『鍋の中』



主人公は17才の女の子で、中学生の弟と、おないとしの女のいとことその兄と4人でおばあさんのところへ遊びにきている。
彼らの両親はハワイで危篤となった親戚を見舞いにハワイへと出かけている。
この物語はおばあさんのあいまいな、それでいてはっきりと記述される記憶に翻弄される子ども達が描かれている。
おばあさんは13人兄弟で、中でも、精神に障害を持ち、一生牢の中ですごさねばならなかった弟の話をする。
子ども達は自分達の親戚にそのような人がいたことに軽いショックを受ける。
主人公はおばあさんと一緒にお風呂に入ったときに、自分の本当の母親は、今の母親の姉か妹であることをおばあさんに告げられる。
それまで姿だけでなく性格も、手先の器用さも母親似だと思っていた主人公は、いっきに自分のルーツがなくなったような気がして、沈み込む。

ところが最後の最後で、おばあさんは自分の言ってきたことをことごとく否定する。
いや、本気でそう信じ込んでいるのだ。
記憶がごちゃまぜとなっている。
まさに『鍋の中』状態だ。
それをいくら非難してもしょうがない。

それよりも、人間とはかくも自分のルーツがだいじなのかと思い知らされる。
自分とはいったいどういう人間なのか。
血は争えないものなのか。
いや、血に頼るしか自分の位置を見出すことができないのであろうか。。
血は水よりも濃いという。
確かに性格的にも身体的にも遺伝はおおきく作用していると思う。
それでもそれは『鍋の中』の具の一つでしかない。
実際の味付けは自分自身でするのしかないだろうに。


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