時の旅人

時の旅人

その6


 現在、僕はパートタイム契約の勤務に切り替えていたからそれ程でもないが、市内の司法所事務所に勤務していた当時は日々の多忙な業務に振り回されて、今思うと良く勤労学生の身分を保てたものだと思う。小さい頃から胃腸が若干弱かった僕はいつしか神経性の胃腸炎に陥って医者通いが続き、一昨年のスクーリングも整腸剤持参だった。その前の仙台でのスクーリングの時は現地で正露丸を買って服用した。
 でも、スクーリング期間は慌ただしさから一時だけでも解放され、精神的にも肉体的にもゆとりを取り戻す貴重な充電期間でもあった。ゆっくりと風呂につかり、食事もゆっくり楽しめる。
 地方スクーリングのため緑に囲まれた郡山市の工学部キャンパスを初めて訪れたときなど、お金とかは別問題として、ここで学生生活を続けられたらどんなに良いだろうと考えたものだ。キャンパス内にいる通常課程の学生が羨ましかった。
 僕は司法書士事務所の仕事をやめてパートの仕事に切り替えることになった。ある程度は想像できたことでもある。大学を取るか仕事を取るか選択を強いられたのである。ただでさえ時間勝負で忙しい仕事ばかりやっている事務所で、本来は休暇すらままならない職場であることは自分自身良く知っていた。それでも、短期間の地方スクーリングの受講は黙認してもらったが、夏期スクーリング受講によって、職場の対応ががらりと変わることになった。職場の妨害工作が露骨になり、地方スクーリング受講の休暇を拒否された。そのとき、自分はスクーリングの受講料を振り込んでいたので、それが消えてしまったのは痛かった。そして、理不尽なボーナスカットまで発生した。
 言葉での嫌がらせもあった。こういった事務所は所長のワンマン経営であるから、一般企業とはだいぶ違う。
「司法書士試験を受けるわけでもなく、無関係な勉強をして」とまで言われたが、事務所に事務員として勤務する人間だからと言って、必ずしも資格試験を受ける必要などないと思うのだが。
 これ以上ここの職場に居たら、学業に支障が出ると思った。半年前から予告した休暇も却下されるのも理不尽だったが、今後同様な嫌がらせが続くと、単位が取得できず、半年単位で卒業が先延ばしになってしまう。これは絶対に避けなければならない。それで、平成9年の初頭、退職を申し出た。
 同年2月に退職した。気付いてみると、あれだけ悩まされたお腹の症状がすっかり良くなっていた。やはりストレスが原因だったのだ。
 退職直後、風邪をこじらせてマイコプラズマ肺炎を発症するというオマケが付いたが、おそらくストレスで体もダメージを受けていたのだろう。職探しの前に休養する必要があったが、休まないと体がもたなかっただろう。
 幸いにも年度末で大学の試験もない時期だった。布団の中に横になり、寝たままの姿勢で万年筆を握り、レポートを書いたりもした。


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