時の旅人

時の旅人

その9


 駅南口に向かい駅舎を出て、日曜の朝という事もあって人影まばらな周囲を見回すと、南口周辺についてはさほど大きな変化は無いようだった。
 それでは、いよいよ思い出を追ってみようか・・・。僕はアーケード街を歩き始めた。
 相変わらず寂しい駅北口付近ガード下へ足を向けると、最初に住んだアパートがまだ残っていた。当時、訳の分からぬまま三島に移り、今はすっかり古ぼけたあの部屋で約半年間生活した。
 あの時母親は夫婦間の事など一切説明せず、父親は一歩遅れて三島に来るのだと説明し、当時の僕はそれを信じていた。裸電球の明かりとガランとした部屋の記憶が蘇って来た。 
 それから日大通りに差し掛かった。当時、頻繁に立ち寄っていた文房具店『みかどや』は姿を消して、コンビニになっていた。年配夫婦が切り盛りしていて学校の御用達だったあの店がなくなって少し寂しい。
 銀杏並木を少し歩くと、当時通っていた小学校がある。道路を隔てて向かい側には日本大学国際関係学部のキャンパスが広がる。僕が大学通信教育部に入学する時、日大を選んだ理由の一つは、子供の頃から身近に感じていた大学だということでもあるのだ。

 北小学校・・・、懐かしいその小学校は補修こそされていたが、当時の雰囲気を保っていた。夏休み中で人気のない校庭を歩き、シャッターを切る。中庭に行くと、卒業記念の石碑があった。校歌の一節が刻まれている。
『清く 正しく 美しく』
 頭の中にオルガン伴奏の校歌が蘇って来た。
歴史の古い学校らしく、歌詞は文語体で小学校の校歌にしてはかなり難解である。転校してきたときさっぱり意味が分からなかったのを覚えている。
 あの校歌の意味を理解するには、中学に進んで古文の知識を得てからでないとちょっと無理だろう。
 逆上がりの練習に励んだ鉄棒、最後の登校日は運動会だった。思い出残る運動場。すべてそのままだった。


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