紅蓮’s日記

紅蓮’s日記

第三十六話




「フフフ、もう終わりかい?三頭犬。」

蜘蛛がサングラスを押し上げながら不気味に微笑んだ。

「ふざけるな………」

連鎖と成人は痛みを堪え立ち上がった。
二人の体には深い切り傷が片口から胸にわたって刻まれている。

「連鎖………成人………逃げて………」

この傷をつくった張本人は暗だった。

「体が………言うことを聞かない………」

暗の必死の抵抗も空しく、
暗の体は本人の意思とは無関係に連鎖たちに鎌を向けた。

「最高の見世物だ!」

蜘蛛は狂ったように笑い始めた。
背中から生えている蜘蛛の精霊、
女郎蜘蛛のジョロの足が気持ちの悪い動きをしている。

「成人、暗は操られている。
暗を操っている元凶は蜘蛛だ!奴を直接叩くぞ!」

連鎖は成人に指示を出すと二手に分かれ、前後から蜘蛛を挟み撃ちにした。

「死への連鎖(チェーンデストラクション)!!」

「複合精霊、マンティコア!デーモン!」

前方からは連鎖の鎖が、
後方からは成人のライオンのレオとサソリのシザーを複合させた
獅子の体にサソリの尾を持つマンティコアと、
山羊のゴートとコウモリのバッツを複合させた
山羊の頭と足にコウモリの体と翼を持った悪魔のような姿をした
デーモンが同時に蜘蛛を狙った。

「やれやれ、二対一とは卑怯な。」

蜘蛛はそう言うとまるで手招きでもするかのような妙な素振りを見せた。
すると暗の体が蜘蛛に引き寄せられるかのような動きを見せた。
暗の体はまるで連鎖の攻撃から蜘蛛を庇うかのように
連鎖の前に立ちはだかった。

「くっ!」

連鎖は慌てて伸びる鎖を留めるべく、
自分の腕から伸びる三本の鎖を掴んだ。
連鎖は暗の前方わずか数ミリという間一髪のところで止まった。

「キミは甘いのだよ。」

蜘蛛は今度は腕を振り下ろすような素振りを見せた。
暗の腕が鎌を強く握り締め、足が連鎖を切りかかりに向かった。
暗の鎌が連鎖の体にまた新たな切り傷を刻み込んだ。

「さて。」

蜘蛛は前方の攻撃を阻止すると、ゆっくりと後ろを向いた。

「網糸(ニットスリッド)!!」

蜘蛛の背中から生えるジョロの八本の足から白い糸が放出された。
放出された糸は空中で絡み合い、網を生成した。
蜘蛛の網は成人の二体の複合精霊に絡みつくと、それらの自由を奪った。

「首吊り糸(ハングスリッド)!!」

蜘蛛の腕から伸びた糸が成人の首に巻きついた。

「く………あ………バ、バッツ。超音波………だ………」

成人は締まる喉で何とか精霊に指令を出した。
ゴートの後頭部からバッツの頭が現れた。
バッツは口を大きく開くと成人に向かって強力な超音波を放った。
放たれた超音波は成人の首をしめる白い糸を断ち切った。
解放された成人の喉に新鮮な空気が流れ込んだ。

「ゴホッ、ゴホッ、ん!?」

成人はその時妙な違和感を感じた。

「バッツ、もう一度超音波だ!今度は広範囲で!」

バッツは再び超音波を放った。成人の中で違和感が確信に変わった。

「バッツ、最大出力だ!破壊の超音波(サウンドブレイカー)!!」

音とは空気の振動である。高い音ほどその振動は細かく、
そして激しくなっていく。
超音波は人には聞こえないほどの超高音の音を指す。
バッツの口から放たれた超音波は空気を激しく振動させた。
空気の振動は地面や校舎の壁で跳ね返り、じょじょに
その振動を強くしていった。
そして………巨大な連続した衝撃音と共に超音波は
成人を中心に全てを吹き飛ばした。

「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

蜘蛛は超音波を食らい吹き飛ばされた。
連鎖は瞬時に暗をかばい、
鎖を盾状に前方に展開させてなんとか超音波を防いだ。

「あれ、体が動く………」

暗の体に自由が戻った。

「ちっ、しまった。オレの操り糸(マニューバスリッド)が破られた。」

蜘蛛は超低密度の霊力で作った糸を暗の体につけ、
まるでマリオネットでも操るかのように暗の体を操作していたのだ。
成人は超音波を放った時に違和感のある反響音を耳にした。
それによって成人は暗の背後、
つまり暗と蜘蛛の間に糸がつながれていることを見抜いたのだ。

「よくもこのあたしを武器として使ってくれたわね………
よくもあたしに連鎖や成人を攻撃させたわね………」

成人の攻撃を受けて横たわる蜘蛛の前に暗が立ちはだかり、
いつにも増して冷ややかな目で暗は蜘蛛の姿を見下ろした。
その冷たい表情と体から溢れ出す重苦しい霊力から、
暗の怒りがひしひしと伝わってくる。
連鎖と成人は悟った。こうなってしまった暗を留める術はもうない………と。
暗は自分の精霊リッチに大量の霊力を注ぎ始めた。
暗の霊力を受けたリッチはその身を徐々に巨大化させていった。
そしてリッチは蜘蛛と同等の大きさまで巨大化した。
リッチはゆっくりと蜘蛛に近づいていく。
そしてリッチは実体のないボロボロの布の中の体で蜘蛛を包み、飲み込んだ。

「な、なんだ。ここは。」

蜘蛛は一人闇の空間へと送られた。
だが、自分で放ったこの言葉が聞こえない。
周りからも一切の音が届いてこない。
いくらもがいても壁がなく、この空間はどこまでも続いていた。

「リッチの中は音さえ存在を許さない、いわば真の闇の空間。
この空間は人の五感さえも麻痺させてしまう。
五感もきかない闇の中で死の恐怖を味わいなさい。」

暗はそっと蜘蛛の耳元でささやいた。
だがこの声さえ蜘蛛の耳には届いていなかった。

「絶対暗黒地獄(ストリクトダークネスヘル)!!」

蜘蛛の体は無音の闇の中でズタズタに引き裂かれていく。
蜘蛛の体はまるで闇の中で踊っているかのようだった。
静寂の中に声のない蜘蛛の悲鳴が響き渡った。
リッチの中から暗が現れた。
そしてリッチがボロボロの布を翻しその場から姿を消すと、
その場には蜘蛛の体が横たわっていた。

「あたしを怒らせたことを後悔しなさい!」

暗はそういうと気絶している蜘蛛の頭を踏みつけ、
蜘蛛の服で鎌についた血液をふき取った。
そんな暗の姿を見た連鎖と成人は声をそろえて呟いた。

「こ、こえぇ………」



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