野の花・野の豚の自己研究に根ざす、社会的な共生の道を探求する発言・2015年7月1日から

野の花・野の豚の自己研究に根ざす、社会的な共生の道を探求する発言・2015年7月1日から

渡鹿の原野の幻


(註―熊本刑務所は熊本市渡鹿というところにあった)


年ごとに厳しくなってゆく規律に
すこし悲しく暗い気持ちになっていた
梅雨の終末期の蒸し暑い夜に
奇妙に美しい夢を見た

夜遅く激しい雨の音が獄庭を打っていた
私はなぜかのどの渇きを覚えて起き上がり
流しの蛇口からコップに水をそっと汲み
ほんの一口それを飲んでのどを潤した

そのとき急に独居の南側に広い庭が
ほの青じろくおぼろな光を放ち始めた
そしてかすかな輪郭だけ残して
瞬く間に獄舎は消えていた

私は雨に打たれて大地に立っていた
目の前には広大な原野が広がっていた
その原野を無数の鹿が渡っていた
その小鹿、雌鹿、牡鹿の全てから
青白い清冽な光が放射されていた

軽々と優雅にしなやかに走ってゆくそれらを
私は激しい雨の中で立ち尽くし
恍惚となってみていた
そんな夢だった


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: