『黒冷水』



この物語は男二人兄弟の異常なまでの確執を描いている。
兄正気(ショウキと同じなのでわかりずらい。。作者の狙いも入っていると思うが)は高校2年生。
テニス部に所属するも、あまりまじめに部活動は行っていない。
弟の修作は中学2年生。
サッカーは上手であるが、これといったとりえが無い。

ぼくはこの物語の主人公と同じく二人兄弟で下に弟がいる。
この男兄弟における確執と言うものは、かなり陰湿だ。
よく、男同士、拳を交えれば本当に仲良くなれるというが、兄弟には当てはまらない。
そもそも親に止められるので、相手が倒れるまで殴ることなど無い。

他人に親切であっても相手が兄あるいは弟であるとそうはいかない。
両親の愛を独り占めしたいという欲求もあるし、自己防衛本能が兄弟が相手だと人一倍働く。
兄あるいは弟を認めると、自分が消滅する。。
それが相手への抑圧となって現れるのが兄であり、恐怖となって現れるのが弟だ。
そこには客観的とか常識とかは全く通用しない。
きわめて利己的な世界が衝突する。

この物語が弟の狂気を前面に打ち出すことによって兄の狂気をもさらけ出そうとしているのは明らかだ。
明らか過ぎて少々辟易とする。
それでも、作者の羽田の繊細かつ鋭い心理描写には目を見張らされる。
とても高校生が書いたとは思えないほどの緻密な文章だ。

弟が薬中になってしまうというのはリアリティが薄いし、それをわかって最後に入れ子構造的どんでん返しを添付して、作者自身、一種言い訳じみたことを言ってはいる。
でも、それを言うくらいなら、それなしで勝負したほうがずっと良かったと思う。
とにかく描写が繊細なんだから、ストーリーの方をもっとキチンと練っていけば、きっと、もっとすばらしい小説が書けるのではないかと思う。


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