紅蓮’s日記

紅蓮’s日記

第五話




「蜘蛛、龍の件はどうなっている?」

「そ、それが居場所は特定したものの・・・
他のグリマーの手に渡ってしまい・・・
今チャンスを伺っているところでして・・・」

「まったく、蜘蛛はダメだな。やっぱ俺が行った方がいいんじゃないか?」

「うるさい。木は黙ってろ。
蜘蛛、この聖戦(ジハード)を成し遂げるにはより強い精霊が必要だ。
そのためにも龍は手中におさめなくてはならない。」

「わかっている。だからそろそろこいつを動かす。頼むぞ。
三頭犬の連鎖・・・」


「いてて。わかった。わかった。だから放せ。」

早朝から龍峰家に龍太の声が響く。

「じゃあ龍限さん、龍太借りていきますね。」

舞火はそう言うと龍太の腕をつかんで学校まで向かった。

「おお、気を付けてな。」

龍限は笑顔で二人を見送った。

「舞火、もう放せよ。痛いって。」

龍太は舞火の手を振りほどこうとした。

「そう言ってまた逃げる気でしょ?」

舞火はさらに強く龍太の腕をつかんだ。
舞火が龍峰家にやってきてから早一ヶ月が過ぎ、
舞火は龍峰家にかなり馴染んでいた。
舞火の案により、同じ屋根の下に暮らす者同士、
お互いをフレンドリーに呼び捨てで呼び合うことになった。
龍太にとってどうでもいいことだったが、
舞火は小学四年生から中学二年生までを
アメリカで過ごしてきたため、
舞火はこれは自分の習慣上はずせないことだと言い張り、
この案を龍峰家に定着させた。
舞火はよく龍太を無理矢理学校へ連れて行くようになった。
理由は自分が負けず嫌いなため、
自分を負かせた龍太を放課後グリマーの修行に付き合わせるためだった。

「よう、調子はどうだ?」

学校へ着くとすぐさま大地は龍太のもとへやってきた。
大地も龍太との戦い後、よく付き合うようになった。
大地曰く、「俺達は晩飯を一緒に食べた仲だ。」とのこと。
突如学年のムードメーカーを味方に付けた龍太は注目の的になり、
そのせいか龍太に話しかける人が少しだけ現れるようになった。
そんな龍太を廊下で見ていたD組の黒城暗はクスリと嬉しそうに笑った。
しかし、その笑みは何故か不気味な感じがした。
その不気味な笑みを鋭い目で逃さず見ていたのは風村風牙だった。
風牙はしばらく暗を睨んでいた。


「お前何者だ?」

放課後、風牙は学校の屋上に暗を呼び出し、問いつめた。

「何者ってどういうこと?」

暗は笑顔で答えた。

「お前は龍峰や俺と同じ感じがすると言うことだ。」

風牙がそう言うと暗の顔から笑みが消えた。

「ノーマークだったわ。まさかあなたもグリマーだったなんて。」

暗の表情はいつもの明るい暗でなく今まで見せたことのない
冷たい表情だった。
風牙と暗の間の空気は重く張りつめている。
その二人の間の空気を暗示するかのように空には黒雲が広がり、
バケツをひっくり返したような激しい雨が降ってきた。

「あなたを生かしておくわけにはいかないわね。」

暗はそう言うと右手を前につきだした。

「リッチ!暗黒の鎌(ダークネスデスサイズ)!」

暗が叫ぶと暗の右手の前に灰色のボロボロの布をまとった
人型の精霊が現れ、
そしてその姿を暗の身の丈ほどある
黒い巨大な鎌に変え暗の右手におさまった。

「今さら命乞いをするわけにもいかねぇな。こっちも行くぞ。
白虎!!風の爪(ウインドネイル)!!」

風牙の精霊は白い毛並みが美しい白虎だった。
白虎は一声上げると風牙の十本の指の先に白銀の爪に姿を変えて装着された。

「俺の白虎は風を操る。このスピードについてこれるか?」

風牙が地面をけると一瞬で暗との間合いを詰めた。
そして左手の一振りで暗の肩に一筋の赤い線が出来た。

「確かに速いわね。」

暗は鎌を振り上げた。

「でも動けなくしてしまえばどうってことないわ。」

暗の鎌が黒いオーラをまとった。

「暗黒殺人撃(ダークネスキリング)!!」

暗がそうつぶやくと風牙は信じられないものを目にした。

「こ、これは・・・」

風牙は言葉を失った。


その時、龍太、舞火、大地は急な雨のせいで学校にいた。
三人はこのとき大きな霊力を感じた。

「霊力!?」

大地がつぶやくと三人は顔を見合わせ、霊力を感じた屋上へと向かった。


屋上のドアを開けた。
そこで龍太達が目にしたのは背中から血を流し、
たおれている風牙と返り血をあびて雨に打たれている暗の姿だった。
暗の手には風牙のものと思われる真っ赤な血が刃に
ベットリと付いた鎌が握られていた。

「ゴホッ、ゴホッ!!」

風牙が血を吐いた。

「おい、大丈夫か!?」

龍太は風牙の体を起こした。

「た、龍峰か・・・」

風牙は弱々しく龍太の顔を見てつぶやいた。
そして目線を暗にうつし、

「あいつは・・・お前を狙っている・・・気を付けろ・・・」

と言った。
龍太は顔を上げ、

「お前、何をした?」

と暗を睨みながら言った。

「結構深くやったのにまだ生きてたんだ。
風村くんはね、あたしの邪魔をしようとしたから
消えてもらおうかと思ったんだけど
うまくいかないものね。」

暗は笑みを浮かべると龍太の不意をついて風牙に斬りかかった。

「大地の釘針(アーススパイク)!!」

大地の針が暗の行く手を阻んだ。

「猛火の矢(ブレイズアロー)!!」

暗の体勢が崩れたところに舞火は矢を放った。
暗は舞火の矢をいとも簡単に鎌ではじいた。

「こんな雨の中じゃ威力のある炎は出せないようね。」

図星のせいか暗の言葉に舞火は顔をしかめた。

「さすがに人数的にこっちが不利だな。」

暗はそう言うと鎌に霊力をため始めた。
鎌は黒いオーラをまとった。

「まずい、逃げろ!」

風牙が叫んだ頃には暗は鎌を振り上げすでに攻撃態勢にはいっていた。
が、次の瞬間、暗の動きが止まった。そして龍太たちの動きも止まった。
動きを止めたのではなく止められたのだった。

「黒城、はしゃぎすぎだ。」

龍太たちの後ろから背が小さめの細い男が現れた。

「D組の影山か。」

大地は男の顔を見て言った。

「この霊力、お前もグリマーか。」

風牙は影山という男が発する霊力を感じ取った。

「黒城、おれたちの仕事はこいつらを殺す事じゃないんだ。
連鎖がカンカンだぞ。」

影山はあきれたように暗に言った。

「・・・」

暗は何も言えず黙った。
影山はため息をつくと龍太たちの方を見て

「連鎖が会いたがっている。
明日の午前十時に龍岳山にある黄泉の穴に来い。」

影山はそう言い終わると姿を消した。
その瞬間に龍太たちの体に自由が戻った。

「あたしも帰らなきゃ。じゃあみんなまたねっ!」

暗も姿を消した。
そこで緊張がとけたのか風牙はその場に倒れた。


「おい、大丈夫か?」

龍太の呼びかけで風牙は目を覚ました。
風牙は最初警戒していたがすぐに何か安心したようだった。

「すまない。」

風牙は礼を言った。

「ここは?」

風牙は尋ねた。

「俺の家だ。」

龍太は答えた。

「風牙くん目覚ました?」

舞火が勢いよく部屋に入ってきた。
それに続いて大地も入ってきた。

「お前達の周りの空気は澄んでいるな。」

風牙は言った。

「どういう意味だ?」

龍太は尋ねた。

「俺もグリマーだ。
俺の精霊は白虎。風を操る能力を持っている。
だから人にあったときにその人の周りの空気を感じて
敵意があるかないかがわかるんだ。」

風牙は体を起こしながら言った。
そして風牙の膝の上に白い虎が現れた。
龍太たちもそれぞれ自分の精霊を見せ、紹介した。
龍太たちはその後風牙から暗と何があったのかを聞いた。
暗が龍太に敵意を持っていたことや屋上での出来事・・・。


その会話を隣の部屋で聞いていた龍限は心配そうに窓の外を見た。
雨はまだ降っている。やむ様子はない。
龍限は立ち上がり窓に近づいていった。

「奴らが動き始めたか・・・。龍太、すまん。
これが龍峰家の宿命なのじゃ。」

とつぶやき、黒い空を見上げた。
その瞬間、空に雷が鳴り響いた。
まるで今後の出来事を暗示するかのように・・・


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