紅蓮’s日記

紅蓮’s日記

第二話



「どうなっているんだ?」

龍太には今自分の目の前で起こっていることが理解できなかった。
奇怪な能力を使う見知らぬ男に突然命を狙われたかと思うと、
今度は自分の中から龍と呼ばれる奇妙な生物(?)が現れた。
何もかもが現実的にありえないことばかりである。

「なぜおまえのような奴が龍を持っているんだ?
貴様もグリマーだったのか?」

黒いスーツにサングラスをかけた男は驚いているようだ

「こっちが聞きたいくらいだ。
そもそもグリマーってなんなんだ?」

龍太には男の言葉の意味がわからなかった。

「その様子だとおまえはグリマーとしての能力の使い方を知らないようだな。
ならばあせる必要はない。
とっととおまえを殺してその龍を力ずくで奪うだけだ。
今度は最大威力の霊力波で確実に仕留める。」

男はまた右の手の平に青いオーラのようなものを集め始めた。
龍太は考えた。この男の言葉と、
この龍の行動から推測するとどうやらこの真紅の龍は自分の味方のようだ。
しかし、だからといってこの状況が良くなる訳ではなかった。
この龍にはそれなりの力があるようだが、自分には使い方がわからない。
相手の霊力波という技は威力をあげるにはオーラを集めるのに時間がかかる。
しかし、その時間も一度目、二度目の攻撃から判断して約十秒といったところだろう。
何か行動を起こすのには短すぎる。
龍太はあきらめかけていた。

「キャゥ!!」

突然自分の中から出てきた真紅の龍が鳴いた。
龍太にはこの龍が何を言ったのかが理解できた。

「言霊ってなんのことだ?」

龍太は言葉はわかっても意味まで理解することはできなかった。
だが、今は龍を信じるしかなかった。

「炎龍!」

龍太は叫んだ。
炎龍とはこの真紅の龍の名前のようだ。
真紅の龍の一声鳴くと炎をまとい、
その姿を真紅の刀身に龍の頭と翼をかたどった鍔、
刀身の根本に「炎」とかかれた紅玉のついた剣に変えた。

「封炎龍神剣(ふうえんりゅうじんけん)!」

龍太は一言つぶやいた。

「グリマーとしての能力を発動させることは出来たようだが
そんな付焼刃の力で何が出来る?
くらえ、霊力波!」

サングラスの男は霊力波を放った。

「キュー!」

剣へ姿を変えた炎龍は龍太に何かを伝えた。

「わかった。」

龍太は剣を振り上げた。

「覇炎鱗(はえんりん)!」

龍太が叫ぶと剣の刀身が燃え上がった。
そして、龍太が剣を振り下ろすと刀身から無数の炎のつぶてが放たれた。
そして、その無数の炎のつぶては霊力波をなぎ払い、サングラスの男を襲った。

「くはっ!!」

サングラスの男は吹き飛ばされ、物置の壁にたたきつけられた。

「ちっ、こんな奴が龍の力をつかうとは・・・。一時撤退するか・・・。」

サングラスの男はそうつぶやくと姿を消した。
次の瞬間、龍太はとてつもない疲労感に襲われ、意識を失いその場に倒れた。
龍太の手に握られた剣も龍の姿にもどり、龍太の中へともどっていった。
この戦いを見ていたその他四体の龍はしばらくこのまわりを飛び回っていたが、
四体とも龍太の中へ入っていった。


龍太が目を覚ますと庭でなく自分の部屋だった。

「やっと起きたか。
庭のど真ん中で寝ておって。
風邪をひくぞ。」

龍限が龍太の近くに座ってお茶を飲んでいた。
どうやら龍限がここまで運んできてくれたようだ。

「まぁしかたないかの。
いきなりお前の中から龍が出てきたり、
見知らぬ男に命を狙われたりと大変だったようだからのう。」

龍限は笑っている。

「じいちゃん、なんでそのことを知っているんだ?」

龍太はびっくりして体を起こした。

「何をびっくりしておる。聞いたんじゃよ。こやつらに。」

龍限が言い終わると五体の龍が姿を現した。

「うわっ!!。」

龍太は驚きのあまり自分が寝ていたベットから落ちた。

「何をしておる。こやつらはお前の精霊じゃぞ。」

龍限の言葉に龍太はさらに驚いた。

「正式には今日お前のものになった。
しかし、真紅の龍だけはずいぶん前からお前の中にいたらしいがの。」

龍限はまだ笑っていた。
そして、急に深刻な顔をして龍太に言った。

「龍太、よく聞きなさい。お前は今日完全にグリマーとしての能力が目覚めた。
グリマーの能力の目覚め方は色々じゃが、
お前の場合命の危険にさらされたために防衛反応として目覚めたようじゃな。」

「ちょっと待ってくれ。そもそもグリマーってなんなんだよ?」

龍太は龍限に尋ねた。

「グリマーとはフランス語で精霊の使い方が記された呪術書のことを指す。
grimoireから生まれた言葉で、己の体内に秘める霊力を使い
精霊を操る者のことを指す言葉じゃ。」

龍限は答えた。

「ま、待ってくれ。俺には精霊と霊力のことも分からないから、
そのに単語のことも説明してくれよ、」

龍太には分からないことだらけだった。

「この世に存在するありとあらゆるものには魂と呼ばれるものが宿っている。
木や風などの自然のものには自然的な魂が、道具や像などの造形物には
その造形物の作者や造形物に関わった人の思念が魂となって宿る。
もちろんわしら人間にも魂は宿っておる。
霊力とはその魂が生み出す大きな力のことじゃ。
そして精霊とはありとあらゆるものに宿った魂が長い月日をかけて霊力を蓄積し、
高い霊力を持った魂のことを指す。」

龍限はまたさらりとこたえた。龍太はとりあえずのことは理解できた。
しかし、この話はあまりに現実離れしすぎていることである。
理屈は理解できたがこれを信じるとなると抵抗がある。
だが目の前には精霊である五体の龍がいる。いやでも信じなければいけなくなる。

「龍太、大事なのはここからだ。」

龍限はさらに深刻に語り始めた。

「グリマーの強さは己の体内に秘める霊力の量の多さと操る精霊の力によって決まる。
お前の精霊となった龍たちは精霊の中では最高ランクの力を持つ。
龍とはその能力が最も強くなった魂の姿なのじゃ。
つまりお前の炎龍は炎の能力を持つ魂の中では最高の能力を持っていることになる。
グリマーとしてはそのような力のある精霊は喉から手がでるほどほしいものじゃ。
しかし、一度人に取りついた精霊その者の命がつきるまで他の者に取りつくことはない。
故にお前はこれからグリマーに命を狙われるようになってしまったのじゃ。
だからお前は身を守るためにグリマーとしての戦い方を覚えなければならない。
グリマーの戦い方には大きく分けて三種類ある。
一つ目は精霊を使わず己の霊力だけで戦う方法じゃ。
今日お前のことを襲った男はこの方法で戦っておった。
二つ目は精霊自身に霊力を注ぎ込み、精霊自身を戦わせる方法じゃ。
これは大きな力を得られるのじゃが、
精霊に注ぎ込む霊力と精霊が傷ついたとき回復に必要な霊力と、
莫大な霊力が必要になってしまう。
最後が精霊を武器化させて戦う方法じゃ。
これは精霊を武器化させるときと精霊の特殊能力を発動させるとき、
相手の武器とあたり負けをして武器が破損したときの武器の修復のみ霊力を使うので
必要な霊力の量を調節しやすい。
精霊を武器化させたときの武器の形は精霊の記憶にある過去の形だが、
修行すれば自分の考えた新たな形をつくることができる。
このような利点から多くのグリマーは精霊を武器化させて戦うのじゃ。
だがどの方法も全て力の源は霊力じゃ。
強い精霊をあつかうとなるとそれだけ莫大な霊力が必要となる。
加減をしなければ今日のように霊力を使い尽くして倒れてしまうぞ。
なので明日から霊力のコントロールを身につけてもらう。
でないと一年前のように無意識に能力を発動させてしまい、とても危険じゃからな。」

やはり一年前の事件はこの能力が原因だったようだ。
たしかにまた無意識にこの能力を発動させてしまったら大変だ。
龍太はこの話を受け入れるしかなかった。
こうして龍太のグリマーとしての能力は今日開花したのであった。


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