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2021.07.27
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​​ 100days100bookcovers-no56 56日目
​篠原勝之『骨風』文藝春秋社   ​ ​​
SODEOKAさん 「ペルソナ」 KOBAYASI君 「TOKYO BAY」 DEGUTIさん 「ヴェネツィアの夜」 、写真集が続きました。
​​​ 「鬼海なんて名前は一度出会えば・・・」 ​​
​​  という KOBAYASI君 の言葉に相槌を打ちながら、我が家の書棚に ​「世間の人」(ちくま文庫)​​ なんていう文庫版の写真集があることなんて、すっかり忘れているのだから話になりません。
 図書館の仕事をしていたときにも、写真の好きな同僚のために様々な写真集を書庫から引っ張り出したり、新入庫したりして、いろいろおしゃべりしていた中に 奈良原一高さん の写真集もあったはずなのですが、写真家の名前なんて、
​​ 「ああ、そんな名前もあったなあ」 ​​
​ ​ という感じで、困ったもんです。
 というわけで、ちょっとエリアを変えたいのですが、 塩野七生 とか ヴィスコンティ とか、なかなか魅力的な名前も出てきましたし、ああそうだと思いついたのが ヴィスコンティの「家族の肖像」 でした。 ​​
​「よし、それで行こう、あの人の「家族の肖像」があるじゃないか」​
​  と思い付いたのが、 保坂和志 「カンヴァセーションピース」 という小説ですね。​
 ところが、この所よくあることなのですが、探し始めるとないのです。 保坂和志 の小説の山を探すのですが、 「カンヴァセーションピース」 だけがない!この間なかった 「朝露通信」 は二冊に増えているのに。
 そして、なぜか、 保坂 の本の山の一番下でひっそり埋まっていた、このお宝を発見したのでした。
​​ 篠原勝之「骨風」(文藝春秋社) です。​
​​  写真家の文章 というのなら
「ゲージツ家の小説 」​
​​  で行けるじゃないか。まあ、前回、ピアニストの小説だったわけで、ちょっとパターンは似てますが、これは、これで、どうしてもお読みいただきたい作品です。​​
​​  篠原勝之 という人は 「クマさん」 という愛称の方が有名な「鉄の彫刻家」ですが、 唐十郎 の赤テントの初期のポスターの描き手だとか、 赤瀬川原平 南伸坊 のお仲間という方が通りがいいかもしれませんね。 ​​上に貼ったのは、 ​​内モンゴルの草原の 「天外天風」 という 篠原勝之さん の鉄の彫刻の写真ですが、現在は南アルプスの山ろくで 「ゲージツ」 なさっているようです。​​​
​​​​​​ その 「ゲージツ家」 篠原勝之さん が書いた小説集が 「骨風」 です。 「骨風」 から 「影踏み」 まで八つの短編の連作です。 「私小説」 というべきでしょうか。18歳で故郷と家族を棄てた ゲージツ家 の生きざま、父、母、弟、例えば 「矩形と玉」 という作品は、極貧で、まだ何者でもなかった、自称 「ゲージツ家」 が、友達の 南伸坊さん から生まれたばかりの仔猫を譲りうけ、23年間一緒に暮らし、最後を看取った 愛猫GARA の話ですが、ほかの作品も、それぞれ ゲージツ家 の日常と家族の物語の連作です。​​​​​​
​​  家を出てから三十数年会うこともなかった母親と今さら頻繁に顔を合わせるのもきまり悪いやら照れ臭いやらで、近くに住むようになってからも部屋を訪ねるのはせいぜいふた月に一度ぐらいだった。その代わりに、いつでも話せるように年寄り向けの携帯電話を飼って渡すことにした。
 早速、母親に使い方を教えて身内の電話番号を登録し、試しに目の前でオレの携帯から電話してみる。
 母親は両手を膝に置いてかしこまったまま、机の上でブルブル震えるデカいカブトムシでも見るように凝視している。
「ホラ、電話にでなきゃ」
オレが促すと
「ハイ、もしもし?」
なんと両手を膝に置いたまま、顏を電話に近づけて喋りだしたのだ。
(「今日ははればれ」)
​  「今日は はればれ」 という短編の中の、笑えるエピソードなのですが、この作品を二度目に読むぼくには涙がこみあげてくるシーンなのです。​
​  ​「ゲージツ家」​ 「普通の人間」 を描く眼差しというのでしょうか。 「楢山節考」 の作家 深沢七郎 に私淑したらしい、 「ゲージツ家」篠原勝之 の、この母を見る眼は、 深沢七郎 「おりん婆さん」 を描いた眼差しに、とてもよく似ていると思うのです。​
 2015年の作品です。ほとんどが実生活の描写なのですが、決して、ウェットな作品ではありません。どちらかというと、乾いた、ハードボイルドな文体だと思います。
 初めて読んで感心してから5年たったわけですが、この作品の 「おもしろさ」 を超える小説には、残念ながら、それから出会いませんね。今日は 「手放しの絶賛」 ということで、 YAMAMOTOさん にバトンを渡しますね。 (2020・12・20・T・SIMAKUMA)

​​​​​​​ 追記2024・03・25
 ​100days100bookcoversChallenge の投稿記事を ​​​100days 100bookcovers Challenge備忘録 ​ (1日目~10日目) ​​  (11日目~20日目)  ​​​ (21日目~30日目)  ​​​ (31日目~40日目) (41日目~50日目)  ​ ​(51日目~60日目)) ​​  (61日目~70日目) (71日目~80日目) ​という形でまとめ始めました。日付にリンク先を貼りましたのでクリックしていただくと​備忘録が開きます。​​​​​​​​​

​  追記
 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で 楽天ID をお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)​​


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最終更新日  2024.04.01 13:00:59
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