時の旅人

時の旅人

その8


 それにしても、『気の向くまま』の孤独な時間だった。事前に列車時刻を調べたわけでもなかったし、第一時刻表など用意してもいなかった。どれだけの時間を現地で過ごすのかもその時の気分で判断するつもりでいた。
 サーフィンボード持参の若者がいつの間にか電車から姿を消していた。電車は山間部に突入しつつある。停車するたびに喧しい程の蝉の声が響くのには正直驚いた。秋田では最近これ程の蝉の声は聞けない。もしかしてこちらの方が自然が残っているのだろうか。
 函南を発車した。ここは三島の直前の駅である。程なく眼下に懐かしい風景が広がる筈だ。車窓に顔を寄せて外を見つめた。二十年ぶりに見る三島の街、友人の話だとだいぶ変わったというけれど、果たしてどうなのだろうか。思案しているうちにその風景が目に飛び込んだ。夢にも登場したあの田園地帯は何とそのままではないか。あの時と同じく緑一色で嬉しくなった。感激しているうちに到着アナウンスがあり、電車は三島駅に滑り込む。外には某製薬会社の工場や東レ三島工場が見える。こうして僕は、二十年ぶりに三島に降り立ったのだ。


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: