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あとがきで、童話屋による復刻版に付けられた「付記」がこうです。
二冊目の詩集「表札など」を出したのが一九六九年にがつだったので、ちょうど十年を過ぎたことになります。
その間に、少女のころ採用された職場を定年退職しております。長いとも短いともいえない不思議な歳月をかえりみるとき、ただ自分が生きるのに精一杯で、他者のしあわせに加担することなく、そればかりかりか反対の方に加担してきたのではないかと、あまりに遅く気付かされています。何に向かってか、ゆるしを乞わずにはいられません。
「表札など」ん装幀を引き受けて下さった吉岡さんは、ふだん往き来もない私の願いをこの度も聞き入れて下さいました。大久保さんに詩集を出してもらう約束をした日から八年は経っております。
私は夢中でした。夢中で働いてきたのか、夢中で怠けてきたのかわかりません。詩はその余のこと。その余のことがわずかに私を証明してくれているようでもあります。
この、手に乗るほどの証明書を差し出すことで、ご覧下さる方のこころの門を通していただけるでしょうか。
一九七九年四月 石垣りん
付記 初版 から20年後、詩人自身が心配している 「賞味期限」 ですが、この 復刻版 から25年後の今、詩人が2004年に世を去って20年後の今、 「賞味期限」 はどうでしょうね。
「略歴」は一九七九年花神社から発行されました。
今回、付記ひとつにも行き詰っている私に、童話屋の田中和雄さんは電話の向こうから
「割り箸のような一行を書くといいです。」
復刻には「新しい箸を添えて」ということになるのでしょうか。
賞味期限が気がかりです。
二〇〇一年四月 石垣りん
詩人の眼が見すえてきたもの それがなんだったのかを、今だからこそ、鮮やかに浮かび上がってくる、今だからこそ 「賞味」 するべき詩だと感じる作品を一つ紹介しますね。
儀式 石垣りん
母親は
白い割烹着の紐をうしろで結び
板敷の台所におりて
流しの前に娘を連れてゆくがいい。
洗い桶に
木の香のする新しいまないたを渡し
鰹でも
鯛でも
鰈でも
よい。
丸ごと一匹の姿をのせ
よく研いだ包丁をしっかり握りしめて
力を手もとに集め
頭をブスリと落とすことから
教えなければならない。
その骨の手応えを
血のぬめりを
成長した女に伝えるのが母の役目だ。
パッケージされた肉の片々を材料と呼び
料理は愛情です、
などとやさしく諭すまえに。
長い間
私たちがどうやって生きてきたか。
どうやってこれから生きてゆくか。
「こうせんと、売れへんねん。」と綺麗にさばいて、おつくりにして、パックしたお魚を店先に並べてさみしそうに笑っていらっしゃるのを、丸ごと持ち帰っても三枚におろせるわけではないのですが、さみしく思う老人には身に染みる 詩 ですね。
追記
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