男女差別訴訟和解についての解説
なお、昇給・昇格での男女差別訴訟で、昇格にまで踏み込んで和解が成立したのは異例である。
【 概要 】
住友電気工業の女性社員2人が「女性であることを理由に昇進などで不当な差別を受けた」として、同社と国を相手取って男性との賃金差額分などの損害賠償を求めた訴訟が大阪高裁で和解した。
和解では、同社が二人（1名は係長級（主査）、もう1名は役職なし）を昇格させることと解決金として１０００万円支払うことで合意。国との間でも、厚生労働大臣が男女差別解消を企業に促す施策を展開することを約束し、和解（平成15年12月24日）した。
具体的には、会社は、同社の女性社員2名に対し、一人を課長級（主席）に、もう一人を係長級（主査）に昇格させ、1人500万円の解決金を支払うことなどを約束した。
また国との和解内容には、【1】雇用方法が実質的に性別による管理になっていないか、厚生労働省が十分注意を払い必要な施策を推進する。【2】差別を早期解決するために設けられた男女雇用機会均等法の調停制度を積極的に活用するなどが盛り込まれた。
二人は、95年に提訴。調停の申請を門前払いされたとして国も被告に加えた。採用段階から男女を別扱いにしていた人事制度の違法性が争点になり、平成12年7月の一審大阪地裁判決は「差別を禁じた憲法の趣旨に反するが、採用時点で公序良俗に反したとはいえない」として二人の請求を退けていた。
【 解説 】
住友電工での男女差別訴訟で、一審で敗訴した原告が「勝訴判決にも等しい」と評価する内容で和解した。背景には、男女差別解消を望む裁判所の強い意欲が伺える。
住友電工は、「専門職」と「事務職」のコース別採用を導入し、原告の女性社員2人は「事務職」採用だった。今回の裁判で、原告2人は、同じ高卒で同期入社の男性社員が、3年ほどの実務経験を経て全員「専門職」に転換したのに、女性は試験を受ける機会も無く「事務職」のままにされたことが差別に当たると主張した。こうした雇用管理は、85年の男女雇用機会均等法制定後も、男性社員の多くが「総合職」として採用される一方、女性社員は「一般職」とされるなど、事実上の「男女コース別採用」として問題となった。
今回、高裁は「女性が差別されない社会は世界の共通認識だ。直接的な差別だけでなく、間接的な差別に対しても十分な配慮が求められている」と異例の指摘をして、国と住友電工に勧告に応じるように促した。国連の女性差別撤廃委員会は昨夏、コース別採用などにまぎれた「間接差別」も女性差別として国内法で明確に定義づけるよう日本政府に勧告し、原告弁護団はこの内容を提出した。高裁の和解勧告の指摘は、こうした国際社会の動向をも念頭に入れたものである。
企業はリストラで正社員を減らす一方、女性の大半を雇用関係が脆弱な派遣社員として採用するなど新たな形の「男女間差別」が生じている。
国連委員会は昨年夏の勧告で「正規採用よりも給料が安いパートや派遣労働で女性の比率が高いことを懸念する」とも指摘した。今回の和解を契機に、国や企業は男女間差別の解消に向けて取り組むことが求められることになると考えられる。
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