紅蓮’s日記

紅蓮’s日記

第4話




カレンダーの日付も五月半ば頃にはいり、
柊が霊力コントロールの修行を始めて半月がたった。
ここは古重の店の地下室で、柊はいつものように修行をしていた。
今日は、先生である龍限が様子を見に来る日で、
柊はパイプの前で軽くストレッチをしている。

「準備はいいか?」

龍限の手にはストップウォッチが握られていた。
柊はポケットから霊玉を取り出し、手の平から浮かし、

「ああ、いつでもいいぞ。」

「よし・・・はじめ!!」

と龍限が言うと、玉は勢いよく入口にはいり、
パイプの中で時々ぶつかるような音を鳴らしながら
玉は一気に出口に向かっていく。
出口から出てきたところでストップウォッチを止めて
なにやら龍限が考えている。
すると、

「まぁ、半月でこれぐらいなら十分合格点をやれるじゃろう。」

といって微笑んだ。

「じゃが、まだコントロールが甘いから
これからも続けたほうがよいかもな。」

「ああ、もうちょっと自分なりに訓練してみる。」

「今度は霊玉じゃなくて自分の体に纏って訓練するとよいじゃろ。」

「わかった。」

「さて、もう夜遅いから早く帰って寝なさい。明日も学校じゃろ?」

柊は壁に掛けてある時計を見るともう日付が変わっていた。

「じゃあ、また今度修行の成果をみてくれ。」

と言って柊は家に帰った。


翌日、柊は眠そうな顔をしながら登校していた。
眠そうな顔と言っても普段と変わらない顔をしているので分かりづらい。
教室まで来て自分の机に座ったところで廊下から
何やら騒がしい音が聞こえてきた。

「おーい!今日、うちのクラスに転校生が来るんだって!!」

と騒いで入って来たのは、茶髪でツンツン頭がトレードマークで、
この学年のムードメーカの地島 大地(ちしま だいち)だ。
彼の体の中には黒い亀がいる。
種類的に見ると大地の中にいる亀は玄武だということがわかっている。

「しかも女の子だってよ!!」

と大地が言うとクラスの男子がおお~っと歓声をあげた。
男子がハイテンションになっていると葵が声をかけてきた。

「シュウは嬉しくないの?」

葵はなぜか柊を睨んでいる。

「あんまり興味が無い。」

「ふ~ん、そう。」

と言って葵は自分の席に戻った。

鐘が鳴り、みんなは急いで席に着いた。
柊は当然机に突っ伏して寝ている。
そして、クラスの担任が教室に入ってきて

「みんなは、もう知っているかもしれないが
今日このクラスに新しい友達が転校してきます。」

担任は長々と話を始めそうだったので

「先生ー、前置きはいいから早く呼んでくれよ。」

と大地が担任を急かす。

「そうだな、じゃあ入ってもらおうか、炎道さん入ってきてください。」

と言うと教室の扉がガラッっと開き、炎道という女子がはいってきた。
男子は一斉に歓声をあげた。
なかにはガッツポーズをしている者もいる。
その女子は身長百六十センチと言ったところか。
女子にしては大きい。それに腰までありそうな赤く長い髪を後ろで縛り、
ポニーテールにしている。
そして、足が長くルックス抜群の女子だった。

「炎道舞火(えんどうまいか)です。よろしくお願いします。」

とみんなに微笑んだ。

朝のホームルームが終わり、
舞火の席の周りにはたくさんの生徒でいっぱいだった。
その中には葵の姿もある。
どこから転校してきたのか、誕生日はいつなのか、
など次々と質問している。
舞火はその質問を返していた。

一時間目の授業終了の鐘が鳴った時、柊の頭をゴンッっと殴る者がいた。
今の今まで寝ていた柊は殴られた箇所をさすりながら起き上がった。
目の前には葵が立っていた。

「アンタいつまで寝てるの?」

と言われ、柊は後ろにいた女子に気づいた。舞火である。
この短時間で葵は舞火と仲良くなったみたいだ。

「炎道さん、こいつが黒飛 柊、私の腐れ縁の幼馴染よ。
無口で無愛想だけどちゃんと話ができる奴だから気軽に話しかけてね。」

と舞火に紹介している。

「ほら、シュウもちゃんと自己紹介して。」

葵は柊を急かす。
柊は立ち上がり、初めて炎道 舞火という人物を視た。
それを視たとき、柊は固まった。
なぜなら、その炎道 舞火が可愛いからではない。
たしかに舞火は、普通に見れば可愛いのだが、
柊はそんなことよりも舞火の中にいるものを視て固まってしまったのだ。
舞火の中にいたのは長く美しい尾羽を持った赤い鳥、
昔見た『幻の生物』という事典のイラストに書いてあった
朱雀によく似ている。
柊はそのまま固まっていると、突然顔面をハリセンで殴られた。
柊は殴ってきた葵を見る。
葵の周りには何やら物凄い殺気が満ちている。

「あんた、いったいどこを見てるの?」

怒りを押し殺したように葵が問う。

「どこって・・・」

柊は視線を戻すとそこには朱雀がいる。
だが朱雀がいる位置には、舞火の心臓がある辺りで
そこにある物と言えば・・・
柊はなんで葵が怒っているのかを悟り。

「・・・・ごめんなさい。」

「ワ・タ・シに謝るなー!!」

ついに葵はキレた。
葵は自分の得物を振り上げる。
手に持っているのはハリセンではなく、
いつの間にか金属バットに変わっていた。
さすがにあれを喰らったらただじゃ済まないので、柊は全力でかわした。
振り下ろされたバットは空を切り、地面にぶつかる。
地面が少しへこんでしまった。
葵は肩でハァハァっと息をついている。
それを見ていた舞火は苦笑いをしていた。

「と、とにかく、俺の名は黒飛 柊だ。よろしく。」

と挨拶をしておいた。

「シュウ!!」

葵はまだ怒っているらしく、柊を追いかけてきた。
柊は当然全力で逃げた。

葵との追いかけっこに見事に逃げ切った柊は疲れ果てて
二時間目は爆睡していた。
後ろから葵がシャーペンで突付いてくるが全然気にしない。
しかし、授業をしている教師はそれを許さず、

「黒飛、この問題を解いてみろ。」

と言ってきた。
柊は仕方ないと思いながら立ち上がり、
目を擦りながら黒板の前に立って問題を解き始めた。
解き終わると教師は

「黒飛、お前は何をしているんだ?」

と言うので

「問題を解いただけですけど。」

「黒飛、今は数学の時間だぞ!
誰が問題文を英訳しろと言った!ていうかこれ何語だ?」

「これはロシア語です。」

「そんなもんはどうでもいい!ちゃんと数式を書け!!」

怒られてしまった。
柊は言われたとおりに数式を書き始めた。
その間

「おいおい、シュウ、寝ぼけて頭のネジでも外れたか?」

「いつも寝てるのはいいけど、程々にしとけよ。」

などと数人の男子が茶々をいれてくる。
式の証明が終わり、

「よし、戻っていいぞ。」

教師が言って柊を座らせ、さっき柊が解いた問題の解説を始めた。

二時間目もつつがなく終わり、
三時間目は教室移動なのでみんなは教科書を持って教室を出て行く。
柊がA組前を通ると教室の中で舞火と龍太が話をしているの見た。
(なるほど、炎道は龍太とつながりがあるのか・・)
遠くから見ていると大地がなにやら舞火と龍太の所に行き、
何やら話し始めている。
柊はそれ以上見ているわけにはいかないので
目的地の教室にむかうため階段を下りた。

一日の授業が終わり、帰りのホームルーム前の時間。
大地が柊に話しかけてきた。

「シュウ聞いてくれよ!
炎道さんがあの龍峰が仲良さそうに話してたんだよ!!」

「それがどうした?」

「悔しいと思わないか!?羨ましいと思わないのか!?」

と大地が柊にすごんでくる。

「思わない。」

柊の反応は実に素っ気無かった。

「くっそ、なんでだ?なんで龍峰なんだーー!!」

大地は頭を抱えて小さな声で唸っている。

「そんなに気になるなら、後でもつけてみたらどうだ?」

柊はそう提案した。

「そうか!そういう手があった!」

大地は難問のパズルが解けた解きの様にスッキリした顔になった。
(まあ、頑張れ。)
と柊は心の中で応援した。


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