紅蓮’s日記

紅蓮’s日記

第十二話




「龍太いる?」

昼休み、舞火がA組にやってきた。

「ん、龍峰か?今日は見てないぞ?」

風牙は教室を見回しながら言った。

「え、そんなはずないんだけど。
だってあたし今日龍太無理矢理学校に連れて来たもん。」

舞火と風牙は顔を見合わせた。そして二人はある一つの結論を出した。

「さては逃げたな………」

二人は口をそろえて呟いた。
 そのころ龍太は屋上で昼寝中だった。
一週間前に龍太の家で行われた花火大会の以来、
数名の人が龍太に話し掛けるようになった。
そのおかげか龍太は昔より学校へ行くようになった。
が、だからといって影からの嫌がらせがなくなったわけではない。
やはり犯人のわからない影からの嫌がらせは辛い。
なので龍太は今でも時折学校をサボるのだ。

「ピィー!」

朱雀が龍太の頭を突付いた。
龍太は目を擦りながら起き上がった。

「お前、舞火にオレを探せって言われたのか?」

龍太が尋ねると朱雀は首を縦に振った。

「はぁ………さて、どうするかな………」

龍太はため息をついた。
その間朱雀は龍太から目を離さなかった。

「全く、あいつに霊力のステルス化を教えるんじゃなかったな………」

龍太は頭を抱えた。霊力のステルス化、
それは自分の霊力の波長をまわりの物の霊力の波長に合わせ
同調させる事により、
自分の霊力を目立たなくすることである。
これによりある程度の量の霊力ならば放出させても
相手に感じ取られる事はない。
つまり精霊が半実体化していても他のグリマーに気付かれないというわけだ。
龍太はこの技を連鎖から教わった。
そして三日前、龍太はこの技を舞火、大地、風牙に教えたのだ。
理由は精霊を見張りにつけさせるためである。
レジストグリマーズから命を狙われている今、
他のグリマーがいつ襲ってくるかわからない。
なのでこの先精霊を常に半実体化させ見張らせようというのだ。

「おいおい、だれだ?こんなところで精霊と語っている奴は。」

不意な言葉に龍太は驚いた。
龍太が上を見ると、貯水タンクの上から男が一人顔を出していた。

「だれかと思ったらA組の龍峰じゃないですか。」

「誰だ、レジストグリマーズの者か?」

「誰とは失礼な。オレはC組の二刃 剣児(ふたば けんじ)。
いちおグリマーだけどレジストグリマーズの者ではない。
安心しな。
以後よろしゅうな。」

剣児は笑顔で手を振った。

「よっ!」

剣児は貯水タンクから飛び降りた。
手には赤い布に包まれた細長いものを二本持っていた。

「ちょうどよかった。
今からお前を探そうとしてたとこだったんだよ。
ちと用があってな。
オレについてきてくれ。」

そう言うと剣児は龍太に背を向けた。
龍太は剣児を睨んでいた。

「そうそう、そんな警戒しなくても大丈夫だぞ。
オレはあんたの味方だ。」

剣児はそう言うと歩きだした。

「剣児、こんなところにいたの。
探したんだから。」

屋上からの階段を下りていると突然一人の女性が姿を現した。
長く黒い髪を持ち前髪をヘアバンドで上げている。
いかにも活発そうな女性である。
彼女の名は槍雷 光(そうらい ひかり)、剣児の幼馴染である。

「げ、光………」

剣児は後退りした。

「あんたまた授業サボろうとしていたでしょ?
今日という今日はそうはいかないんだから。」

「ま、まて光。
あ、あの、その………そうだ。
なぁ光、あの二人呼んできてくれなぇか。」

光の動きが止まった。

「なんでまた急に。」

「今龍峰を親父の所に連れて行こうと思ってな。」

「………わかった。ちょっと待ってて。すぐ呼んでくるよ。」

光はそう言うと階段を下りていった。
 龍太と剣児は学校を抜け出すと町の西に向かった。
剣児は大きな門のある家の前で立ち止まった。

「二刃剣道道場?」

龍太は門に掛かっている看板を見上げた。

「そ、ここはオレの家だ。
ウチは剣道の道場を開いているんだよ。」

剣児はそう言うと門をくぐった。
龍太も剣児の後に続いた。
中には剣児の家と思われる極普通の一軒家と
その左に大きな木造の道場が並んでいた。

「上がってくれ。」

剣児は道場の扉を開けた。
龍太は言われるがままに道場に入った。
中は、入って右には更衣室、左にトイレがあり、
壁には八つの古い肖像画が並んでいる。
そして奥に座禅を組んだ袴姿の一人の男性の姿があった。
歳は四十五前後だろうか。
背筋を伸ばし微動だにせず静かに座禅を組んでいる。

「親父、龍峰を連れてきた。」

男性は剣児の声を聞くと目を開いた。
その時龍太は龍限と同じような威圧感を感じた。

「キミが龍峰くんか。」

男性は立ち上がると龍太に近寄ってきた。

「わたしはこの二刃道場の九代目師範の二刃 剣蔵(ふたば けんぞう)です。
忙しい中来て頂きありがとうございます。」

剣蔵は礼儀正しく挨拶をした。

「さすが龍峰家の者だな。
いい霊力を持っている。」

「!?」

龍太は驚いた。

「なんで?って顔をしているな。我が家は表向きは剣道の道場だが、
実は戦国時代から続くグリマーの修業所なのだ。
そういう訳でわたしもグリマーなのでね。
他人の霊力を感じることもできるよ。
龍限さんはげんきかい?」

「あ、は、はい。元気です。」

「そうか。しかしそれではそろそろもう………」

剣蔵は言葉を濁らせた。

「あ、あの、祖父がどうかしましたか?」

「あ、いや、なんでもない。
それにそんなに硬くならなくてもいいよ。
さて、本題に入ろう。
実はキミにお願いがあって剣児に連れてきてもらった。」

急に剣蔵は険しい顔をし始めた。

「お願い?」

「そうだ。
今レジストグリマーズはある物を手に入れようとしている。」

「ある物ってなんですか?」

「それは『界龍の五神器』だ。
キミはグリマールワールドを知っているかね?」

「はい。」

「ならば話は早い。
界龍はグリマールワールドを造ることができるほどの強大な力を持っている。
界龍の力を持ってすればグリマールワールドや
現実世界をも潰すことが可能だ。
グリマーは界龍の力でグリマールワールドを作った後
その力を乱用されないように
界龍の力を五つの神器に封じ込めた。
我々二刃の者は先祖代々この界龍の五神器を守ってきた。
だが相手は強大な力を持つレジストグリマーズだ。
今いる二刃の門下生は剣児を含め四人。
到底かなうはずがない。
なのでキミの力を我々に貸してほしいの。
もちろんその暁には我々二刃の者もキミに力を貸すことを約束する。
今レジストグリマーズに命を狙われているキミにとっては
仲間が多いほうがいいだろう。」

「どうしてオレがレジストグリマーズに狙われていると知っているんですか?」

「キミは精霊の中でも最高の力を持つ龍を五体も操ると聞く。
今では『五龍の龍太』と通り名までついているくらい
キミはグリマーの中では有名でね。
それに我々もレジストグリマーズから狙われている身でね。
色々なグリマーに出会う中でキミの話を聞くのさ。」

そんなとき、龍太たちは大きな霊力を感じた。

「この方向は………学校!?」

龍太はすぐさま駆け出そうとした。

「オレも行きます!」

剣児も龍太の後に続いた。

「待ちなさい!」

剣蔵は龍太たちを呼び止めた。

「剣児、お前は行くな。」

「なんでだよ。」

剣児は反発した。

「龍峰くん、
悪いがキミが我々に力を貸してもらえないならば
我々はキミに力を貸すことはできない。
我々は人手が足りないのだ。
そんな中善意でキミに力を貸すなど、そんな余裕は我々にはないのだ。
今感じた霊力は十、つまり十一人のグリマーのものだ。
それに相手がレジストグリマーズならばキミ一人でどうにかなる数ではない。
だが、キミが我々に手を貸してもらえるのならば
我々はよろこんでキミに力を貸そうと思うのだが………」

「親父、そんな脅迫じみたこと言っている場合かよっ!」

剣児は剣蔵に向かって怒鳴った。

「あなたが界龍の五神器にこだわる理由はなんですか?」

そんなとき龍太は静かな口調で剣蔵に尋ねた。

「おい、龍峰。こんな時に何を………」

剣児は龍太の顔を見た。
龍太はまるで鬼のような形相で剣蔵を見つめていた。

「無論、人々を守る為だ。
レジストグリマーズに界龍が渡ってしまったら
確実に奴らはこの現実世界を潰しに掛かってくるだろう。
そうすれば常人はみな死んでしまう。
しかしグリマーも常人も同じ人間、
グリマーが常人を傷つけていいという道理はない。
ゆえにわたしは奴らに界龍の五神器を渡したくないのだ。」

剣蔵はそんな龍太の目を曇りなき眼で真っ直ぐ見つめながら答えた。

「剣蔵さん。オレの目的も人を守る事です。
ならばオレはあなたの願いを断る理由がありません。」

龍太は優しい口調でそう言うとにこりと笑って見せた。

「そうか。龍峰くん、ありがとう………」

剣蔵は龍太に向かって深々と頭を下げた。

「キミは龍限さんにそっくりだ………さすが龍峰家の者だ。」

剣蔵は顔を上げると笑顔で言った。

「剣児、行ってきなさい。」

「おう!」

龍太と剣児は学校へ向かって走っていった。

 「静かすぎる。」

校門の前に着いた龍太は呟いた。
学校内に人の影は見えない。
異様な空気と不気味な霊力だけが校内から流れてきた。

「来たぞ。
あいつだ。
半年前、オレの顔に火傷をつくった奴だ。
どんなにこの日を待ったことか。
さぁ、子供たちよ。奴を殺せ!」

龍太たちが学校に近づいた途端、二階の窓を破り四人の男が現れた。
そして四人の男は龍太たちの前に立ちはだかった。

「コ………コロ………ス………」

男たちは意味不明な言葉を発しながら龍太たちに近づいてきた。

「龍峰、ここはオレに任せてくれ。」

剣児は龍太の方を叩いた。

「なに、こんな奴らどうってことはない。
それにオレの親父が迷惑をかけたお詫びしなきゃならんしな。」

剣児は手に持っている布に包まれた二本の細い棒のような物の布を解いた。
すると中から姿を現したのは二本の日本刀だった。
一つは柄が赤く、もう一つは柄が青い刀だった。

「また敵でござるか?」

日本刀の中から紺の着物をまとった侍が姿を現した。

「桜丸(さくらまる)、また頼むぞ。」

剣児は桜丸に笑いかけた。

「合点承知!」

桜丸は白銀のオーラとなって二本の日本刀に纏わり付いた。

「龍峰、二刃流剣術の力見せてやる。」

剣児はそう言うと刀を構え四人の男へ向かって行った。


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