紅蓮’s日記

紅蓮’s日記

第四話



午前十時、今日龍太の姿は家にはなかった。
今日は水曜日、週三日は学校へ行くという龍限との約束のため
毎週水曜日は龍太の学校へ行く日となった。
理由は週の中で一番授業が短い日が水曜日だからだった。

「キュウ~。」

龍が鳴いた。
だが姿はない。

「お前らを外に出すと霊力が漏れるから出ちゃダメだぞ。」

龍太は言った。

グリマーの能力の中にはある範囲内の他人の霊力を探ることが
出来る能力がある。
霊力は個人個人特有の波動を持っている。
つまり、霊力を感じ取ることによって
その霊力が誰のものかが分かってしまうのだ。
常人も微量の霊力を放出しているが、
グリマーが精霊を実体化させたり能力を使ってしまうと
常人の何十倍もの霊力が放出されてしまう。
つまり、他のグリマーに自分の存在を知らせてしまうようなものなのだ。
なので、龍たちは龍太の中で外出禁止令をくらってしまったのだ。

「こら、そこっ!授業を聞いているのか。」

二時間目の授業は数学、教師はクラスの担任、
鞘坂 心助(さやさか しんすけ)の声が響いた。
剣道部の顧問でもあるので迫力がある。

「すいません。聞いてませんでした。」

龍太は正直に答えた。

「この黒板の問題を解け!」

心助は黒板を指しながら言った。
問題は三角形の相似の証明問題だ。
龍太は前に出るとすらすらと問題を解いた。

「・・・よし、正解だ。」

心助の言葉を聞いて龍太は席に戻った。
周りはまたコソコソ話を始めた。
龍太が嫌がられる理由のもう一つがこれだ。
龍太は学校をサボるが勉強はちゃんとしている。
よって頭は学年で良い方である。運動神経も悪くない。
そして容姿は身長百七十三センチ、髪は黒髪で長くもなくまた短くもない。
くせにより自然といい具合に立つ。顔は良い方だ。
いわゆる天然美形。
まさに「出る杭は打たれる」と言うやつだ。

「学校に来ないくせに・・・」

「ちっ、いいきになりやがって・・・。」

などの言葉が龍太の耳に入った。
二時間目の授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
静かだった教室に活気が戻った。龍太は周りを見渡した。
教室のドアの前で本を片手に友達と話をしているのは
風村 風牙(かぜむら ふうが)
医者の息子で長い髪を後ろで縛っていてクールなやつだ。
龍太の二つ前の席で机の上に座り、グループの輪の中心にいるのは、
三剣 斬(みつるぎ ざん)
剣道部の主将で優しく学年の中で男子にも女子にも好かれる人気者。
その他によくこのクラスにやってくる黒髪でショートヘアーが特徴の
D組の黒城 暗(こくじょう あん)の姿が廊下に見える。
龍太はため息をついた。
龍太はこの授業と授業の間の十分間の休み時間が何よりも長く感じ、
そして嫌いな時間だった。
周りは友達との楽しい時間を過ごしている中、
自分だけは一人孤独な時間を過ごしている。
そう思うと悲しさがこみ上げてくる。
昔は自分にも友達と呼べるものがいて、楽しい時間を過ごしていた。
そう昔は・・・


「おい、隣のクラスに転校してきた奴、メチャクチャかわいい奴だったぞ。」

とこのクラスの男子の一人が騒ぎながら教室に入ってきた。

「マジで?」

「見に行こうぜ。」

「今、廊下にいたぞ。」

とクラスは転校生の話一色に染まった。
龍太は気にしなかった。龍太はボーっと空を見上げた。
すると突然龍太は蹴りを食らった。

「せっかくかわいい転校生が来たのになんのアプローチもなし?」

そこにはこの学校の制服を着た舞火がいた。
舞火は長い赤い髪を後ろで縛りポニーテールにしている。
その姿に女子の制服のセーラー服が妙に似合う。

「お、お前何でここにいるんだよ。」

龍太は驚きながら尋ねた。

「お前じゃなくて舞火でしょ。
私、今日からここに通うんだよ。
それにしてもあなた学ラン似合わないわね。」

舞火は笑いながら答えた。
この学校の男子の制服は学ランだ。

「そんなのどうでもいいだろ。」

龍太は不機嫌にそう答えた。周りは唖然としている。
注目の転校生がよりにもよって学年ののけ者の龍太と対等に会話している。
周りには理解しがたい現状だ。

「龍峰っ!」

後ろのドアから勢いよく入ってきたのは
隣のクラスの茶髪でツンツン頭がトレードマーク、
この学年のムードメーカの地島 大地(ちしま だいち)だ。

「このやろ~!いつのまに炎道さんと親しくなっているんだ!ずるいぞ!」

大地は龍太に詰め寄った。

「なにをわけわからないことを言っているんだ?
こいつとは昨日会ったことがあるだけだ。親しくしているつもりはない。」

龍太は後退りしながら答えた。

「くそ~!うらやましすぎる。」

大地はそう叫ぶと泣きながら教室を出ていった。

「なんだったんだ?」

龍太と舞火は口を揃えてつぶやいた。
クラス内も嵐が去ったかのように静まりかえっていた。

「そうそう、あなた今日放課後私につき合ってくれない?
あなたなかなか強かったし。」

舞火は小声で龍太に言った。

「付き合うってグリマーの修行か?」
龍太は尋ねた。

「そう。昨日の場所でね。じゃ、よろしく。」

舞火はそう言うと自分の教室に戻っていった。

学校が終わると龍太は龍岳山の森の中に向かった。
龍太が指定の場所に着くと舞火はすでに腰をかけてそこにいた。

「来た来た。」

舞火がそう言って立ち上がると朱雀も姿を現し舞火の後ろを飛び回った。

「キャウ!」

龍たちも出てきて龍太の周りを飛び回った。
龍太の中が相当窮屈だったのか龍たちはのびのびと飛び回っていた。

「そういうことだったのか。」

不意な声に龍太と舞火はびっくりして辺りを見渡した。
するときの上に大地の姿があった。

「なるほど。お前たちには何かあると思って尾行させてもらったら
面白い物が見れた。
二人ともグリマーだったのか。」

大地はそう言うときの上から飛び降り、龍太に迫った。
龍太は決定的な場面を見られたショックで不安を隠せなかった。

「何を隠そう俺もグリマーだ。おい、龍峰!俺と勝負しろ!」

大地がそう言い放つと大地の後ろに黒い二足歩行の亀が現れた。
あまりに予想外の出来事に龍太は言葉を出せなかった。

「そっちから来ないならこっちから行くぞ!
玄武、大地の連接鎚矛(アースフレイル)!!」

大地の精霊は手足を甲羅の中に納めて甲羅から鋭い棘を出した。
そこから鎖が伸びて先ほどの棘のついた甲羅を先端につけたフレイルへと
姿を変えた。

「ま、まて!俺はまだ勝負を受けると言ってないぞ。」

戦闘モードに入った大地の耳には龍太の言葉は入らなかった。

「大地の釘針(アーススパイク)!」

大地が叫びながらフレイルで地面を叩くと龍太の足下から
巨大な岩で出来た針がが突き出た。

「うわっ!」

龍太は反応が遅れてその衝撃で宙に投げ出された。

「そら、もういっちょ!大地の釘針(アーススパイク)!」

大地は龍太の落下位置を狙って針を出した。
龍太はこれまで食らうわけにはいかないので応戦することを決めた。

「氷龍、氷龍爪甲(ひょうりゅうそうこう)!氷壁!」

龍太は氷の壁を自分と針の間に作り出した。
しかし、大地が作り出した岩の針は龍太の氷の壁をいとも簡単に突き破った。

「パワーなら誰にも負けねぇぞ。」

大地は得意げに言った。

「氷龍、戻れ。
水龍、破水龍槍。(はすいりゅうそう)!」

龍太は瞬時に龍を取り替え、槍を木の幹に突き刺し体を支えた。
そのおかげで串刺しにならなくてすんだ。

「お前、精霊を複数もってんだな。」

大地は興味津々だった。

「あの子(大地)も面白いけど、やっぱりあいつ(龍太)の方が面白いわね。
ね、朱雀。」

舞火は龍太と大地の戦いを朱雀とともに観戦している。

「パワーが違いすぎてまともに戦えねぇ。」

龍太は大地の攻撃を避けるしかできない状況になっている。
すると、茶色で他の龍たちより体と角が大きく、
翼が小さい龍が龍太の耳元で静かに鳴いた。

「それしかないみたいだな。
よし、いくぞ。
岩龍(がんりゅう)壊岩龍槌「(かいがんりゅうつち)!」

岩龍は黒光りする茶色のハンマーに姿を変えた。
柄には「岩」とかかれた紅玉がついている。

「お、まだ精霊がいるのか。でも俺のパワーにかなうかな?
貫け!大地の釘針(アーススパイク)!」」

大地は龍太のやや前方から針を龍太に向けて出した。

「この龍はな・・・・。」

龍太はそう言うと槌を振り上げた。

「ものすごく重いが破壊力は抜群なんだぜ。」

龍太は槌で大地の針を叩き壊した。

「ま、まじかよ。」

大地は呆然と立ちつくした。そして、

「俺にこれ以上の技はない。俺の負けだ。」

と呟き、精霊の武器化を解除した。龍太も武器化を解いた。


「何でまた急に俺に勝負を挑んだんだ?」

龍太は尋ねた

「あ、私も知りたい。」

舞火も近くに寄ってきた。

「そ、それは・・・」

大地は黙ってしまった。
しばらくして、

「それは炎道さんとした親しげなお前が・・・・
う・・・うらやましかったからだ・・・。」

大地は赤面しながら答えた。

「プッ!」

舞火がふいた。

「なんだ、そんなことか。
別に親しげなんじゃなくて、
単に知っている人があいつしかいなかったから
つい多く話しただけ。」

舞火は大笑いしている。

「そんなことかよ。」

龍太は半分怒りがこみ上げてきた。

「わ、笑うなよ。」

大地は茹蛸のようになっている。

「大地君って面白いね。」

舞火はまだ笑っている。

「龍峰、色々と悪かった。」

大地は龍太に頭を下げた。

「別にもういいよ。」

龍太は赤面しながら言った。
暗い龍岳山の森の中に笑い声が響いた。


「なんでお前がここにいるんだよ。」

と龍太の声が家の中に響く。

「まぁ、きにすんなって。
おじいさん、この飯とってもうまいっす。
夕飯ご馳走してもらってありがとうございます。」

の大地の声。

「大地君よく食べるねぇ。」

と舞火と龍限の笑い声。
龍峰家がこんな賑やかなのは何カ月ぶりだろうか。
半年前の事件以来こんなに賑やかな食卓はなかった。
そして、そこには龍太が半年ぶりに笑顔を見せていた。


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