嫁様は魔女

嫁様は魔女

硝子窓(面接)



店員がオーナーに怒られてるんなんか、ありふれた日常の風景や。

ろくに見ることもなかったその風景の中の人の人生を
ウチがオーナーとしゃべってたことで変えてしもた。

なんてオオゲサな話やないかも知れんけど、
もしウチが店に顔出さんかったら、こんなトラブルは起きてなかったやろ。

なんか悪いって言うか後ろめたい感じやと、目の前の須賀ちゃんに言うてみた。

「ああ言う人はどの道辞めて行きます。」

・・・どこまでもシビアなんやね、須賀ちゃんは。

「お昼過ぎてますよね。何か召し上がりますか?」

どうしよう?
ここで食べるつもりで来たけど、オーナーいてないし・・・ええんかなぁ。

「もし食事されるんでしたら、その間に僕は用件を少し片付けてきます。」

「そう?じゃあ・・・・でも今日はちゃんと払わせてな。」

「はい。後で打ち合わせましょう。」

そう言って須賀ちゃんはウチのオーダーを取り、厨房の奥のオフィスルームに入って行った。

あそこに呼ばれへん、って事は社員扱いじゃなくってお客さんやんなぁ。

まだ正式採用されてないから呼ばれへんのか、
須賀ちゃん的には採用する気がないから呼ばへんのかな、って考えた。

「あー・・・・おっもぉー。」

そろそろ飽きたらしい奏が抱かれたくないそぶりを見せた。
ソファに降ろしてやると、ころんと寝返って
危うく下に落ちそうになり慌てて抱き止める。

「めんめっ!ころんしたら危ないよっ。」

それでも転がろうとするから、うつぶせにしてソファに転がしてやると
首を上げて、じっとあたりを見回したりしてる。

半口を開けて見てるせいで、たらーっとよだれが出てきた。

「あーあ、ばっちばっちぃやなぁ。」

首に巻いてるバンダナでよだれを拭き、ついでにトイレに連れて行ってオムツを交換した。

さっぱりしたやろ。

席に戻るともうベーグルサンドが置いてあった。

左腕で奏を抱き、ベーグルのセットになっているサラダを食べはじめると
明らかにさっきと違うよだれが奏の口からあふれた。

目がらんらんとしてる。

「マンマわかるん?でも奏ちゃんはまだやでぇ。」

早めに離乳食を始めたらアレルギーがでやすいって聞いたから
まだ奏には果汁も飲ませてなかった。

でもそろそろ考えてもええかも知れん。

ベーグル見てよだれタラタラの赤ちゃんって食い意地はってるよなぁ。

バンダナ、ベトベトになってしまうわ。

「よだれかけの換えは持ってこられてますか?」

しきりによだれを拭いてるウチが気になったのか、
席に戻ってきた須賀ちゃんはまずそう聞いてきた。

「うん。最近よだれ多いから結構持ち歩いてる。ありがとう。」

「そうですか、歯が出てきてるんじゃないですか?下の歯茎、白くなってません?」

「あ。ちょっと盛り上がってるかも。
・・・・須賀ちゃん、詳しいなぁー。」

「僕、子持ちですから。」

「え!うっそぉ!!」

ウチがバイトしてたときって自分まだ大学生やったやん。

そのとき四回生としても・・・・まだ大学出て2年ちゃうん?

って言うより彼女おったってほうがビックリや!

「今ね、2歳なんです。」

そう言ってケータイの待ち受け画面でふくれっつらをしてる
かわいい女の子の写真を見せてくれた。

「デキ婚でしかも学生結婚。」

そう言って少し照れたような笑いをうかべた須賀ちゃん。

はぁー・・・・人は見かけによらないって言うけど
これはまた意外やわぁー・・・。

「意外ですか?やっぱり。」

顔に出てたかな?

「うん。だって須賀ちゃん真面目そうやし彼女おる感じもなかったから。」

「同級生なんです。
だから今は経済的に厳しくて、共稼ぎしてます。」

そっか、二人とも大学出てすぐ、やもんなぁ。

「莉々子、子供は保育園に預けています。
だからこそ失礼を承知で言うんですが、今回の話は厳しいと思います。」

【二人体制で清水さんの通常シフトは10時から17時。
週休2日。
ただし須賀の休日に限っては最終の19時まで営業と後片付けをする。】

昨日オーナーが提示してくれた条件を箇条書きした紙を出してくれた。

「これだとまず最初の条件として保育園なりに奏人くんを預けていただくようになりますが
この時期から入所を申し込んでも今年の入園はおそらく無理です。」

保育園の待機児童の問題や親の就労条件のハードルの高さは
須賀ちゃん自身が子供を預けているだけに詳しい。

「それと週休2日ですが、ショールーム自体は月に一日しか休業しません。
僕の休みはそれプラス1日でいいと思っていますが、
それでも月に4回は清水さんに最終まで入っていただかないといけません。
しかもその日は一人です。」

「須賀ちゃんが休みの日は絶対休まれへんってことやんね。」

「子供の体調が急に変わるのは僕も経験者あるので、できるだけ対応はしますが。
それより、保育園の保育時間は19時までです。
19時まで営業して後片付けをしていたら、お迎えに間に合いません。
ご主人はそんな時間に帰って来られるんでしょうか?」

「ううん、時期によったら毎晩9時回るし。」

「じゃあ清水さんが最終までいる日のフォローは確実じゃないですよね。
それと日曜は休みではありません。」

「あの、それでね実は私、このお話お断りさせてもらうつもりで。」

「すみません。僕、厳しい事ばっかり言ってて。気を悪くされましたか?」

「そうやなくて、もともと断らせてもらおうと思ってきたんです。」

須賀ちゃんの眉間の縦じわが消えた。
明らかにほっとしてる。

「あの全然・・・清水さんでは困るって事じゃなくてですね。
むしろ仕事面では僕も色々教えていただいた位だし全く問題ないと思ってます。」

「そう言うてもらってうれしいです。
でも主人の仕事考えたら、日曜とか祝日どうしようもないし。
それに須賀ちゃんが休みの日は最終までって、それ、考えてなかった。
どっちにしても今の私の状況では迷惑かけると思うから。」

「本当に?・・・・僕がキツイ事言って気分悪くされたんじゃないですよね。」

「全然そんなことは。ほんまに今日はオーナーに断ろうと・・・。
それにしてもオーナー、遅いですよね。
そのバイトさんの家って遠いんですか?」

「いえ。近いですよ。」と須賀ちゃんはショールーム店のできる駅の名前を口にした。

家から近いやん。
イヤな感じ。

まぁ、辞めたんやったら関わりになる事はないやろうけど。

「じゃあもうすぐ戻ってくるかなぁ、トラブってるんかな?」

「そうですねぇ。あ、オーナー戻るまで相談乗ってもらっていいですか?
その店の件なんですけど、清水さんからアドバイスもらえたら助かりますので。」

「またまた。私の意見なんか。」

「いいえ、女性の目線は侮れませんからね。」

須賀ちゃんは店の図面や、メニューの下書きなんかを持ってきてくれていた。
さっき、要件済ませますって言うたんはコレの用意やったんや。

ウチがオーナー待ってる間に退屈せんようにしてくれてるんやろう。

うーん、侮れないのは須賀ちゃんの方やな。

須賀ちゃんとしては一人で店を回そうとしてるみたいやった。

オーナーも言うてたけどアンテナショップって位置付けやから採算は度外視や。

利益の出るフードも出せへんし、
店の規模から考えたら、飲み物も限られた種類しか提供でけへん。

「だからと言って赤字でいいって話じゃないですよね?」

確かに。

「利益のほうが期待できないとなると、削れるところから削らないと。
あ、だから清水さんにやめたほうがいいって言ったんじゃないですよ。
保育園は父母会の集まりや行事もあって、結構な時間を取られます。
奏人くんの年齢ではお母さんが本当に大変なんです。」

実際見てきて経験してるだけに、ちゃんと心配してくれてるのがわかった。

仕事と保育園の行事、育児と家事。
それを全部こなしている須賀ちゃんの奥さんの話を聞くと
心からすごい、と思うと同時にウチには無理やと改めて思った。

「もちろん、僕もできるだけやってますよ。
朝の送りは毎日だし、休みは必ず平日にして
彼女が仕事だけで済む日を作るようにしてますから。」

「奥さんは土日休み?」

「土曜は隔週ですけど、まぁ普通の会社のパートですから。」

「そっかぁ、じゃあ夕方は早いの?」

「16時までです。」

「はぁー、仕事が毎日それくらいの時間だったらウチも入れたかなぁ。」

「その代わり朝が早いですよ。7時には出て行きますから。」

「ええ!それも厳しいね。そうそう都合のいい条件はないってことかぁ。」

「子供がいて共働きだとお互いの仕事のタイミングが難しいですね。
僕なんかはまず子供がいてって状態だったからここに就職しましたけど。」

「なるほどねぇー・・・あ。」

「オーナー。お帰りなさい。」

疲労困憊した顔でオーナーは帰ってきた。

「ごめんね、これ。奏人クンにお土産。
須賀ちゃん、アイスコーヒー持って来て。」

「ありがとうございます。これ・・・・なんですか?」

それは否応なく、小学校の社会の教科書を思い出さるシルエットやった。

「はにわ?」

「土偶よ、知らないの?ドグー神。・・・あぁ、まだテレビなんか見ないか。」

オーナーはちょっと残念と言うような顔をしながら
『超合金ドグー究極合神』と書かれたパッケージを開けて奏人に妙な彩色をほどこした土偶を持たせてくれた。

土偶なのに合金って・・・・なんやろう、この矛盾した感じは。

「あら。」

ぽい、と奏人は握った手をすぐに離してしまう。

「スリッパーズの方がよかったかしら?」

「スリッパーズ・・・?」

「タイムスリッパーズって言うヒーロー物ですよ。
ドグー神は古代日本人の精霊が乗り移った神です。」

3人分のアイスコーヒーを持って戻った須賀ちゃんが解説してくれた。

「ふぅん、じゃあいい神様なんや?」

「いいえ。敵のボスキャラです。
現生人類が環境を破壊し地球が滅亡して行くのを嘆いた古代の神が
時空を移動して、現人類の発展になる出来事を妨害し歴史を変えようと。
それをスリッパでタイムスリップして歴史を守るのが正義の味方です。」

「はぁ、スリッパ・・・。
でもそれって敵の方も悪いとは言えんよねぇ。」

「そうです。ドグー神は戦いたくはないんです。
その悲しさと人類の愚かさがドラマの原点なんですね。」

「・・・それって子供の番組やんなぁ?」

「莉々子も見ています。
保育園ではスリッパで滑ってタイムスリップする遊びが危険だと
禁止されました。」

「って言うか。そんな難しい話わかるん?子供に。」

「さぁ。ほとんどわかってないでしょうけど・・・近年にない名作です。」

どうやらこのオタクっぽい須賀ちゃんは本当にオタクだったらしい。
オーナー相手にドグー神の悲哀をとうとうと語りはじめてしまった。

おまけにこれを買って来る位に、オーナーもスリッパーズ・・・
と言うより出ている男の子がお気に入りみたいで
すっかり須賀ちゃんの話に乗っかってしまった。

・・あかん。

ついていかれへん。
このままでは面白くないヤツと思われてしまう。

あ、そうや。

「最近のヒーロー物って黄色はカレー好きな小デブじゃないんですよね。」
ついこの前ネットで仕入れた知識やった。

「スリッパーズで黄色に相当するのは金色で『鬱金』です。
しかし実はウコンと言うのはカレーのスパイスに使われるんですよ。
こんなところで歴代の作品への密かなリスペクトを・・・。」

しもた・・・・。
須賀ちゃんのオタクっぷりは想像をはるかに超えていた。

このまま脱線してたらいつまでも戻ってけーへんわ。

「ところで、どうだったんですか?問題のバイトさんは。」

ドグードラゴンの是非について熱くなりはじめた須賀ちゃんの話をさえぎるのは
ちょっとした勇気がいった・・・・。

「え、あぁ、聞いてくれるっ?
もう最悪よ。親が親ならガキもガキね。」

「家まで行かれたんですか?」

「来いって言うからね。ひどかったわよー。
あの子、暴れたらしくって家の中めちゃくちゃ。
それをわざわざ片付けずに、人を家に呼んで見せつけようって根性もあざといわ。」

「自分で辞めるって言いはったんでしょ?」

「その程度の人間と言う事です。」

ドグードラゴンにあれほど熱く思いを語ってたのに
使えない人間はバッサリ切り捨てる須賀ちゃん・・・。

「まぁ、辞めてくれるのは一向に構わないんだけどね。
でも辞めるなら、最低でも2週間前に連絡するのが社会人として最低限の常識だって言ってやったのよ。
そもそも採用は見合わせるって言ったのに、どうしても使ってくれって言ったのはあっちなのに。
親がのこのこ仕事先にクレームつけに来る前に、息子に社会常識しつけ直せって言ってやったわ。」

「親御さんも手を焼いてるって感じなんでしょうか?」

「ううん、親もどうしようもないの。
経営者のクセに社会貢献を考えていないとか。
仕事に困っている若者の支援をしていく姿勢がないのは利益優先の
人でなしの店だって言うのよ。」

「なんですか、それ?」

思わず呆然としてしまう。

「おかしいでしょう?
日本語なのに意味がわからないの、お互い。不思議だわぁ。」

そう言ってオーナーはこらえ切れなくなったように笑い出した。

「おまけにバイトで入って最初のウチは試用期間なんだから
合わないと思ったら辞める権利があるんですってぇー。」

「よくもまぁそんな手前勝手な事が言えますね。
親から教育しなおさなきゃ、どうしようもないですよ。
でもつまらない人間と縁が切れて結果オーライでしょう。」

「そうねぇ、あの親の言う事聞いてたらショールーム店、
須賀ちゃんとあの子で運営よぉ。
チャンスと経験を与えて、前途ある人間の才能を引き出して
伸ばしていくのが正しい経営らしいから。」

「正論ですが身内の評価に根本的な間違いがありますね。」

「とにかく押し付けられたババは勝手に去って行ったってことで。
で?どうだった、旦那さんは。」

来たっ!
言いにくいなぁ。

須賀ちゃんのほうをチラ見してみた・・・けど、まったく助け舟は期待できそうもない。

「すみません。
色々考えて相談したんですけど、やっぱり主人の仕事の調整が難しいので
受けるからには無責任な事はしたくないですし・・・。」

「あー、やっぱりそうかぁ。しょうがないね。」

ひきとめられるかと思ってたのに、オーナーは予想外にあっけらかんと納得してくれた。

「須賀ちゃんからも難しいって言われたのよ、昨日。
プロの仕事ができるってだけでは、対処できない制約がありますって。」

話しててくれたんや。
それがウチが気にいらんで言うた、とかじゃないんはよくわかってた。

ありがとうって感じで須賀ちゃんの方を見てみると
何事もないような顔をしてきちんと座ってる。

居住まいがいいってこう言う人やなぁ、となんとなく思った。

「奏人クンがいるのに無理言っちゃってごめんね。
私が清水さんと仕事したかったのよ、わがままだわね。」

「とんでもない!声かけてもろてすごい嬉しかったです。
ずっと誰にも必要にされてないような気になってて・・・、
そんなときに言うてもらえて、ウチ、めっちゃ嬉しかったんです。」

あ。
変な愚痴みたいな事言うてもうた。

「相変わらず不健全ねぇ、清水さん。もっとしたたかに行かなきゃダメよ。
遠慮か謙虚か知らないけど、どっさりハラに溜め込んで。

どうしようもなくなったときに相手に言ったって、相手の方は済んだ事で忘れてんのよ。
自分のしたい事はその場で言いなさい。
わがままで死んだりしないわよ。」

「きついなぁ、オーナー・・・・当たってるだけに。」

「私なんか相手の都合も聞かないで言いたい事言って衝突してるけどね。」

「それより、オーナー。今回の清水さんの話はナシと言う事で。」

「うん、いいかな、清水さん。」

「いいえ、こちらこそすみません。」

「それで一点問題が。」

さっきウチと見ていた資料をオーナーに渡しながら須賀ちゃんは話を続けた。

「清水さんにもアドバイスを頂いていたんですが、このラインナップなら
人員は一人でも対応できます。

サービスはこちらでなく、セルフ方式にして接客をするディーラーに対応してもらおうと。
代わりに食品は置かないところを管理しやすい焼き菓子を置いて、
女性と子供連れのお客様に対応しますと条件変更で。

経費面で使い捨て容器は使用しない方向でしたが、
人件費とで考えると一人で回すなら、むしろ使い捨てですね。」

「チープに見えない?」

「デザインでカバーできる範疇です。
それにこれは清水さんの意見ですが、テイクアウトされるお客様もいるんじゃないかと。」

「店でコーヒー飲んで、また買って帰るかなぁ。」

「カフェイン中毒はドライバーの中にはかなりいるはずです。
帰りに運転しながら飲みたいと言う需要は少なからず発生するでしょう。」

「それなら容器は統一の方が都合がいいか。
それで?須賀ちゃん一人でやるって事なのかな?」

「そこが問題です。基本的には僕が一人でやりますけど
ショールームの休日以外に月四回、僕の休日に入る人が必要になります。
ここの本店からヘルプを回して頂く見込みでしたが
バイトの彼が辞めてしまった今の状況では、その考えは・・・。」

「そうね。すぐ戦力になる子が入ってくればいいけど。」

「広告はもう打ったんですか?」

「代理店電話したけど、ちょっと待ったほうがいいって言われたわ。
先々週掲載して、先週は決まったからもういいって言ったでしょ?
それをまた今週掲載すると、店に問題があって人が定着してないと思われるって。」

「そんなものですか?」

「まぁその道のプロが言うんだし。
確かに地元に入る広告だから見る人が見たらまた、とは思うわよね。」

「再来月のオープンまでにココで普通に仕事できる人が来るといいんですけどね。」

「あんなにできない人はなかなか来ないわよ。
普通の人ならある程度こなせるでしょう。
そしたら店を切り盛りできそうなスタッフをヘルプに出せるかな。」

「ちょっと次に来る人は頑張ってもらわなきゃダメですね。」

眠くなって来たらしい奏人にミルクをやりながら
ウチはじっと二人の話を聞いて、考えていた。

これって・・・・。

どうしよう。

『自分のしたい事はその場で言いなさい。』
オーナーの声が頭の中を回る。

どないしよ、言うてええかな?

「あのっ!」

ウチはオーナーの言葉に背中を押されるように、声を出した。

「さっきは断っておいて自分でも図々しいと思うんですけど。
 その話、ウチに一日預けてもらえないでしょうか?」

「うん?」とオーナーは話すように促してくれた。

「週一回の平日、ですよね。
 それって必ず何曜日とか決まってるものなんですか?」

「いえ、保育園の行事や役員会があればそれを基準にするつもりなので
 何曜日とは決めていません。  
 逆に保育園の予定さえなければ融通を利かせることは可能です。

「あらかじめシフト組んで、って言う方法でも大丈夫ですか?」

すぐにウチの意図を察してくれた須賀ちゃんは、こっちの欲しい返事を的確に出してきてくれた。

「月毎でシフトを組み、事前の連絡があれば休日を変更することは検討します。
 ただし月4回の出勤日はオープンからラストまで確実に入って頂く事が条件になりますが。」

「って言うのは9時から20時くらいまで、って言う事ですよね。」

「清掃も準備も前日にやっておきます。
 ヘルプの方は10時から19:30という所じゃないでしょうか?
 ラストも片付けと火の元さえ確実にしていただければ。」

「入金チェックがありますよね?」

「いえ。基本的にはディーラーにチケットを渡しておいて
 そのチケットで飲み物を用意しますので。食券のイメージですね。
 ですから、自腹でテイクアウトしたいというお客様の分しか現金の入金は発生しません。
 おそらく、そのうちの何割かはディーラーがチケットを切るでしょうし。」

「じゃあ入金チェックもほとんど時間はかからんて言うことか・・・。」

「ただし月4日、決まった日には間違いなく出勤していただく。 
 これは最低必須条件です。」

100%確実にか。
ちょっと心配になる・・・だって子供なんていつ病気するかわからんし
貴信が病気の子供を相手できるかどうか・・・。

「須賀ちゃん、突発のときだけこっちからヘルプまわすのでどう?
 あんただっていつインフルエンザかなんかで倒れるかわからないんだし。」

考えてるとオーナーが横からフォローを入れてくれた。

「オーナー・・・・。」

「清水さん、ちゃんと言えるじゃない。うれしいなぁ。」

「あの、でも主人と・・・あと実家にも相談してからになるんですけど。」

「しっかり口説いてきなさい。
 今度はホントに期待してるから。ね、須賀ちゃん。」

「そうですね。保育園に入れる必要もないし現実的な話だと思います。
 僕としても清水さんなら安心できますから。」

「すいません、じゃあ明日には返事しますから。」

「OK。じゃあ電話して。わざわざ来ないでもいいから。
 まぁどうしても売上げに貢献したいって言うなら遠慮はいらないけど。」

「あはは。三日連続で出かけてたらしかられますよー。」

「あら、毎日仕事にでようって言ってた人の台詞じゃないわね。」

「いえいえ、まだ宙ぶらりん主婦ですから。」

「じゃ、お開きね。」まずオーナーが立ち上がった。

「今日はキツイことも言ってしまってすみませんでした。 
 ごゆっくり。」須賀ちゃんもテーブルの書類をさっさとまとめながら言う。

「こちらこそ。あの時間割いてもらって・・・ありがとうございました。
 これも。」

土偶魔人だっけ?・・・・人形を振って見せると
二人はちょっと笑って自分のパートに戻っていった。

さーてと、ウチも帰ろうかな。

今日はちゃんとベーグルサンドセットの支払いをして店を出た。

*

実家のおかあちゃんと貴信を口説き落としたウチは
月4回のバイトに行くことができるようになった。

週一回のことやしウチの実家で一日過ごしてくれてもいい。
最悪、おかあちゃんに預けに行ってくれるだけでもいいって言っても
貴信はなかなかウンと言うてくれへん。

せやから、たまには外に出んかったらまたアルコールに走るかもって
ちょっと脅かしたった。

反則っぽい?

でも許容範囲やんな。

実際オープンして、ウチが働き出すのは6月の半ばから。

だからそれまでは今までと同じように奏人と二人っきりやったけど
全然、急に寂しくなったり置いてけぼりの気分になることはなかった。

そうそう。

時々貴信も外食に連れて行ってくれるようになったし。

座敷のある小料理屋さんとか。

家族だけのときもあったし、
貴信の会社の後輩や異業種交流会のメンバーの男の子を呼んでおいてくれることもあった。

貴信にスカイラインを『売りつけた』神野君・・・・と言う
実は結構お気に入りの男の子がいて、その子が来てるとご飯が一層楽しくて。

そっか。

自分で動かんと、周りが勝手にかわったりはせーへんねんなぁ。

昔読んだ自己啓発本のヒトコトを思い出して
また本屋さんででも探してみる気になった。
































© Rakuten Group, Inc.
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