リモートワークで日本を旅するドイツの青年 | オンリーワン理念は、思いや志を文字にて表現してまとめたものです。言葉のチカラです。

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2025/11/13

磐梯熱海の霊泉元湯は、郡山市内で最も古い歴史を持つ源泉である。開湯は八百年、室町の昔から庶民に親しまれてきた。今も昔も湯けむりは絶えず立ちのぼり、人を癒やし続けている。郡山に数ある温泉の中でも、三本の温度の違う源泉が一つの湯殿に注がれるのは、この元湯だけである。浴室に足を踏み入れると、二つの浴槽が目に入る。一つはぬるめの湯、もう一つは熱めの湯。湯客はそれぞれを行き来しながら、身体をじっくりと温めていくのだ。

まずは熱めの湯に、足を入れる瞬間、最初は思わず息を呑むが、浸かってしまえば芯からじわじわと熱がしみわたり、血が巡るのを実感する。次はぬるめの湯へ移動して肩まで浸かり、ゆったりと身体をほぐす。長く入っていられる柔らかな湯は、時間を忘れさせるようだ。次はまた熱い湯へ。ぬる湯と熱湯を交互に繰り返すうちに、全身がまるで再生したかのように軽くなる。こうした贅沢な湯浴みができるのは、この霊泉♨️元湯ならではです。

そんなある日、見慣れぬ青年がひとり湯に浸かっていた。1人で旅ができるのだからコミュニケーションは問題ないだろうと踏んで、どこから来たのかを日本語で語りかけたらドイツからの32才の旅人であった。仲間四人で来日したものの、三人はすでに帰国し、ひとり旅を続けているという。東京を起点に青森、岩手、仙台、新潟、猪苗代、日光と巡り、この日の郡山に至ったそうだ。平日はノートパソコンひとつでリモートワークをこなし、週末ごとに土地を移動する生活だという。どこでも働けるリモートワークには国境の壁はないわけです。

「日本はどうですか」と尋ねると、滞在は二か月ほどになるが、帰国したくなくなったと笑った。温泉の楽しみを知ってしまえば、無理もないかも。湯上がりには駅前の居酒屋で一杯やるのだと、屈託なく話す姿はどこか溶け込んで見えた。私が日本語で語りかけていた様子を見ていた人々が、その後も彼に声をかけていた。片言のやり取りであっても、笑顔があれば十分に通じる。湯の場は自然と人と人を近づけ、国際親善のきっかけを生む。湯けむりの中で交わされる会話は、言葉の壁を軽々と超えてしまうのだ。

三本の源泉♨️が注がれる湯船に身を沈めると、時間の感覚がふっと遠のく。八百年の昔から、人々はここで汗を流し、心身を整えてきた。その湯にいま、遠くドイツから来た青年が肩まで浸かり、地元の人々と笑顔を交わしている。時代は変わり、働き方も変わった。しかし、湯が人を癒やし、結びつける力は、昔も今も変わらない。ぬる湯に身を沈めてまどろみ、熱湯に移って身を引き締める。その往復にこそ、温泉の妙味がある。湯殿を出れば、心身ともに軽くなり、何か新しい力を得たような気がする。霊泉元湯は、旅人にとっても地元の人にとっても、同じように「再生の場」なのだ。

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