時の旅人

時の旅人

その10


 小高い丘を見上げると、随分と家が立ち並んでいる。やはり宅地造成が進んで開けている。
 橋の直前で右に曲がる。左手に流れる大場川を見つめると時折錦鯉が泳ぐのが分かる。狭い道の両側に窮屈そうに立ち並ぶ家々。この辺は変わっていない。実は母方の親類の住む家がある。一時身を寄せたこともあるのだが、果たして今もいるのか興味がわいてきた。
 その家はすぐに見つかった。しかし、もう誰も住んでいないようだ。それはそれでいい。今更接触するつもりなど全然なかったのだから。
 その日の三島市は雨上がりで雲が残り、残念ながら富士山の姿を望むことが出来ない。空気も湿気を含んでいて蒸し暑い。ハンドタオルで汗をぬぐいながら僕は歩みを進めた。新しい橋が架かり道路が出来ているようだが、あえてそこを素通りし、かつて利用していた小さな橋を渡った。月見橋を言うその橋も、架け替えられていたようで、少し場所も移動していた。
 この辺は郊外地で当時は少し寂しいところだったが、一面田んぼだった場所にスーパーマーケットが建っていた。後で友人から聞いたのだが、十数年前にオープンしたのだという。暑さに耐えきれず、正面の自販機で清涼飲料水を買いのどに流し込んだ。


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