sweet better~エレメンツ

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14才 銀色のキス



見つけたというよりあたしがいつもひっきり
なしに見に来るだけだ。でも彼は気づかないんだ。
ずっと本を読んでるから、気がつかないんだろう。

あたしにも、周りのくだらないことなんかも。

「ミサキの趣味って、変わってるよ」
って友達にはいわれた。
確かにみんながきゃあきゃあ騒ぐのはサッカー部の連中だったり、
あたしにすれば単にうるさいだけのやつにきゃあきゃあいってる。

でも違うんだ。カズヒコくんは。
友達もいるけど、ちょっと違う雰囲気をしてた。
なんか、どっか、違うっていうか。

隣りのクラスだけど、ずっと気になってた。

彼が、何の本を読んでる、とか全然あたしは気にならなかった。
ただただ彼の横顔みてた。

きれーだなぁ…とか。

同じ中2なのになんか、なんで違うんだろうとか。

あたしは恋をしてた。

しばらくはそうやって彼を見続けた。けど、それじゃあ進展が
ないんだあって気がついた。

だから、あの雨の日彼に近づいたんだ。

「あたし、蓮見美咲っていうんだけど」

だしぬけに自己紹介ってやつ?してみた。

彼はじっとあたしを見たままだった。

「2-Bで、隣りなの。安西和彦くんでしょ。いっつも本ここで
読んでるでしょ。あたし、いっつも見てたんだけど」

「……見てた?」

抑揚のない返答で、そこから彼の感情はよくあたしは読み取れなかった。
そんな余裕もなかったのかな。自分の気持ちだけ。

「そう。なんていうか…安西くんが気に入ったんだ、ずばり。
ねぇ、あたしと付き合わない?」

恋愛にまどろっこしいのなんて嫌いだ。
気持ちを伝えなきゃ、はじまらない。そこから、ほんとの恋ははじまると、
あたしは思ってる。
それに、自信もあった。

だって、あたしはけっこうモテたし、男の子の大半は、てきとうに
うんと頷くものだ(今まであたしはそうだったから)

だから、カズヒコくんを好きだったけど、落としてみせる、
って自負みたいのもあった。

カズヒコくんは、「………」

かなりの間、黙ってたけど(ひょっとしてなんて唐突な女、とか
思われた?)

長い沈黙が不安に変わりそうなとき(沈黙は、一番、居心地が悪いから)

「いいよ」

彼のきれいな口から、その言葉がこぼれた。

不安は、歓喜に変わった。「ほんと!!?」

「ほんとに、私とつきあってくれる?ね、ね?」

嬉しさと勝利に顔はとっておきの女の子スマイルが溢れた。

「うん。」

彼が返事をして、あたしも頷く「うん!?」

その瞬間、ほんとに一瞬の出来事で、

彼があたしにキスをしたーほっぺとか額じゃあなくて、

くちびる、に。

びっくりしてすべてスローに画面がこぼれおちた。

そのまま彼は何事もなかったかのように、本を閉じて、部屋を出てった。

あたしは、

あたしは、その場に座り込んでしまった。

ファースト・キスと呼ぶには、あまりにもあっさりと、なにかの
アクシデント、みたいだった。

涙がにじんで来た。

理由は、今わかるわけがない。

雨が、私の泣き声をかき消してくれた




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