時の旅人

時の旅人

その3


 学校に出かける僕は、起きようともしない彼女たちを尻目に、買いおかれたインスタントラーメンを作ってすすり込み家を出る。彼女達は、僕が出かけてから1時間ほどすると目を覚まして朝食を作り、自分達だけゆっくりと食卓を囲むのだ。休日はと言えば、母親は祖母を相手に仕事先での話、酔客の話に花を咲かせる。そして祖母も、やや知恵遅れの傾向があった弟とベッタリ。この家に居心地の悪さを感じるまでそれ程時間は掛からなかった。

 ジレンマと疎外感に苦しみ、十歳の時秋田へ戻りたいと強く主張した。母親は、一年ほどでまた呼び戻すことになるがそれでもいいのかと念を押しつつもその日のうちに秋田へ手紙をしたためていた。折しも母方の祖母が加齢性眼病の手術のため上京し、手が足りないというのが表向きの理由となった。秋田からは「よこしてください」という返答があり、4年生の運動会を最後にクラスに別れを告げ、それから1週間ほど経過した小雨の降る日、迎えに来た父親と共にひっそりと三島を後にした。
 当時は嬉しさで浮かれていたかもしれないが、今思い返すと複雑な気分になる。


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