sweet better~エレメンツ

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黒真珠の話



姉さんがよくかわいらしい小さな粒の真珠をつけていたのを
思い出す。

僕のすぐ上の姉さんで。2才しか違わないから、同い年のようでも
あり、でもすぐ側の年上の女の人とでもいう感じで
いつも記憶に優しくとどまっている。

「黒真珠が一番価値のあるものよ」

言葉がよぎるたびにあの女の影も姿をあらわす。
「そして一番美しいのよ。…わかるかしらね」

多分分からなくてもいいのだろう。所詮他人行儀なお・と・う・と
、子供には、理解しようがしまいがあやし言葉のようなものなのだ。

……僕たちには幾人かの兄弟がいて、僕にとって一番身近な人は
上の姉さんだけ。他は年が離れていたり、あまりなじみがなく、
家も離れていたから…実質上は彼女ーアメリアだけが僕の姉さんだった。

ヒルデガルドは、僕たちの父さんが外国の女性ーそれも伯爵家のー
に生ませた異母兄弟で、合ったのも

すでにヒルデガルドが20才を超えた後だった。

黒髪で美しくー男の僕には簡単な形容しかできないけれどー
上品であった彼女はすぐ話題になった。

でも僕は好きになれなかった。
彼女の後ろに暗雲を感じていた。

それを象徴するかのように、彼女はいつも黒真珠を愛用していた。

その言葉を思い出すだけでも、きりきりと胸が痛み出すのだ。

僕は大切な人を今すでに失っている。

はかなげな白い真珠が手元に残るだけだ。



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