時の旅人

時の旅人

その18


 午前中の科目は『英米文学演習』。内容はホーソーンの『偉大なる岩の顔』の精読と考察だ。高校の教科書に採用されていたダイジェストで読んで以来、この作品が好きだ。演習の授業でますます好きになった。
『希望を持ち続けよ、例え何歳になっても』
 根底に流れているテーマはこれだと思った。僕自身へのメッセージでもある。人よりだいぶ遅れて目標を設定したから、時として周囲から理解されないこともある。しかし可能性はまだ残されている。他人の言う事に揺らぐようでは嘘だ。その想いに支えられてここまで来たのだから。

 一週間は瞬く間に過ぎた。午後の科目で専門外の「西洋史」をとっていたが、試験を終えてその出来栄えにやや不安を残しながら僕は教室を後にした。安堵感と疲労感を交互に見え隠れされた様々な年齢層の学生達が次々と校舎から姿を現し路上はたちまち人いきれになる。
 雑踏の中で、以前地方スクーリングで一緒になった学友を発見し、お互いの出来栄えを話しながら電車に乗り、そのまま上野駅まで同行する。新幹線に乗るという彼とそこで分かれて一旦外出し、人混みをかき分けながら駅前で勤務先用の土産を買い、立ち食いのそば屋で夕食をとった、東京にいる間、立ち食いの店は財布の見方だったな・・・。そんなことを真剣に考えながら、東京での最後の食事をかき込んだ。
 それkら新宿駅まで行き、新潟行きの快速列車「ムーンライトえちご」に乗る。入線まではまだ相当の時間がある。時間つぶしをしようと通勤快速に乗り神田まで行く。この騒々しい街で一週間過ごしたんだな。ホームに佇んでゆっくりとタバコを吸い、例の機械的なアナウンスを聞きながらネオンがきらめく神田にもう一度別れを告げ、轟音と共に滑り込んできた折り返しの電車で新宿に戻った。
 18きっぷの旅だから、翌朝は乗り換えしつつ各駅停車で秋田まで帰るのだ。里帰りの学生でごった返す夜行列車は冷房の効きも悪く、疲れているはずなのにほとんど寝付かれない。少しでも旅を続けていたいと思う反面、早く家に戻って風呂に飛び込みたかった。


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