから聞こえて来る無数のヒトの悲鳴。だが、それさえも掻き消して、焔と爆音が次々と街を焼いて行く。
戦争という物の見せる現実は、私にとって過酷なモノだった。
「どうして…?なんで、こんな事に…っ」
私はヴァルシードの体の中から、眼下に広がる凄惨な光景を目の当たりに、そんな事を呟く。
既に、キトラという名のこの街は、壊滅的な被害を被っていた。
私の第二の故郷。そうなり得る筈だった数分前の美しい町並みは、もはや影も形もない。
そこにあったのは、焼き尽くされた灰塵の世界。
道も納屋も家も人も、何もかも黒く焼け焦げ、鼻を突く何とも言えない嫌な臭いだけが残されている。
空から見下ろせば、それが余計に感じさせる。
「八百屋のおじさんも、花屋のおばさんも、みんな…みんな…っ」
その先の言葉を口にするのが嫌だった。
生きていて欲しい。そう願っていながら、絶望が胸を締め付ける。
守りたかった。
だから、怖さを押し殺して飛び出して来たのに。
「間に合わなかったの…?」
唇をキュッと噛み締める。そんな行為に意味なんて無いのに。
それでも悔しくて、守れなかった人達の痛みを少しでも知りたくて、血が滲む程強く自身を痛め付けていた。
まだ煙る空。
視界は酷く悪くて、時折降り掛かって来る火の粉に驚きながらも私は無意識の内に探していた。
「…未だ、誰か居るかも知れない…」
そんな淡い期待を抱きながら、私は誰かを捜し求める。
だが、視界が悪過ぎて、人影も何も確認出来やしない。
どんなに目を皿のようにしても、見付けられるのは黒く焼け焦げた人だったモノだけ。
目を背けたくなるような景色だけど、それでも私は、無心に戦場の空を彷徨っていた。
…と、不意に私の耳が何かの物音を聞き付けた。
ゴシャッ ゴシャッ
ゆっくりと、しかし大きなその音は、何か目的でもあるかのように何処かへ向かっているようだった。
耳を澄ます程に鮮明に響く物音。
気にならないワケがないその状況で、煙を掻き分けながらその物音へと近付く。そして目に映る開けた景色。
そこで、私は言葉を失った。
『逃げ切れやせんぞ。鬼ごっこもここまでだ』
そう喋ったのは、緑色の…人の形をした物体。
昆虫とも甲殻類とも言えない、その中間的な質感のある全身鎧に身を包んだ化け物だ。
ヴァンが言っていた。
これが、グランスレイ軍の鎧甲機というヤツなのだろう。
だとするなら、今の声はその操縦者。つまりは、私と同じように、鎧甲機を動かす事の出来る人間が放った物の筈だ。
だが、誰に向って話しているのだろう…。そう考えて、ハッとする。
その鎧甲機の足元には、小さな影が二つ見え隠れしていた。
「娘は…この子だけは、どうかお助け下さいっ」
跪いた母親の胸に抱かれる幼い少女。
嘆き訴えるその母子に向かい、グランスレイの操縦者は履き捨てるように言う。
『罪人が何を抜かす』
「罪などと…。私達がいったい何の罪を犯したとおっしゃるのですかっ」
涙ながらに無罪を叫ぶ母親に、鎧甲機の高い目線から見下し、グランスレイの操縦者は答えた。
『我等が王、ドルマ陛下に仇名す事こそ最上の罪。そして、その御前に傅かぬ者も、それと同義と知れっ』
「っ!」
十数メートルは有ろうかという巨体。その体が傾き、片足を持ち上げて踏み下ろそうと見える姿に、母は子を庇うようしっかりと抱き締め、恐怖に潤んだ瞳を閉じる。
殺されてしまう。…いいや、殺そうとしている者がいて、その行為を呪いながら、運命を受け入れようとしている者がいる。
誰かが動こうとしない限り、奇跡なんて起きる訳はない。
今、あの親子に奇跡を起こせるとするなら、それは、きっと私だけだ。
そう感じた時、私の体は無意識の内に飛び出していた。
「させないっ!」
脳裏にフラッシュバックする映像。
子猫を救おうと暴走車両の前に身を投げ出したあの瞬間。
あれが、始まりだった。
小さな命を救う為の代価として自らの命を差し出した私。そして、歩む事になった新しい現在(いま)。
これも人生の起点なら、迷う事などない。
でも、だからって、また命を失うなんてまっぴらだ。
だから考えた。
あの時は、自分よりも大きく強い存在に敗北した。けど、今の私にはヴァルシードが居てくれる。
なら、守るより、庇うより、対等の相手にぶち当たってやる!
ドゴシャッ!!
超重量の物体同士が衝突する轟音。
と、同時に、予期せぬ衝撃を受けて吹き飛ばされたグランスレイの鎧甲機操縦者は声をあげた。
『ごわっ!?』
既に崩壊した建物を掃除でもするかのように、進路上にある地面の障害物を薙ぎ倒しながら滑るグランスレイの鎧甲機。
それを尻目に、重心を下げて上手く着地した私は足元で震える親子を見た。
『今の内に逃げて下さいっ!』
「…え、ぇえ…っ!?」
母親は、娘を抱えたままで目をパチクリとしていた。
絶望していた状況に、突如として現れたもう一体の鎧甲機。
味方などいないと思えたその場で命を救われた事が、彼女達には未だ理解出来ていないのだろう。
だから、現実へと引き戻す為にも、私は少し口調を荒げて叫んだ。
『死にたいんですかっ!?』
「え…っあ、あ、ありがとう…ございますっ」
『お礼なんていいから、早くっ!』
「は、はいっ」
そう言いながら、私が指差した方向へとそのまま走り出す親子。
恐怖と混乱で、頭を下げている余裕さえなかったのだろう。でも、間に合って良かった…。
私が戻って来たのは、決して無駄なんかじゃなかったんだ。
でも、そう思った時だった。
『ぬ…ぐぅ…。いったい、何事か…っ』
ヴァルシードの体当たりで地面に倒れ込んでいたグランスレイ鎧甲機が、上体をググッと起こしながら軽く頭を振って周囲を見回していた。
そして、目に留まったのはヴァルシード。そう、私が乗る、この子の姿だ。
『鎧甲機…だとっ!?』
眩んでいた頭が唐突にスッキリとしたのか、目が飛び出してしまいそう。という表現がピッタリな動きをする緑の鎧甲機。
そして、慌てるように立ち上がると、背から伸びた半透明な空気のような質感の翼を広げてブーンっと音を発てる。
「…鎧甲も纏わぬ素体で戦場にっ?いや、それ以前に、あのような形の鎧甲機など、見た事もないっ」
鉄仮面で顔を隠したグランスレイ鎧甲機の操縦者がヴァルシードの爪先から頭の天辺までを舐めるような視線で見つめる。
だが、彼の言葉は実直だった。
確かに、彼の乗る鎧甲機に比べ、ヴァルシードの姿はこざっぱりとしていた。
それは、彼が言った通り、鎧甲という甲殻鎧を身に着けていないせいだろう。
素体という言葉は実に適切な表現だった。
「コ、コイツ…まだ立ち上がって来るっ!?」
かなりの衝撃を与えた筈だった。
何せ、空高くから飛び込むようにして体当たりをかけたんだから。
でも、それにダメージを感じさせない敵の動きは、私を驚かせるのに十分だった。
『っ!』
思わず身構える私に、グランスレイ操縦者は怒りにも似た声色で尋ねる。
『貴様、何処の所属かっ!』
『え…、しょ、所属っ!?』
『何者かと聞いているっ!!』
『うっ』
コチラを疑った物言い。そして、敵鎧甲機は腰からぶら下げていた鞘から一振りの巨大な太刀を抜刀する。
慌てた私は、しどろもどろになってしまって、どう答えるべきか解らなくなっていた。
それに業を煮やしたのか、敵鎧甲機はその手の得物を正眼に構えて飛び掛って来た。
『怪しい奴め!もしや、ドルゥ・ヴァンの手の者かっ』
『どる……な、なに…って、キャッ!』
突進から繰り出される敵鎧甲機の鋭い突き。
だが、驚きながらも持ち前の反射神経でその一撃を紙一重交わす。
しかし、その瞬間に、頬を冷たい感触とチリッとした痛みが走った。
「え………っ」
そんな自分の頬に手を当て、軽く擦るようにしてから目の前へと移して見る。
すると、どっと冷や汗が溢れて来た。
自分の手。その指先には、薄っすらと赤い絵の具のような物がこびり付いていたのだ。
「私の…血…?」
斬られた…というよりは、掠めただけなのだが、それはあくまで私ではなくヴァルシードだった筈。なのに、私の頬から微かに溢れ出すそれは、相手が紛れもない真剣を握っている証明のように感じられた。
直感する。
ヴァルシードが傷付けば、私の体も傷付く。…なら。ヴァルシードが致命傷を受けるような事があれば、それは私自身の致命傷になりかねないんじゃないのだろうか。
「…殺される…」
真剣を持つ敵意に対し、私の心は恐怖だけで満たされてしまっていた。
足が竦む。
手が体が震えて止まらない。
言い訳をさせてもらえるなら、無理もない事だと思う。
だって、つい一月ほど前までは、ただの女子高生だったんだから。
どんなに運動神経が良くても、学校での成績が良くても、いきなり本物の戦場に立って正気でいられる訳なんてないんだ。
自分の行為を今更ながらに後悔していた。
結局、同じじゃない…。
誰かを救ったら、やっぱり相応の代価を支払わせられるんだ。
子猫を救って自分が死んで、親子を助けて私が殺される。以前に学校の授業で習った錬金術で言う所の真理そのものだ。
でも、そんな事を考えている今にも、敵鎧甲機の猛攻は止まる事をしなかった。
再び振り上げられる白刃。それは、間違いなく自分に向けられている。
死ぬんだ…。でも、その刹那に、私の考え方は微妙に方向を変えた。
(死ぬ…?私が…?もう、既に一度、死んでいるのに…?)
振り下ろされる狂気。だが、その動きがやけに遅く思えた。
スローモーションのようだった。
そんな中、死を目前に思い浮かべたのは「初めて出来た、大切な人」の姿だった。
(…生きていたい。まだ死にたくない。そんな生への執着が、この世界を生んだのかもな…)
確か、そんな事を言っていた。
そして、こんな風にも続けていた。
(…だから、そんな世界だから、執念がものを言うんだろう。意志の強い人間ほど、ココじゃ長生き出来るんだ…)
執念?意志の強さ?
死にたくないって思う心。
まだ死ねないって諦めない気持ち。
じゃあ、私にそれがあるの…?
自身にそう尋ねた時、答えは直ぐに出た。
「…ある…っ」
見開かれた私の目に飛び込んで来る殺意。けど、私はまだ、死ぬ訳にはいかなかった。
『鎧甲も持たぬ丸腰の鎧甲機など、何する物かぁーーーーーーーーっ!』
眼前に迫る刃。だけど、私は逃げなかった。
そして、その手を伸ばし、怒りにも似た感情を爆発させる。
「私は…貴方なんかに、絶対負けないっ!!」
『んなっ!?』
ピタリと止まる両者の動き。
その直前に響いたのは、金属同士がぶつかり合うような、ガキーンッと響く甲高い衝突音だった。
ギキシッ
その音は、未だ途切れる事なく余韻を残していた。…いや、余韻ではなく、今もなお響き続けていたのだ。
『…す、素手で…受け止めただとっ!?』
驚愕に震えた声で、敵鎧甲機の操縦者が叫んだ。
その言葉通り、私の…いや、ヴァルシードの左手は、彼が振り下ろした白刃を目と鼻の先で受け止め、そのまま握り締めていたのだ。
ギ…ッギシギシッ
鉄が擦れ合うような独特の響き。
その中で、私は自分の意志の力を信じた。
「負けない…。だから、絶対に砕けるっ!」
その瞬間、メキッと鋭い音を発てた敵鎧甲機の太刀が持つ白刃に亀裂が走る。
『…な…っ!』
声にならない声。とでも言うのだろうか。
驚きからそんな声を発したグランスレイ操縦士の目の前で、ヴァルシードの手に握られた白刃が木端微塵に砕け散った。
ガキャーーーーーンッッ
急に力の方向性を失った敵鎧甲機は、体勢を崩しながらよろめき、ヴァルシードの懐辺りで私の顔を見上げてきた。
『ヒ、ヒィィーッ』
途端、慌てた様子で後方へと飛び退いた敵鎧甲機は、その手に握られた柄の部分だけとなってしまった太刀とヴァルシードを何度も見返していた。
『な、んだ…?何なんだ、コイツは…っ!?』
それはきっと、得体の知れない圧倒的な力を持つ者への恐怖だったんだろう。
ガタガタと震える彼の足腰を見ていれば、それは造作もなく判る。
だから私は、自らの持てる自信の全てを以って、ただ彼を見据えた。
「ク、クソッ!…コチラはフロッグワン!ドルゥ・ヴァンの手の者と思われる鎧甲機と接触した!至急増援をっ」
『どうした?フロッグワン。冗談なら後に…』
「冗談などではない!化け物だ!ここに…、化け物が居るんだよっ!」
声を荒げてそう叫ぶグランスレイ操縦者。その声を聞き付けた付近の友軍兵士は、ただ事ではないと直ぐに駆け付けてきた。
黒煙の中から飛来したグランスレイの鎧甲機は二機。双方とも、対峙していた鎧甲機と同じ色形をしている。
『む…なんだ?』
『鎧甲も装備していない、ただの素体じゃないか。こんな奴相手に、何を梃子摺って…』
だが、そう言い掛けた友軍機に向かい、彼は大声で怒鳴り散らす。
『見た目で判断するな!コ、コイツ…、このベル・エゥルの太刀を素手で握り潰した怪物なんだぞっ!』
『な、なんだとっ!?』
それを証明するかのように、友軍機へと向けられる砕かれた太刀。
流石に冗談とも思えなくなったのだろう。臨戦態勢を整えた他の二機が、ヴァルシードと私に向って抜刀する。
「…………………」
三対一。多勢に無勢。この状況を劣勢とみなす言葉は幾つもあるだろう。しかし、今の私はそれを怖いとは思えなくなっていた。
気持ちで負ける訳にはいかないんだ。
私の強さに、ヴァルシードは応えてくれるんだから。
『あの怪力に捕まったら最後だ!距離を取り、包囲してマグナパルスで仕留めろ!』
『応っ』
私を中心に三方へと散ったベル・エゥルという名の鎧甲機達は、ある程度の距離を保ちながら左手を正面に向けて突き出していた。
何をする気なのかは判らない。でも、不思議と恐怖は感じなかった。
ただ、その動きだけは、見逃さないように目を凝らす。
『鎧甲も無くては防ぐ術などあるまい!』
『粉微塵に消し飛べ!』
『一斉掃射!』
ベル・エゥルの左腕。その甲殻がガバッと音を発てて左右に開かれると、そこから先の尖った針状の物体が真っ直ぐに伸びて掌の向けられた方向に放電しながら光る輪を形成した。
と、その直後。放電は一筋の電光となって収束し、私とヴァルシードを目掛けて一直線に放射されたのだ。
ドガカーーーーーンッ!!
発射後では反応のしようが無い光の速さで雷がヴァルシードを襲った。
凄まじい閃光だった。そして、轟く低音と高音の入り混じる雷鳴は、私達の全てを焼き尽くさんと唸りをあげる。
「う…っ」
思わず漏れる声。私は目を伏せていた。
だけど、何故だろう。やはり、未だに恐怖という感情は込み上げてこなかった。
でも、その光の向こうでは、彼等が勝利を確信したように歓喜の叫びを上げていた。
『馬鹿め!』
『直撃だっ!』
『粉々に吹き飛んだかっ!ハーハッハッハッ』
そんな私達の事を何処か遠くで見詰める視線に、私は気付いていた。
漆黒の鎧甲機。
禍々しく尖り、天を突くような一本角のそれは、歓喜に沸く友軍兵達に向けて嘲りの笑みを浮かべる。
「…愚かな。伝説に謳われる最強の鎧甲機…いや、千年王が無敵の矛盾、鎧皇機神とまで称されるヴァルシードが、その程度の事で砕けるものか…」
肩程の高さで切り揃えられた神々しい程に美しい銀の髪をスッと掻き揚げ、整った顔を覗かせた鋭い目付きの青年はそう語る。
赤く燃える焔のような瞳に映し出された黒煙の向こうに、彼は何かを確信したような微笑を浮かべていた。
黒よりも深い黒。深黒とでも表現すべきだろうか。そんな彼の頑強そうな全身鎧は、金色の彫刻で装飾されていて、位の高さを示しているようだった。
「…見せてもらおう。その「神」とまで云わしめた力と、真の姿を…」
その時、私は彼の意図など理解していなかった。
ただ、その言葉通りに、私とヴァルシードが変わって行くのを感じていたんだ。
ゴゴゴゴゴォォ……ッ
それは、地鳴りか何かと勘違いしてしまうほど、腹の奥に響く音と振動だった。
『な、なんだ…っ!?』
『地震…かっ?』
ベル・エゥルの操縦者達は、得体の知れない空間の唸りにたじろいていた。
地震。そう口走った彼は、忘れていたのだろう。自分達が宙を舞っていたという事を。
だが、それでも感じているのなら、それは地震でも地鳴りでもない。
ヴァルシードと私。変わってしまった、この二人の力だったんだ。
ドゥーーーーーーンッ!!
途端に爆ぜる私達の内側の力。それは暗雲を跳ね除け、周囲一帯を陽光で照らし出していた。
『ぐわっ』
突風…というよりは、むしろ衝撃波と言った方が適切かも知れない。
圧力で押し飛ばされた三機のベル・エゥルは、空中で乱れた体勢を整えてから爆発の中心点を見入っていた。
いや、見入っていたのではなく、魅入られていたのかも知れない。
そこに立っていたのは、紛れも無く美し過ぎるモノの姿だったから。
『…な…ん…だ…?』
『我々は…何を…見ているのだ…?』
『夢でも見ているのか…?オレは…』
それは、白よりも白く、高貴で、神々しく。
まるで、自らが輝く太陽であるかのように陽光を跳ね返す、金色の焔が伝っているかのような神秘的な装飾が施された白銀の鎧を身に纏いし聖なる騎士の容。
弾けるような光の両翼は煌く外套を想わせ、その手が天に翳す一振りの太刀は眼にしただけで切り裂かれた錯覚さえ覚えさせる。
芸術という言葉だけでは表現し切れない美しさと逞しさを併せ持った彼を、私はこう呼んだ。
「…おはよう、ヴァルシード…」
その言葉に呼応したかのように、生まれ変わったヴァルシードの眼が淡い緑を宿す。
ブゥオンッ
同時に、天に掲げられていた金色の太刀はその頭上から下ろされて大きく振り払われた。
切り裂かれ、巻き荒ぶ神風にキラキラと散る金の粒子。
この威容に絶対者たる存在を重ねぬ者など在りはしないだろう。
『…まさに、神…。素晴らしい…』
黒き銀髪の騎士は、まるで自身の身に起こった事のように悦び、微笑みを浮かべてそう呟いた。
だが、その一方で、放たれた剣圧のせいか、はたまた醸し出される威圧感からか、ようやく我を取り戻したベル・エゥルの操縦者達が畏れに身を震わせ始めていた。
『え、ええぃ、今度は何なのだっ!?』
『あの白い奴は何処へ行ったっ!?』
『何時の間に入れ替わったというのだっ!?』
彼等の反応は至極当然。
入れ替わったとしか思えないほど、ヴァルシードの姿は変容を遂げていたのだから。
まるで素体の時の原型など残していない。
強いて言うなら、人の形を模しているという事以外に共通点など在りはしなかった。
だから、私は自身である事を彼等に告げる。
『私は…我は、翔子…。ショウコ・サナダ。この戦国乱世に在り、平定へと導く新たなる千年の王』
威風堂々。私は、まるで別人にでもなった気持ちで戦場に名乗りを上げた。
それくらいの威嚇が必要な場面。そう思ったのは事実だった。
でも、それ以上に、私の中に生まれた別の人格がそうさせたのかも知れない。
周囲を取り巻く黒煙が払われたせいだろうか、ヴァルシードの周りには、三機のベル・エゥル以外にも多数の敵機の姿が在った。
だから、あえて一騎当千を謳い、名を知らしめる。
『遠からん者は音に聞け。近くば寄って目にも見よ。我こそが…救世の機神ヴァルシードなりっ!!』
下腹部に力を込め、まるで剣道の試合の時のように全身で声を発する。
その気合いは再び私を中心に風を呼び、周囲全ての空間を威圧した。
カタ…カタカタ…カタ…ッ
無数に聞こえて来る何かの震える音。
カタカタと鳴るそれに、グランスレイの兵士達は皆動きを封じられてしまっていた。
『お、怯えているのか…っ?』
『機体が…いう事を聞かんっ』
『手が…足が…、一体何なのだ、あの機体はっ!?』
震えているのは、彼等の駆る鎧甲機達。
ヴァルシードと同様に。彼等にも意志があるのだろう。だから、彼等は本能的に感じて迷いを見せたのだ。
自分以上の力を持つ存在に、刃を向けるべきか否かと。
それ程の恐怖に怯える鎧甲機達の中に居るのだから、彼等操縦者達も正気の沙汰ではなかった。
『に、逃げろ…っ!奴は化け物だっ』
『撤退だ!撤退を進言するっ』
『敵の戦力が測れません。隊長、ご命令をっ!』
次々と浮き足立つ兵士達。だが、私はその好機を見逃しはしなかった。
『我が戦国最強の刃、其の身にしっかと刻み着けよっ!』
黄金の粒子をその場に残し、天高く舞い上がるヴァルシード。
宙で両翼を翻し、一度静止した私は眼前のベル・エゥルの一機に狙いを定めていた。
そして、間髪入れずに黄金の太刀を振るってその敵に襲い掛かる。
「はぁぁぁぁああああああーーーーーーーーーーーーーーっ!」
『うっ、く、来るなぁぁぁっ!!』
振り上げた黄刃を躊躇い無く降ろし、一刀の下に両断する。
ザンッ
怯え、戦く事しか出来ない相手を切り裂いた刃は、鋭い斬音を残してピタリと止まる。
直後、敵機の操縦者が断末魔の叫びを上げた。
『ギャアアアアアアーーーーーーーーーーーーッ』
遅れて光りを残す斬撃の痕。
切り裂かれたベル・エゥルの巨体は、右袈裟から胴体を真っ二つに別けられてゆっくりと落下しながら炎上した。
だが、ここで止まっては敵を逆上させるだけに終わる。だから、もっと多くの命を絶って、彼等に恐怖を抱かせねばならなかった。
「まだまだぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」
私は休む事なく次の獲物に目を移す。その瞬間、震え上がる敵機。
『ヒ、ヒィィーーーーッ!?』
残忍な鬼と化していたのかも知れない。
恐怖し、抗う事も出来ない相手に、私は同情の念を抱く事が出来なかった。
残虐非道の限りを尽くし、街を、家を、人を焼いた彼等に、情けなどかける気にはなれなかったのだ。
「お前達なんかぁぁぁああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
『ギャアアッ!』
そうして、身動きの出来ない彼等を十数体斬り伏せ、私は周囲を見渡す。
「次は…次に、この太刀の錆に成りたい者はどいつだっ!?」
『う、うぅ…っ』
怯える敵。
その対象が私なのだと、今更ながらに気が付く。
だが、まだ後退する気配を見せない彼等に、私は足りないとばかりに再び太刀を振り上げる。
しかし…
ガキンッ!
目掛けた敵機に振り下ろされたヴァルシードの太刀が、別の白刃によって受け止められていた。
『な…っ』
『…そこまでだ。これ以上、私の部下達を殺られてはかなわんのでな…。ここからは、私がお相手しよう』
私の前に立ちはだかる黒い影。
それは、兜に天を突くような鋭い一本角を持つ、ヴァルシードとは対象的な、漆黒の甲冑を身に纏う鎧甲機だった。
交えた剣から伝わって来る。
この人には、私に対して恐怖がない。
強いんだ。力だけじゃなく、精神的にも。
間違いない。この人が、この隊を率いている隊長格なんだ。
『…さっき、私の事を見てた…っ』
『ほぉ、気付いていたか…』
あの時。ヴァルシードと私に起こった変化を、唯一一人だけ冷静に見ていた銀髪の男。
『…サナダ殿…と申されたな。我はグランスレイ重騎士団が総騎士団長ヴェイル・ドレイク。故あって貴公を斬らせて頂く…』
『ぅくっ』
鍔迫り合いから弾かれ、力で圧倒されたヴァルシードと私はそのまま空中で距離を取る。
『剣の才が御有りの様だ。だが、それが実戦で通用しますかな?』
『クッ、負けないって決めたんだ…。こんな所でーーーーっ!』
正眼に構えた太刀を駆け出すと同時に突き出す。
その切っ先が目指すのは、ただ一つヴェイルと名乗った男の黒い鎧甲機の首だった。
しかし…
『踏み込みが甘い』
『きゃうっ』
猛突進で突き出した切っ先が、黒い鎧甲機の剣先がクルッと円を描いた瞬間に容易くいなされてしまった。
冷静さを欠いていたんだ。
興奮状態で、剣が鈍ってた。
彼にはそれが判っていて、だから隙の大きな一撃に簡単に対処されてしまったんだ。
滑り込むように喉下に突き付けられた白刃の切っ先を前に、私はようやく自身の愚かさを思い知る。
『意気や良し。しかし、まだまだ未熟だ』
『う…うぅ…っ』
勝てない。力の差が余りに大き過ぎる。
この人の持つ余裕は、慢心などではなくて、芯の強さから来るものなんだ。
私は死を覚悟した。しかし、その切っ先は私を貫く事をしなかった。
「え…?」
ゆっくりと引かれ、喉下から離れて行く白刃。
『どうやら、ここまでのようだ』
男はそう言うと、剣を鞘に収めてヴァルシードから離れて行く。
『貴方に、お迎えのようです』
『どういう…事?』
黒い鎧甲機が向ける視線の先。そこに浮かび上がった大空を舞う影。
それはとても大きくて、龍のような姿をしていた。
『無事か、ショウコッ!?』
「え?え??」
突然ヴァルシードの中にいた私の耳を打つ声。それには、聞き覚えがあった。
『ク、クリフ…さんっ?』
『ヴァンから聞いて、急いでぶっ飛んで来た!…どうやら、間に合ったみたいだなっ』
近付くに連れてどんどん大きくなってゆく龍の影。
それが本当に大きくて、まるで街一つをスッポリと覆い隠してしまいそうな程だった。
『そ、それは…?』
『もう安心しな!コイツはドラグ・ドゥーラ。俺達ドルゥ・ヴァンの旗艦だっ』
『旗艦…』
つまり、彼等レジスタンスの軍艦って事?
そう思っていると、クリフが大声で号令を下す。
『鎧甲機部隊、全機発進!グランスレイの連中を俺達の「姫」から引き離せっ!!』
『応ぉぉーーーーーーーーーっ!!』
その大空を揺るがす応えは、一人や二人の声ではなかった。
少なくとも、数百という人間が「姫」と呼ばれた人の為に決起していたんだ。
でも、姫って、いったい誰…?そう思っていると、出撃して来た無数のドルゥ・ヴァン兵士達が私に向って告げる。
『姫はお下がり下さい!』
『ここは、我々がっ』
「え?えっ??えぇえっ!?」
どうやら、クリフが言った「姫」とは、私の事らしい。
状況が飲み込めず、立ち尽くしていた私に、目の前の黒騎士が続ける。
『これはこれは、勇猛果敢なお姫様だ…フフフッ』
『なっ』
『ドルゥ・ヴァンの本体が出てきたとあっては、戦もここまでだ。私一人でアレと貴方を相手にする事は出来そうもない』
そう言うなり、ヴェイルは私に背を向けて背後の部下達に命を下す。
『全軍に通達。目標は既に敵の手に落ちた。これ以上の戦闘行為は無意味である。よって、各機は速やかに戦線を離脱。後退せよっ』
その声を皮切りに、グランスレイの鎧甲機達が一斉に後退を始めた。
統率の取れた動きだ。このヴェイルという男の器が測れる。
『では、失礼する。また何れ、何処かの戦場で見える時を、このヴェイル・ドレイクとその愛機ディン・ベルグ、心待ちに致しております。ドルゥ・ヴァンの姫君』
『ちょ、ま、待ってっ』
『フフフッ、御免』
そう言うと、ヴェイルは黒い鎧甲機ディン・ベルグを駆り颯爽と飛び去って行く。
その背を追おうと手を伸ばした私だったけど、そこに割って入った別の鎧甲機がそれを制した。
『深追いは禁物です。姫』
『アレは、グランスレイの黒き獅子と噂される兵。ここは私めに免じ、お控え下さい』
「……………」
追う事を諦めた私は、彼等の指示に従ってその場を動く事をしなかった。
正直、混乱した頭の中を整理したい気持ちもあったからだ。
ヴァルシードと呼ばれるこの鎧甲機と突如訪れた変化。
そして、同時に生まれた私の中のもう一つの一面。
ヴァンの仲間達にいきなり「姫」なんて呼ばれたり、戦場の中に在る事の意味を悩んだり、私には整理しなくちゃいけない事が多過ぎる。
だから、先ずは、私の帰りを待ってくれていた人にこう言おう。
「…ただいま、ヴァン…」
ヴァルシードから降りてきた私は、泣きそうな顔で迎えてくれた彼にそう告げた…。
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