第二十六話
旅行二日目、この日は生憎の雨だった。
｢も～、最悪！！信じられない！｣
緑は朝からご機嫌斜めだった。
｢お姉ちゃん、そんな天気に文句言っても………｣
そんな緑を林は精一杯なだめていた。
仕方がないので今日は昨夜のリクリエーション大会の
延長と形を取ることになった。
そして、雨がやみ、晴れ間が見えてきた頃にはもう帰宅の時間が迫っていた。
｢は～、もっと遊んでいたかったな………｣
舞火は髪を結わえながらため息をついた。
｢舞火ちゃん髪結んじゃうの？｣
隣で光がバックに荷物詰めながら舞火に尋ねた。
｢え？だってわたし髪長いから移動のときや運動のときは邪魔だから。
どうして？｣
｢舞火ちゃんが髪下ろしているの初めて見たけど、
結んでいるときより下ろしているときのほうが似合うから。
舞火ちゃん絶対ストレートのほうがいいって。龍峰くんにアピールしなきゃ。｣
｢！？なんでそうなるのよ！｣
｢え、だってこの旅行中舞火ちゃんずっと龍峰くん見てるんだもん。
龍峰くんに気があるんじゃないの？違う？｣
｢………｣
舞火は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
｢かわいい。｣
｢う、うるさい！｣
舞火は手近にあったクッションを光に投げつけた。
午後二時、龍太たちは帰り支度をし終わりホテルの前に集合していた。
｢あ、帰りに飲もうと用意しておいた皆さん分のペットボトル
上に忘れてきちゃった。
ちょっとここで待っててもらえませんか？｣
林はそう言うとホテルに向かって走り出した。
｢ペットボトルじゃ重いだろ。手伝うよ。｣
龍太は林の後を追いかけた。
｢じゃあわたしも行く！｣
｢！？じゃわたしも………｣
龍太を追いかけるように緑と舞火が走り出した。
｢龍峰くんモテモテね。これは一勝負起きるかしらね。｣
そんな様子を暗は笑いながら眺めていた。
｢連鎖もそう思うでしょ………て、どうしたの？｣
連鎖は怖い顔をして上を眺めていた。
怖い顔はいつものことなのだが………
｢かすかだが霊力を感じる。｣
連鎖はやな空気を感じた。
｢あれ、もう電気落としちゃったのかしら。｣
ホテルの十二階の窓はカーテンも閉まり、暗闇に包まれていた。
｢たしかこの辺に電気のスイッチが………｣
林は手探りで電気のスイッチを探し始めた。
その時、龍太はある異臭を感じた。
｢この臭いは………｣
嗅ぎ覚えのあるこの臭い。これは………
｢あったあった。｣
林は暗闇の中、電気のスイッチを見つけその上に指を押し当てた。
｢大森、待て！この部屋にはガスが充満している！スイッチを押すな！｣
龍太は叫んだ。しかしもう遅かった。
林の指はしっかりとスイッチを押し込んでいた。
次の瞬間、巨大な爆発音とともに十二階フロアの窓ガラスが
全て一斉に四散した。
と同時に真っ赤な炎が舞い上がった。
龍太は爆風で吹き飛ばされ、窓の外に投げ出された。
一方外でこの惨状を見ていた連鎖たちは絶句した。
｢なんだ！｣
｢ウソだろ！なにがあったんだ？｣
勲と極は慌てふためいている。
｢間違いない。この霊力はグリマーだ！｣
連鎖はかすかな霊力をたどって走り出した。
｢やべ、瓦礫が落ちてくるぞ！｣
勲が指差す方を見ると、
上から吹き飛ばされたホテルの壁の一角や割れた窓ガラスが
下の者目掛けて落下してきた。
｢お前ら、いくぞ！｣
剣児の号令で剣児、光、斬、切菜は一斉に武器を構えた。
｢飛刃（ひじん）！｣
四人の放った霊力の刃が落ちてくる瓦礫をなぎ払った。
｢皆様、ご無事でしょうか。｣
林と緑の執事、仕井松 執が慌ててホテルから出てきた。
｢オレたちは平気ですけど、大森たちと龍峰と炎道がまだ上にいます。
仕井松さん、早く消防へ連絡を入れてください。
二刃たちと祭情と諸岡は落ちてくる瓦礫を対処し、逃げ道を確保。
黒城と獣合、影山は連鎖を追え。
もし相手が本当にグリマーなら連鎖一人で行かせるのはまずい。
大地はオレと共に上の奴らを救出に向かう。｣
風牙は持ち前の分析力で瞬時に事態を把握すると
それぞれに的確な指令を出し、大地を連れホテル内へと飛び込んだ。
｢さすが、あたしを倒しただけのことはあるわね。じゃあそっちは頼むわね。｣
暗はそう言うと成人、忍を連れて連鎖の後を追っていった。
｢こっちは請け負った。ちゃんとみんな救出してこいよ。｣
剣児たちはホテルへと向かっていく大地と風牙を見送った。
｢わたしもついて行きます。｣
扇が大地を追って付いてきた。
｢氷川は危ないから………｣
風牙は扇を止めようとした。
｢あ、大丈夫です。わたしも大地や風村さんと同じグリマーですから。｣
扇はニコリと笑ってみせた。
｢大地、お前ほんとどんな魔術使ったんだ？｣
風牙は驚きのあまり口が閉まらなかった。
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