有毒飛沫

有毒飛沫

March 11, 2005
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これは漫画ですが、ふだん漫画を読まないような人にも紹介したいと思います。

あまり描かれることのない、もしくは描かれても読まれることのない私小説漫画です。すべてが作者の実際の経験に基づいて描かれています。

お話の内容は、メジャー誌にも連載を持っていて、家庭もある漫画家が失踪して、ホームレスとして暮らす日々を綴ったものです。その後、家庭に戻ったと思ったらアル中になっているし(^_^;)、なかなかに波乱万丈の日々を淡々と描いています。

ここまで読まれた方は、悲惨そうな話のように思われるかもしれませんが、確かにリアルな事実なのに、不快な感じのない不思議な語りです。逆に冒険記のように感じられ、ホームレスの世界にほのかな憧れさえ抱いてしまうほどです。そういう意味では、とても危険な一冊かもしれません。

ホームレス生活のディティールが克明に描かれ、Be-Palなどに載っている野外生活体験記のような感覚で読めるのです。薄く剥くと辛口、厚く剥くと甘口の野生の(~_~;)大根の話、豚肉のアブラ身、テンプラ油などが確たる実感を持って、こちらの食欲をそそります。

実際はかなり悲惨だったのではないかと思えるエピソードや不快な人物が出てくるのですが、吾妻氏の手にかかると、どことなくファンタジーめいた雰囲気さえあります。柳井さんなど、実際に一緒に仕事をしたら、すぐにやめたくなりそうなのですが、漫画の一人物としてみるとけっこう魅力的に見えてしまうのです。

このように現実に即していながら、その世界をファンタジー化してしまうのには、吾妻さんが強力な濾過フィルターを持っていて、人が見て本当に不快になるような要素を濾過して、それぞれの事実の持っている興味を惹く部分だけを抽出うして提供することができるからでしょう。

ものを創造する人間は、皆このフィルターを持っていて、その性質によって同じものを見ても、出力されるものが違ってきます。そういう意味では、この吾妻氏の持つフィルターは物事を否定的に見ることのない、とても暖かな視線で編まれているようです。

過去のことをこのようにリアルに、克明に描くことは実際はとても難しいものです。ブログで日記を書いている人ならわかると思いますが、普通はその日に起きたことでも、けっこうすぐに忘れてしまうものです。昨日の日記を書こうとすると、たった24時間前の出来事を、なかなか思い出せません。



どんなに創作から離れても、この視線を持っている限りその人はものを作る側の人間です。自分の感覚におぼれているだけでは、ものを作ることは出来ません。ものを作るというのは、受け手があって初めて成立する行為です。受け手のない創作は、一人の部屋で呟いている独り言と同じです。この本を読むことで、それを再認識することが出来ました。

私もがんばらないと。

まあ、理屈はともかく、純粋に面白い本です。立ち読みでもいいですから、一度読んでみてください(吾妻先生、すいません。でも、読めば面白さがわかりますから)。出来れば買って本棚の隅に置いておくと、落ち込んだときのいいガス抜きになると思います。


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Last updated  April 10, 2005 09:19:05 AM
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